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第2.5章『魔王懐柔編』
111 コレクター、悪魔と空中戦をする
しおりを挟む〈空間移動〉でアルゲン山脈に転移した俺とルインは、お互いに向き合いながらルールを決める。
時間を設定して上空に目印用の炎弾を発射するアイテムを地面に置き、準備を完了させる。
「戦闘領域はアルゲン山脈全域。戦闘開始は十分後このフレアの光が出てから。それで大丈夫?」
「了解。いつでもいいよ」
「じゃ、解散」
お互いにその場から離れ、時が経つのを待つ。
周りにはモンスターの気配もない。珍しいな、ここの主がドレイクに負けたのだから、今まで隠れていたモンスターが流れ込んで来ているものだと思っていたのだが。
岩陰に隠れながらルインをどうやって倒すのかを考える。
ただの悪魔なのなら普通に戦うだけでいいのだが、今回ばかりは油断してはならない。
相手はこちらの攻撃を予測して、いや、攻撃の未来を視てくるのだ。
こちらがいくらフェイントを入れたところでどう動くのかは筒抜けになってしまう。
それならまずは、知っていたとしても避けられないほどの範囲攻撃を仕掛けるか。それなら職業は【剣士】ではなく【魔術師】のままでいいだろう。
「そろそろか」
深呼吸をし心を落ち着かせる。
もうすぐ十分。そろそろフレアが空に上がるころだ。
日が落ち始め暗くなっていく空を見上げながらふと考える。ルインは本当に何者なのだろうか。
まあ、それもこの戦いで分かるだろう。少なくとも普通ではないのだから。
ドンッという音が遠方から聞こえ、炎弾が打ち上げられる。
始まりだ。まずは警戒しながらルインを探して……
「〔イビルレーザー〕」
「!?」
背後から飛んできた黒いレーザーを避ける。
咄嗟に避けたおかげでなんとかダメージを受けずに済んだ。気配に気づかなかった? 普通の〈潜伏〉ならば気づくことができるはず。
それなら、〈認識阻害〉だろうか? しかしあれは第四魔法。エルフも数人がかりで発動させるようなカテゴリーのはずだ。
それだけオルタガの魔法技術が発達しているということか。やはり侮れない。
「よく避けたね。流石だよ、レクトくん」
「まだ始まったばっかりなのに飛ばすね」
「当然。攻撃を開始していい合図でしょう? それならそれまでに隠れて近づいても構わないはずだけど?」
「確かに。ぐうの音も出ないね」
開始前に近づいてはいけない、なんてルールは決めていない。
なので極論を言えば、あのままお互いに離れずに開始を待ってもよかったのだ。その選択肢を考えていなかった俺が悪いんだけどね。
「それじゃあ仕切り直して、〔イビルレーザー〕!」
「危ないっ! ならこっちからいくよ」
またしても飛んできた黒いレーザーを避けながら魔法の準備をする。
「〈炎帝〉」
「っ、これが第五魔法……!」
真っ赤な炎がルインに襲い掛かる。
しかしそれを予測していたようで、ルインは俺が魔法を放つよりも早く範囲から出ようとした。
それでも範囲が広かったのかほんの少しだけ服が焦げる。上手く組み合わせれば魔法を当てることができそうだ。
「〈浮遊〉」
「空中戦ね」
俺が魔法を発動させるよりも早くルインも翼を広げる。
悪魔族は魔法を使わなくても空を飛べるから羨ましい。そのうえ予測されてしまったら上を取られてしまう。
ルインのほうが少しだけ高度があるため、上からの攻撃を受けてしまう。一旦逃げ一択かな。
「逃がさないよ! 〈雷撃〉!」
「やっば!」
後ろから追ってくるルインから逃げながら、雷魔法を避け続ける。
ルインの発動させる〈雷撃〉は俺の使う〈雷撃〉の色とは違い黒に近い紫色をしていた。
威力が通常の物とは違うのだろう。当たりたくない。
「〈氷雪崩〉!」
後方に〈氷雪崩〉を発動させルインに攻撃する。
次々と落ちてくる氷塊を、ルインはひょいひょいと簡単に避ける。当たりはしないが速度を落とすことには成功した。
これだけ離れればこっちからも攻撃に集中できる。
「〈風球〉!」
一度の詠唱で同時にいくつもの球を出すことができる第一魔法でルインに攻撃する。
強力な魔法も大事だが、攻撃を予測されるのなら予測しても避けるのが難しい攻撃を加えればいい。
具体的には、弾幕を張るのだ。複数の魔法で逃げ場をなくし、こちらへ攻撃する余裕をなくしていく。
「おまけに、くらえ!」
俺はストレージから取り出した『スタングレネード』をルインに向かって投げる。
閃光と爆音。俺も光の影響は受けるので、なるべく目を隠しつつ様子を見る。
「ぐっ、ああああ!!!」
視界を奪われたルインに氷塊が直撃する。
悪く思わないでくれ、と追撃に向かうが、ルインは落下せずに飛び上がった。
驚きつつも反撃されないように警戒する。
「はっ、ははははははははは!! そうだよね、そう簡単にはいかないよね……」
笑っている?
一部とはいえ第四魔法が直撃して笑えるなんて。
「ちょっと悔しいけど……手加減なんて、しちゃいけないよねぇ!!!」
ルインがそう叫ぶと、両手から黒い何かが放出された。
同時に体の周りからオーラが出始める。なんだ、何が起こった。
いや、それよりも手加減されていたとは。おそらく、俺を殺さないように気を付けていたのだ。
ここからは本気の戦い。獣王戦と同じく、死の危険が漂う血生臭い戦いだ。
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