未だに大好きな元カノ幼馴染が、俺と結婚する未来を見ているらしい

黒野マル

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16話  運命に繋がっている服

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それから蓮たちは由奈と陽太と別れてから、同じ帰り道についた。

昔から一緒に帰ることは多かったものの、こうして同じ場所に帰るとなると、一緒に住んでいるという実感が湧いてくる。

莉愛は、隣で歩幅を合わせながら歩いている蓮をちらっと見て、質問を投げた。


「ねぇ、蓮」
「うん、なに?」
「……一緒に帰ってもよかったの?由奈はもちろん知っているけど、山本君はまだ知らないでしょ?私たちが一緒に住んでること」
「ははっ、帰る方向が同じってことで誤魔化せばいいだろ。それに、一人よりは二人の方が安全だし」
「うん?」
「……なんだかんだ言って顔はいいから、君」


少し照れくさそうに言う蓮を見て、莉愛は目を丸くして―――すぐに顔を染めた。

この男は、いつも不意打ちばかりする。昔からずっとそうだった。

莉愛は少しだけ悔しさを感じながら、蓮に言う。


「顔はいいからってなによ……私の中身は?」
「あっ、それ聞いちゃうのか~~やだな、それを聞いちゃうんですか~~!」
「わたし帰る」
「ぷふっ、どうせ帰る場所一緒だからな?」
「ぐぬぬ……!なら私の実家に帰る!!」
「一人で危ないだろ~?それに、実家と言ってもどうせ隣同士だしさ、別にいいじゃんか~」


蓮はそう言いながら、手に持っている紙袋を振りながら愉快そうに笑う。

そこで、ようやく紙袋の中身が気になった莉愛は、さっそく蓮に聞いた。


「というより、あなたはなに買ったの?あれ、アパレルショップで買ったやつだよね?」
「まあ、それはついてからのお楽しみってことで」
「ううん……?どうして?あんたの服買ったんじゃないの?」
「俺のも買ったけど……まあ」
「うん?」
「……家に帰ってから話すわ」


珍しく照れくさそうにしている横顔を見て、莉愛はすぐに察する。蓮が、自分のために何かを買ってくれたってことを。

これは、昔からの反応だった。蓮は妙なところで恥ずかしがり屋だから、とにかく誤魔化し方が下手すぎるのだ。

でも、今更なんでプレゼントなんかしてくれるんだろう。私たちは……別れたのに。

少し苦しい思いをしながらも、家にたどり着いてからお互いお風呂にまで入った後―――


「それで、結局なんなの?その中身は」
「……これ」


莉愛は、夢の中で自分が着ていた薄いピンク色の猫シャツを見て。

つい、大声で叫んでしまった。


「な、なっ――――きゃあああああっ!!」
「え、なに?なんでそんな反応!?」
「あ、あなた……これ、これ!!」
「えっ……?ただのシャツでしょ?ずっと欲しかったんじゃないの!?」
「ほ、欲しかったけどダメって言ったじゃん!なんで、これ……!」
「ええええ……?さすがに話が読めないんだけど。どうしてこのシャツがダメなのかちょっと教えてくれない?」


蓮は素直に理解ができなかった。

大体、莉愛の好みを踏まえると、彼女がこのシャツを気に入らないわけがないのだ。なのに、適切な理由もなくダメと言うだけだし。

それに、なんかすごく顔が真っ赤になってて……さすがに、蓮も少し違和感を抱いてしまう。

そして、莉愛は。


「うぅ……こ、この服。夢に出たものなの……!」
「え?」
「だから!!私とあなたが結婚する夢、毎日見てるじゃない!その夢に出たのよ!私がその服着て、あなたに抱き着く夢が……」
「………………あ、ぁ」
「だから、ダメって言ってたのに……うぅ」


莉愛はもはや両手で顔を隠して、ソファーに座ったままバタバタと足漕ぎをしていた。

蓮はただただぽかんと口を開けて、自分が持っているシャツをもう一度見下ろす。

これが、自分と結婚した莉愛が着る服……?いや、そんな偶然ある!?

でも、自分が知っている莉愛は決してウソをつかないし、そもそもウソをつく理由も見当たらなかった。

……だとしたら、ここで導き出される答えはただ一つ。


「じゃ、俺が着ようか?」
「ふざけてるの!?ねぇ、ふざけてるの!?」
「あははっ!ごめん、ごめん。この服は……そうだね。あとで返品するわ」
「えっ?」
「だって、着たくないんでしょ?俺と結婚する未来なんて嫌だろうし。この服もそんな嫌な夢の中にあったものだから、ちょっとアレじゃない?」


蓮は苦笑をこぼしながらそう言っていたけど、彼の心はチクチク痛んでいた。

そう、一度別れてしまったから、自分と莉愛は結婚できるはずがない。

なのに、心はずっと莉愛に傾けていて、でもそれを否定しなきゃいけないから……とにかく、心が苦しいのだ。

軽い冗談で茶化しても、やっぱりつらい。でも、彼女のためにはこの服を返品しなきゃと、蓮は思っていた。

しかし、莉愛は。


「…………………」


非常に長い間、沈黙を保った末に―――ゆっくりと、首を振った。


「……返品は、なし」
「えっ?ど、どうして?」
「どうしてって、せっかく私のために買ってくれたものじゃない。それを、私の我儘で受け取らないのもおかしいし……デザインは、確かに好きだし」
「いや、でも……」
「わ、私は別にあんな夢なんて意識してないから!」


それから、莉愛は耳たぶを赤くして自分に言い聞かせるように、言葉を続けた。


「だから、そんなに意識しないでよ……そもそも、あなたは私の夢のことなんてあまり信じてないでしょ?だから、いつも通りにやって」
「……………」
「ど、どうしてそんな顔なの?」
「……うん?なんか変な顔でもしてた?」
「してた。嬉しそうで……安心したような顔」
「……………」


チクっと心臓を突き刺すような言葉に、蓮はとっさに息を呑む。

それから、すぐに笑いながらいつもの茶化しを始めた。


「ぷふっ、想像力豊かすぎだろ、君」
「な、なっ……!?」
「嬉しがる理由がないだろ?別に、俺はその服にあんま思い入れとかないし!」


ウソだ。蓮は明らかに、莉愛がプレゼントを受け取ってくれて―――嬉しいと感じていた。

自分と結婚する未来に繋がっている怪しいものを、莉愛が受け取ってくれたから。

莉愛を思って渡したプレゼントが、ちゃんと受け取られたから。

でも、これは出してはいけない感情で、口にしてはマズい言葉。だから蓮は、あえて強がっているのだ。

だけど、それが単なる強がりってことを暗に察した莉愛は―――


「……ふん、バ~~カ。ありがとう。この服はちゃんと、大切に着るから」
「……うん」


蓮の手元にあるシャツを奪って、両腕でそれを抱きしめながら、ゆっくりと蓮を見上げる。

好きな人にもらったプレゼントだ。

その好きな人と結婚した後も着ていた服だった。それが大事じゃないわけがない。

それに、こんな偶然が重なるなんて、これじゃまるで――


『――運命、みたいじゃん……』


高校生にもなって幼稚な夢を見ているとは思うものの、どうしてもそう思わずにはいられなかった。

それほど、莉愛は蓮が大好きで。


「……ありがとう」
「……なんであなたが感謝するの。感謝しなきゃいけないのは、私でしょ?」
「いや、その………っ、なんでもない」
「……そう」


そして、同じく莉愛が大好きな蓮も。

結婚という小さな希望が潰されていないことが嬉しくて、ついつい言葉に詰まってしまうのだった。
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