未だに大好きな元カノ幼馴染が、俺と結婚する未来を見ているらしい

黒野マル

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19話  他の誰かと一緒にいるのが、想像できない

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嫉妬してくれるんだ。

そう思うと、余計に胸が高鳴ってどうにかなってしまいそうになる。

蓮は隣を歩いている莉愛をちらちら見ながら、深い息をこぼした。


『ああ、もう……なんでそんな錯覚させるような反応するんだよ、本当に』


あの時の莉愛は、明らかにモヤモヤしていた。

昔に練習した曲が終わった後、クラスの子たちがざわついている中で莉愛は明らかに、不機嫌だったのだ。

別に演奏が悪いから怒っているわけではないだろう。たぶん、いや間違いなく……。

自分だけが聞いていい曲を、勝手にみんなの前で演奏してしまったから。

別れてもなお、自分を独占しようとしているから。蓮は間違いなく、それが理由だと確信していた。


『………莉愛』


滑稽な話だ。別れた原因が莉愛の独占欲にあるというのに、その独占欲を向けられて、自分は嬉しくなっている。

だから、ギターなんか弾かないという言葉が自然と出てきたのだろう。

蓮は機械的に歩きながら、隣にいる幼馴染を再びちらっと見る。


「………なに?なんでチラチラ見てるの?」
「あっ、いや。その」
「ふふ~~ん?なになに?元カノに惚れ直した?」
「いやいや、中身知ってるから惚れ直すなんて無理だろ」
「蹴っていい?」
「くはっ!?蹴ってから言うなよ!!」


足首を蹴られたものの、痛みはそこまで感じられなかった。当然、莉愛も手加減をしてくれたのだ。

でも、中身って言葉が相当気に食わなかったのか、莉愛は拗ねたように視線をずらす。

蓮は苦笑を浮かべながら、彼女を宥め始めた。


「俺が悪かった。俺が悪かったからもう機嫌直してくれよ~」
「あなたの足5回ほど蹴ったら機嫌が直るかも?」
「一生機嫌悪いままでいいや」
「ええ、酷いなぁ~友達でしょ?友達なら少しはストレス発散に付き合ってくれてもいいんじゃない~?」
「友達はサンドバッグじゃないからな!?」


割と本気でボコろうとする莉愛をなんとか宥めながら、二人はスーパーにたどり着く。

蓮はさっそくかごを持って、棚にある肉を確認して行った。


「あっ、30%セールだ!」
「どこどこ?へぇ、挽き肉か」
「キャベツとチーズ入れてつくねにしたら最強なんだよな。で、料理は……」
「……ダメ」


振り向きながら一応探りを入れたものの、莉愛はやや赤くなった顔ですぐに首を振った。

結婚する夢の中で、自分が料理をしていたから。

それで、夢と現実の境界が有耶無耶になってしまうのが嫌で、蓮は莉愛に料理を禁止されているのだった。


「……あの、莉愛」
「うん?」
「一応聞くんだけどさ、茜さんに料理とか教わってないよな?」
「うん。前に鍋黒ずみにした後からは全然」


莉愛がうなずくと、蓮は少し気まずそうな顔をしながらも言葉を続ける。


「でもさ、この後1年も一緒に住むのに、毎日冷凍食ばっかりだとさすがにヤバいんじゃないか?」
「…………………」
「君は料理できないし、冷凍食ばかりだと飽きちゃうし、お金もかかるし、体も壊すし……だから、莉愛」


分かってはいるけど。

自分と結婚する未来を再現しているようで気に食わないことはわかるけど、蓮はどうしても言うしかなかった。


「時々でいいからさ。料理、させてくれないかな」
「……で、でも」
「安心していいから。今更君と付き合って結婚するだなんて……ふ、普通に無理だしな!うん……」
「……っ」
「……」


莉愛を説得するために投げた言葉は、そのままブーメランになって蓮の心臓に突き刺さる。

莉愛と付き合って結婚するのは、無理だ。

なんで、なんで……自分が言った言葉に、自分が傷ついてしまうんだろう。


『………ふぅ』


やっぱり情けないなと、蓮は自分自身を責める。

未だに莉愛に未練がましくなっている自分が情けなくて嫌で、仕方がなかった。

自分よりもっといい男と付き合うべきだと、蓮は心の底からそう思っていた。

莉愛の重い愛を全部受け入れられて、その上で莉愛を幸せにできる素敵な男と……自分じゃない男と付き合うべきだと、本気で思っていた。

でも、莉愛は。


『……バカ』


なんでそんなこと言うのと、反射的に言いそうになった言葉をかろうじて飲み込んでいた。

今更付き合って結婚するのが無理だなんて。現実的には確かに、そうかもしれない。

あんなにも蓮を困らせたから。好きという感情を建前にして、色々と蓮に迷惑をかけてきたから。

でも………でも。


『………………この、バカ』


自分の隣に、蓮じゃない他の誰かといるのが想像できなくて。

その事実を噛み締めるたびに、莉愛は悲しくなっていく。どんどん、恨めしい気持ちになっていく。

あえて冷たい言葉を口にしながら、苦しそうにしている蓮が恨めしくなって。

そして、そんなバカな男をちっとも嫌いになれない自分も、どんどん恨めしくなって行った。
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