未だに大好きな元カノ幼馴染が、俺と結婚する未来を見ているらしい

黒野マル

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37話  キスされる夢を見た

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『……蓮の、エッチ』
『嘘つけ。君の方がよっぽどエッチだろ』


…………ああ、また夢だ。

なんなの、本当に。そう思いつつも、莉愛は繰り返される風景をただ見守ることしかできなかった。

未来の自分は、ベッドの上で押し倒されて嬉しそうに笑っていた。

そして、自分を押し倒した相手は言うまでもなく―――自分の旦那になった、日比谷蓮。

今よりだいぶ大人っぽく見える蓮が、興奮に燃えている瞳で自分をジッと見下ろしているのだ。


『これ……なんかあの頃と似てるね?』
『はあ?なにが?』
『ほら、前にいたじゃん。高校1年の時に、山本君と由奈がうちに勉強しに来た時に……』
『よくもそれ覚えてるよね、莉愛』
『……だって、仕方なかったもん』


そして、未来の自分は連の腰に両足を絡めてから―――囁くように言った。


『別れてから初めて、キスしてくれたんだし』


そこで、私の意識は途絶えてしまって。

次にばたっと跳ね起きた莉愛は、さっきの言葉を反芻しながらぼうっとつぶやいた。


「別れてから初めて、キスしてくれたって―――え?」


ど、どういうこと?どういうこと!?

蓮が、あの蓮が―――キスしてくれるってこと!?自分から!?

ありえない、ありえない!!どうやったらそうなれるの!?大体、蓮は未だに私を遠ざけようとしているのに!?


「ウソ……だよね?いや、でも……!」


否定の言葉がいくつも浮かぶものの、前回の出来事を思い返すと否定もできなくなった。

なにせ、文化祭ライブの件があるのだ。あの時、事前にライブの後になにかがある、と語ってくれた夢の内容を見た自分は。

ライブが終わった後、耐えきれなくなって蓮にキスをしたから。

それだけではない。アパレルショップで蓮が買ってくれた服も、蓮がエプロンを着て料理をしていることも。

決定的な要因ではないものの、ほんのりと未来の夢と繋がっているような気がした。

そして、もしあの夢が本当の未来だとしたら―――自分は、押し倒されてキスされてしまう。

他でもない、蓮に。それも、由奈と山本君がうちに勉強をしに来る今日に!


「うわぁああああ………!!!ど、どうしたらいいの!?どうしたら……!」


いや、たかが夢に振り回されすぎなんじゃない?

理性的にそう思ってしまうものの、莉愛はやっぱり胸をときめかせるしかなかった。

そして、彼女はその夢の内容も否定したくなかった。だって―――好きだから。

大好きな人が、世界で一番大切な人が自分を押し倒して、キスしてくれるって言うのだ。

嫌がるはずがないし、むしろ嬉しさを抱いてしまう。あの夢が本当だったらいいなと、願ってしまう。


「うっ……メ、メイクでもしようかな」


だから、莉愛は連が嫌がらないために、最大限綺麗に映るために―――シャワーを浴びて、軽くメイクをすることを決めた。

着替えを持って一階に降りると、案の定、蓮がキッチンに立っていた。

ダークグレーのエプロンを着て料理する後姿にドクン、と心臓が鳴る。それを抑えて、莉愛は連に挨拶をした。


「おはよう、蓮」
「あ………お、おはよう」


……未だに告白を意識しているのか、振り向く蓮の動きがややぎこちない。

実際に、蓮は莉愛と上手く目も合わせていなかった。

自分にどう接したらいいのか分からない、という悩みがそのまま出ている表情に、莉愛は苦笑をする。

しかし、莉愛が横に持っている着替えを見て、蓮はすぐ目を丸くした。


「えっ、それは?」
「着替え。私、今からシャワー浴びるから」
「いや、そんなの一々報告しなくてもいいって……こっそり入ればいいだけだろ?」
「……挨拶はしたいから」
「え?」
「む、昔のように………………その……」


昔、自分が投げた言葉を蒸し返しながら、莉愛は言う。


「一日の始まりも終わりも……全部、あなたがいいもん」
「………………………………………」
「そ、それだけ!それだけだから!!うぅっ……ぜ、絶対に覗かないでよ!?風呂覗いたら殺すからね!?」


莉愛は羞恥心にまみれた顔でパパっと去っていく。

取り残された蓮は、ただ呆然とした顔をするしかなかった。


「………あ、ぁ……」


おかしいだろ、マジで。

一日の始まりも終わりも、あなたがいい。

その言葉は、付き合っていた頃によく使ってた言葉なのに。なんで、なんでそれを今使うんだ?

本当に、我慢するつもりでいるのかよ……?


「……ヤバい」


あんな言葉を平然とかけられて。それなのに今日はずっと、一緒にいなくちゃいけないなんて。

仮にも勉強会って名目で白水も陽太も来るのに、これはダメだろ……勉強なんかできるかよ。こんな状態で……!

火照ったおでこに手を当てながら、蓮は深々とため息をついた。
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