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2話 夢が生々しすぎる
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「蓮」
「うん?」
「私、今日はちょっと寒いな~」
「いや、夏場でしょ?大して寒くもなにもないでしょ?」
「ふうん、そんなに私とキスしたくないんだ?」
「5分前に寒いと言ってキスしたばっかじゃんか!」
それは、かつて幼馴染だった二人きりの隠語。
10歳の頃からずっと続いていた魔法の言葉だった。
莉愛が寒いと言えば、蓮が決まって莉愛を抱きしめてキスをしてあげること。
二人は夫婦になってからもその言葉はまだ生きていて、その約束は7月の真夏にも使われていた。
「キスにクールタイムがあるわけでもないじゃん!ぶぅ……このケチ」
「なんでまた拗ねてるんだよ……!理不尽なことを言うのは莉愛でしょ!?」
「ああ~~とうとう私も旦那様に飽きられちゃったか~~それはそうだよね。結婚して10年も経って子供も二人産んで、もう立派なおばさんになったもんね~~」
「いえいえ、莉愛さんは相変わらず綺麗ですよ?俺が莉愛さんに飽きるなんてありえないじゃないですか……!」
蓮は額に青筋を立てながら言っていたけど、彼の言葉には本音も込められていた。
だって、莉愛は今も抜群に綺麗で、美人なのだ。アメリカ人のハーフであるおかげで髪はサラサラな金髪だし、瞳も青い。
もちろん、彼女の魅力はそれだけじゃなかった。
真っ白でつやのある肌、夫に好かれたくて毎日運動しているおかげで割れている腹筋に、出るとこはしっかり出ている体つき。
20代前半と言われても全く違和感がないくらい、七瀬莉愛という人間は綺麗で。
だけど、その感想をすべて漏らしてしまったら、死ぬほどからかわれるのもまた確定なので。
蓮はふうとため息をつきながら、無言で両腕を広げた。
「…………遅い」
そうしたら、待っていたとばかりに莉愛はその懐に飛び込んで、愛する夫を見上げる。
10年が経っても色っぽく感じられる視線に、蓮の心臓がドクンと鳴る。
二人はそのままお互いを見つめ合って、頬を赤らませたまま幸せに笑った。
「大好きだよ、蓮」
「俺も、大好き」
そのまま、お互いの唇が触れ合おうとしたところで――――
「あ~~母ちゃんたちまたちゅっちゅしてる~~」
「ちゅっちゅ、ちゅっちゅ」
「…………」
「…………」
いつの間に起きた二人の娘に、その現場を目撃され。
二人はお互いを見合わせながら、ぎこちなく笑うのだった。
――――という夢を毎日のように見ている莉愛は、もう爆発寸前だった。
「……最悪」
火照り切った顔はどうしても落ち着いてくれない。心臓は未だにバクバク鳴っていて、本当にどうにかなりそうだった。
ここは、元カレ幼馴染である日比谷蓮の家。
2階にある一室を貸してもらっている莉愛は、両手で顔を覆いながらベッドの上で悶えていた。
「ああ、もう……!なんなの、本当に!」
別に、私はあの男なんか好きでもなんでもないのに!!
私たちは別れたのに……!あんなひどい別れ方して、お互いこっぴどく傷つけ合ったのに!
なのに、なんなのこの夢?なんなのこの夢!?ウソでしょ!?
「うぅぅ……今日で、36回目」
スマホのキャレンダーアプリでメモを入れてから、莉愛は深いため息をついた。
初めてこの夢を見た時は、ただただ無視しようとしていた。
もちろん、今以上に悶えて苦しんで布団を何回も蹴り上げたけれど、それでもできるだけ無視しようとしていたのだ。
しかし、あまりにも生々しすぎるこの夢は、一向に流されてはくれず。
結局、莉愛はある結論に至ったのであった―――自分が見ているこれは、間違いなく未来のことだと。
「……別に、好きでもなんでもないのに」
頭がいかれている話だという自覚はあるけど、莉愛には確信めいた感覚があった。
だって、夢の中の自分はあまりにも当たり前のように、すべてを受け入れているから。
蓮が自分を好きなのも、愛してくれるのも当たり前。
キスをするのも当たり前で、夜にちょっと……いや、だいぶエッチなことをするのも……当たり前。
幸せになるのも当たり前で、幼い頃の魔法の言葉もちゃんと使われていて、そこにはなんの違和感もないから。
「私の、バカ……」
……非科学的で、ありえないこと。でも、あまりにも鮮明で現実のような夢。
その狭間でずっと悩まされて、どんどん耐えきれなくなってついに打ち明けたというのに……あいつは、そんなわけないって言っちゃうし。
「ふん、バカ」
本当に大嫌い。うん、これが未来なはずがないよね!
莉愛は自分にそう言い聞かせて、ラフな服装のまま部屋を出た。
あいつは、起きているのかな。まだ寝ているなら朝ごはんでも作ってあげよう。
居候する身だから、それくらいはちゃんとしてあげないと。
そう思って、莉愛が1階にあるリビングに降りたところで―――
「あ、おはよう。莉愛」
そこには、エプロン姿で料理をしている蓮がいて。
莉愛は目を丸くして、咄嗟に聞いてしまった。
「えっ、なにやってるの?」
「うん?料理」
「なんで料理?」
「うん?だって朝ごはん作らなきゃいけないじゃん」
蓮は笑いながら、朝ごはんの味噌汁の味見をする。
……認めたくないけど、イケメンの範疇に入るこの男は、味噌汁の味見をするだけでも妙に絵になる。
莉愛はその事実を悔しく思いながら、蓮に近寄った。
「……卵焼き」
「ああ、好きだろ?」
「私のために作ってくれたの?」
「…………」
核心を突いた質問に、蓮は何も答えずそっぽ向く。耳たぶが少し赤くなっていた。
その耳たぶを見ていると、莉愛の顔にも徐々に熱が上がってきて。
『本当に、なんなのよこいつ……!』
大嫌いな元カレ幼馴染を前にして、またもや手で顔を隠すのだった。
「うん?」
「私、今日はちょっと寒いな~」
「いや、夏場でしょ?大して寒くもなにもないでしょ?」
「ふうん、そんなに私とキスしたくないんだ?」
「5分前に寒いと言ってキスしたばっかじゃんか!」
それは、かつて幼馴染だった二人きりの隠語。
10歳の頃からずっと続いていた魔法の言葉だった。
莉愛が寒いと言えば、蓮が決まって莉愛を抱きしめてキスをしてあげること。
二人は夫婦になってからもその言葉はまだ生きていて、その約束は7月の真夏にも使われていた。
「キスにクールタイムがあるわけでもないじゃん!ぶぅ……このケチ」
「なんでまた拗ねてるんだよ……!理不尽なことを言うのは莉愛でしょ!?」
「ああ~~とうとう私も旦那様に飽きられちゃったか~~それはそうだよね。結婚して10年も経って子供も二人産んで、もう立派なおばさんになったもんね~~」
「いえいえ、莉愛さんは相変わらず綺麗ですよ?俺が莉愛さんに飽きるなんてありえないじゃないですか……!」
蓮は額に青筋を立てながら言っていたけど、彼の言葉には本音も込められていた。
だって、莉愛は今も抜群に綺麗で、美人なのだ。アメリカ人のハーフであるおかげで髪はサラサラな金髪だし、瞳も青い。
もちろん、彼女の魅力はそれだけじゃなかった。
真っ白でつやのある肌、夫に好かれたくて毎日運動しているおかげで割れている腹筋に、出るとこはしっかり出ている体つき。
20代前半と言われても全く違和感がないくらい、七瀬莉愛という人間は綺麗で。
だけど、その感想をすべて漏らしてしまったら、死ぬほどからかわれるのもまた確定なので。
蓮はふうとため息をつきながら、無言で両腕を広げた。
「…………遅い」
そうしたら、待っていたとばかりに莉愛はその懐に飛び込んで、愛する夫を見上げる。
10年が経っても色っぽく感じられる視線に、蓮の心臓がドクンと鳴る。
二人はそのままお互いを見つめ合って、頬を赤らませたまま幸せに笑った。
「大好きだよ、蓮」
「俺も、大好き」
そのまま、お互いの唇が触れ合おうとしたところで――――
「あ~~母ちゃんたちまたちゅっちゅしてる~~」
「ちゅっちゅ、ちゅっちゅ」
「…………」
「…………」
いつの間に起きた二人の娘に、その現場を目撃され。
二人はお互いを見合わせながら、ぎこちなく笑うのだった。
――――という夢を毎日のように見ている莉愛は、もう爆発寸前だった。
「……最悪」
火照り切った顔はどうしても落ち着いてくれない。心臓は未だにバクバク鳴っていて、本当にどうにかなりそうだった。
ここは、元カレ幼馴染である日比谷蓮の家。
2階にある一室を貸してもらっている莉愛は、両手で顔を覆いながらベッドの上で悶えていた。
「ああ、もう……!なんなの、本当に!」
別に、私はあの男なんか好きでもなんでもないのに!!
私たちは別れたのに……!あんなひどい別れ方して、お互いこっぴどく傷つけ合ったのに!
なのに、なんなのこの夢?なんなのこの夢!?ウソでしょ!?
「うぅぅ……今日で、36回目」
スマホのキャレンダーアプリでメモを入れてから、莉愛は深いため息をついた。
初めてこの夢を見た時は、ただただ無視しようとしていた。
もちろん、今以上に悶えて苦しんで布団を何回も蹴り上げたけれど、それでもできるだけ無視しようとしていたのだ。
しかし、あまりにも生々しすぎるこの夢は、一向に流されてはくれず。
結局、莉愛はある結論に至ったのであった―――自分が見ているこれは、間違いなく未来のことだと。
「……別に、好きでもなんでもないのに」
頭がいかれている話だという自覚はあるけど、莉愛には確信めいた感覚があった。
だって、夢の中の自分はあまりにも当たり前のように、すべてを受け入れているから。
蓮が自分を好きなのも、愛してくれるのも当たり前。
キスをするのも当たり前で、夜にちょっと……いや、だいぶエッチなことをするのも……当たり前。
幸せになるのも当たり前で、幼い頃の魔法の言葉もちゃんと使われていて、そこにはなんの違和感もないから。
「私の、バカ……」
……非科学的で、ありえないこと。でも、あまりにも鮮明で現実のような夢。
その狭間でずっと悩まされて、どんどん耐えきれなくなってついに打ち明けたというのに……あいつは、そんなわけないって言っちゃうし。
「ふん、バカ」
本当に大嫌い。うん、これが未来なはずがないよね!
莉愛は自分にそう言い聞かせて、ラフな服装のまま部屋を出た。
あいつは、起きているのかな。まだ寝ているなら朝ごはんでも作ってあげよう。
居候する身だから、それくらいはちゃんとしてあげないと。
そう思って、莉愛が1階にあるリビングに降りたところで―――
「あ、おはよう。莉愛」
そこには、エプロン姿で料理をしている蓮がいて。
莉愛は目を丸くして、咄嗟に聞いてしまった。
「えっ、なにやってるの?」
「うん?料理」
「なんで料理?」
「うん?だって朝ごはん作らなきゃいけないじゃん」
蓮は笑いながら、朝ごはんの味噌汁の味見をする。
……認めたくないけど、イケメンの範疇に入るこの男は、味噌汁の味見をするだけでも妙に絵になる。
莉愛はその事実を悔しく思いながら、蓮に近寄った。
「……卵焼き」
「ああ、好きだろ?」
「私のために作ってくれたの?」
「…………」
核心を突いた質問に、蓮は何も答えずそっぽ向く。耳たぶが少し赤くなっていた。
その耳たぶを見ていると、莉愛の顔にも徐々に熱が上がってきて。
『本当に、なんなのよこいつ……!』
大嫌いな元カレ幼馴染を前にして、またもや手で顔を隠すのだった。
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