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14話 悪質極まりない同盟
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「白水さんはなに飲む?」
「私は期間限定のメロンフラペチーノ!山本君は?あ、ちなみに……そこの二人はなに頼むの?」
由奈は振り向いて、ぎこちなく立っている元恋人―――日比谷蓮と七瀬莉愛に質問を投げかけた。
二人は気まずそうに顔をそらしたまま、メニュー表も見ずにバッチリお互いを意識している。
あまりの初々しい光景に、前に立っている二人はついクスッと笑ってしまった。
「……俺はコールドブリューで」
「えっ、うそ。あなた苦いの飲めないじゃん」
「もうコーヒーくらいは普通に飲めるんだから!君こそ、お好みのキャラメルフラペチーノでも頼んだら!?」
「わ、私はもう甘々系は卒業したから!私はアメリカ―ノで!」
なに、こいつら。なんでお互いの好みを全部知ってんの。
由奈と陽太は少し呆れたように二人を見た後、注文を済ませて窓際の席に座った。
続いて飲み物を取ってきた蓮と莉愛も座り、奇跡的な4人パーティが結成された。陽太と由奈は胸をなでおろす。
駅前で鉢合わせた時、蓮と莉愛はすぐに知らないふりをして別々に行動しようとしていたのだ。
それをなんとか引き留めて一緒にランチを食べてカフェーまで来たんだから、中々の収穫だと言えるだろう。
蓮と莉愛と同じく、向かい合って座った陽太と由奈は少しだけ目を合わせた後に、二人同時で頷いて立ち上がる。
「ちょっとトイレ行ってくるね~」
「あっ、私も~!」
「えっ?いや、どこに行くんだよ!このタイミングで二人同時はおかしいだろ!?」
「別におかしくはないだろ?行くか、白水さん」
「そうだね~じゃ、莉愛。あとは二人でごゆっくり~」
「ちょっ……!?」
二人きりの時間を作ってあげよう。
その目的を隠す気さえ全くない二人は、そそくさとトイレに行くふりをして―――カフェの外に出て、待っていたかのように話を始めた。
「白水さん、君も?」
「山本君も!?」
「ああ、なんだ~~白水さんもやっぱ気づいていたのか。いや、当たり前かな?七瀬さんもいつも一緒だし」
「そうなの、そうなの!気づかないわけがないじゃん!ていうか、山本君も日比谷と仲いいから、気づくの当たり前だよね」
「そう、あいつらは―――」
「あの二人は―――」
「「どう見ても両想いだから」」
同じタイミングで同じ言葉を放った二人は、ゆっくりと頷く。
それからは当たり前のようにハイタッチを交わし、二人は同時に言い出した。
「まあ、蓮はどうやら七瀬さんと一回別れたらしいけど、七瀬さんのこと未だに気にしてるし」
「莉愛はもう説明の必要がないくらい日比谷一筋だし。だから、私たちは適当に二人をくっつけながら、イチャイチャするのを間近で鑑賞すればいいだけ!」
「よし、手を組もうか、白水さん!これからよろしくな!」
「うん、一緒に二人のイチャイチャをめいっぱい楽しもう?」
悪質極まりない親友同士の同盟が結ばれる瞬間だった。
一方、由奈たちが席を去ってから残された蓮と莉愛は、未だに気まずそうな顔をしたまま窓の外を眺めていた。
だけど、ついに沈黙に耐えられなかったのか。蓮はため息をつきながら話を切り出す。
「まさかここで買い物してたのか……で、なに買ったんだ?」
「むぅ……あなたには関係ないじゃん」
「あっ、そんな冷たい反応でいいのか~?友達だろ?」
「……ファウンデーション」
「うん?化粧品?」
「うん。新しいの買おうと思って」
そっか、昔から週末にはけっこう……いや、自分の前ではいつも化粧をしていたから。
そんな内容を思っているのと同時に昔の莉愛が思い出されて、蓮は少し苦しい顔になる。
「……そっか」
「なに、その顔」
「うん?」
「……気に食わないって顔してるじゃん」
言葉通り、蓮は少し沈んだ顔になって莉愛の紙袋をジッと見つめていた。
知らない莉愛が増えていくのが何故か、納得できなかったのだ。
莉愛が化粧している顔は既に何十回も見たのに、あの頃より莉愛はだいぶ大人っぽくて、綺麗になって。
もう、あの頃ほど間近でその顔を見ることはない―――そう思うと、やけに心が苦しくなって。
それで苦しくなってしまう自分がもっと嫌いになって、蓮はつい顔をしかめたのだ。
結局、自分の意識はまだ莉愛から一ミリたりとも離れていないことを、分かってしまったから。
「ナチュラルなものに買ったから」
「は?」
「目立たない程度の、自然なものに買ったから……そんな顔しないでよ」
「………………………………」
それは、付き合っていた頃。
派手に化粧をした莉愛をからかって泣かせてしまった蓮が、彼女を宥めながら言った言葉だった。
目立たない程度の、ナチュラルにしてくれたら嬉しいかも、と。
それを、なんでこいつは覚えているんだろう。
そもそも、なんで別れた今、あえてその言葉を蒸し返すのだろう。
「……莉愛」
「うん?」
「あんまり、俺のこと意識しなくてもいいから」
蓮は苦笑を浮かべながら、心臓がキュッと痛くなるのを感じながらも、言葉を続けた。
「一緒に住んでいるとはいえ、彼氏や好きな人ができたら家に連れ込んでも構わないからさ。俺は必死にいないふりするし、君の恋路を邪魔しないようにするから」
「…………………」
「だから、派手なヤツにしてもいいぞ?週末にデートする時なんかは別に悪くな――――」
「家に連れ込む男なんていない」
莉愛は少しだけムッとなって、蓮の言葉を遮った。
「他に好きな人もいないし、派手なメイクは嫌いなの。私は、そもそも……あなたのこと、そこまで意識していないから」
「……そっ、か」
「そうよ。友達でしょ?ただの友達だから、なんでもないもん。別に、あなたのせいで恋愛ができないとか、あなたを思ってこのファウンデーションを買ったわけじゃないから」
……………ウソだ。
全部強がりだ。莉愛は分かっていながらも、そう言うしかなかった。
他の男のことを堂々と口にする蓮に、耐えられなかったから。
まるで、他の男と付き合うことを勧めるような蓮の言動が、気に食わないから。
分かっている。分かってはいる。蓮が正しくて、未だに未練がましい自分が間違っているのだと。
でも、莉愛は思わざるを得なかった。
本当に、私が他の男と付き合っても大丈夫なの?と。
「そっか、ならよかったわ。ははっ」
「………」
いつもいつも、平然と笑うだけ。必死に茶化すだけ。
モヤモヤが段々と積もっていく途中、ついに由奈と陽太が席に戻ってきた。
そして、席に座るなり、由奈は連に向かって言う。
「そういえば、日比谷。私たち、この後に服買いに行くんだけど」
「えっ?」
ちょっと待って、そんなこと聞いてないけど!?
でも、そんな莉愛の意思も知らんぷりをして、由奈はにっこりと笑った。
「だから、一緒に服買いに行かない?山本君も一緒に行くって言ってたし!」
「私は期間限定のメロンフラペチーノ!山本君は?あ、ちなみに……そこの二人はなに頼むの?」
由奈は振り向いて、ぎこちなく立っている元恋人―――日比谷蓮と七瀬莉愛に質問を投げかけた。
二人は気まずそうに顔をそらしたまま、メニュー表も見ずにバッチリお互いを意識している。
あまりの初々しい光景に、前に立っている二人はついクスッと笑ってしまった。
「……俺はコールドブリューで」
「えっ、うそ。あなた苦いの飲めないじゃん」
「もうコーヒーくらいは普通に飲めるんだから!君こそ、お好みのキャラメルフラペチーノでも頼んだら!?」
「わ、私はもう甘々系は卒業したから!私はアメリカ―ノで!」
なに、こいつら。なんでお互いの好みを全部知ってんの。
由奈と陽太は少し呆れたように二人を見た後、注文を済ませて窓際の席に座った。
続いて飲み物を取ってきた蓮と莉愛も座り、奇跡的な4人パーティが結成された。陽太と由奈は胸をなでおろす。
駅前で鉢合わせた時、蓮と莉愛はすぐに知らないふりをして別々に行動しようとしていたのだ。
それをなんとか引き留めて一緒にランチを食べてカフェーまで来たんだから、中々の収穫だと言えるだろう。
蓮と莉愛と同じく、向かい合って座った陽太と由奈は少しだけ目を合わせた後に、二人同時で頷いて立ち上がる。
「ちょっとトイレ行ってくるね~」
「あっ、私も~!」
「えっ?いや、どこに行くんだよ!このタイミングで二人同時はおかしいだろ!?」
「別におかしくはないだろ?行くか、白水さん」
「そうだね~じゃ、莉愛。あとは二人でごゆっくり~」
「ちょっ……!?」
二人きりの時間を作ってあげよう。
その目的を隠す気さえ全くない二人は、そそくさとトイレに行くふりをして―――カフェの外に出て、待っていたかのように話を始めた。
「白水さん、君も?」
「山本君も!?」
「ああ、なんだ~~白水さんもやっぱ気づいていたのか。いや、当たり前かな?七瀬さんもいつも一緒だし」
「そうなの、そうなの!気づかないわけがないじゃん!ていうか、山本君も日比谷と仲いいから、気づくの当たり前だよね」
「そう、あいつらは―――」
「あの二人は―――」
「「どう見ても両想いだから」」
同じタイミングで同じ言葉を放った二人は、ゆっくりと頷く。
それからは当たり前のようにハイタッチを交わし、二人は同時に言い出した。
「まあ、蓮はどうやら七瀬さんと一回別れたらしいけど、七瀬さんのこと未だに気にしてるし」
「莉愛はもう説明の必要がないくらい日比谷一筋だし。だから、私たちは適当に二人をくっつけながら、イチャイチャするのを間近で鑑賞すればいいだけ!」
「よし、手を組もうか、白水さん!これからよろしくな!」
「うん、一緒に二人のイチャイチャをめいっぱい楽しもう?」
悪質極まりない親友同士の同盟が結ばれる瞬間だった。
一方、由奈たちが席を去ってから残された蓮と莉愛は、未だに気まずそうな顔をしたまま窓の外を眺めていた。
だけど、ついに沈黙に耐えられなかったのか。蓮はため息をつきながら話を切り出す。
「まさかここで買い物してたのか……で、なに買ったんだ?」
「むぅ……あなたには関係ないじゃん」
「あっ、そんな冷たい反応でいいのか~?友達だろ?」
「……ファウンデーション」
「うん?化粧品?」
「うん。新しいの買おうと思って」
そっか、昔から週末にはけっこう……いや、自分の前ではいつも化粧をしていたから。
そんな内容を思っているのと同時に昔の莉愛が思い出されて、蓮は少し苦しい顔になる。
「……そっか」
「なに、その顔」
「うん?」
「……気に食わないって顔してるじゃん」
言葉通り、蓮は少し沈んだ顔になって莉愛の紙袋をジッと見つめていた。
知らない莉愛が増えていくのが何故か、納得できなかったのだ。
莉愛が化粧している顔は既に何十回も見たのに、あの頃より莉愛はだいぶ大人っぽくて、綺麗になって。
もう、あの頃ほど間近でその顔を見ることはない―――そう思うと、やけに心が苦しくなって。
それで苦しくなってしまう自分がもっと嫌いになって、蓮はつい顔をしかめたのだ。
結局、自分の意識はまだ莉愛から一ミリたりとも離れていないことを、分かってしまったから。
「ナチュラルなものに買ったから」
「は?」
「目立たない程度の、自然なものに買ったから……そんな顔しないでよ」
「………………………………」
それは、付き合っていた頃。
派手に化粧をした莉愛をからかって泣かせてしまった蓮が、彼女を宥めながら言った言葉だった。
目立たない程度の、ナチュラルにしてくれたら嬉しいかも、と。
それを、なんでこいつは覚えているんだろう。
そもそも、なんで別れた今、あえてその言葉を蒸し返すのだろう。
「……莉愛」
「うん?」
「あんまり、俺のこと意識しなくてもいいから」
蓮は苦笑を浮かべながら、心臓がキュッと痛くなるのを感じながらも、言葉を続けた。
「一緒に住んでいるとはいえ、彼氏や好きな人ができたら家に連れ込んでも構わないからさ。俺は必死にいないふりするし、君の恋路を邪魔しないようにするから」
「…………………」
「だから、派手なヤツにしてもいいぞ?週末にデートする時なんかは別に悪くな――――」
「家に連れ込む男なんていない」
莉愛は少しだけムッとなって、蓮の言葉を遮った。
「他に好きな人もいないし、派手なメイクは嫌いなの。私は、そもそも……あなたのこと、そこまで意識していないから」
「……そっ、か」
「そうよ。友達でしょ?ただの友達だから、なんでもないもん。別に、あなたのせいで恋愛ができないとか、あなたを思ってこのファウンデーションを買ったわけじゃないから」
……………ウソだ。
全部強がりだ。莉愛は分かっていながらも、そう言うしかなかった。
他の男のことを堂々と口にする蓮に、耐えられなかったから。
まるで、他の男と付き合うことを勧めるような蓮の言動が、気に食わないから。
分かっている。分かってはいる。蓮が正しくて、未だに未練がましい自分が間違っているのだと。
でも、莉愛は思わざるを得なかった。
本当に、私が他の男と付き合っても大丈夫なの?と。
「そっか、ならよかったわ。ははっ」
「………」
いつもいつも、平然と笑うだけ。必死に茶化すだけ。
モヤモヤが段々と積もっていく途中、ついに由奈と陽太が席に戻ってきた。
そして、席に座るなり、由奈は連に向かって言う。
「そういえば、日比谷。私たち、この後に服買いに行くんだけど」
「えっ?」
ちょっと待って、そんなこと聞いてないけど!?
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