未だに大好きな元カノ幼馴染が、俺と結婚する未来を見ているらしい

黒野マル

文字の大きさ
39 / 76

39話  二人の嫉妬

しおりを挟む
その後も、由奈はしれっと蓮に話しかけながらどんどん二人きりの時間を増やして行った。

もちろん、これも蓮と由奈が昔から仲がいいからできることであり、実際に陽太は莉愛にあまり話題を振っていなかった。

……いや、振っていなかったと言うよりは、振れなかったと言った方が正しいだろう。

なにせ、莉愛の目は―――徐々にハイライトを失って行ったから。


『や、ヤバい……!!七瀬さん、こんな顔もするのかよ!!』


陽太が距離を開けてぶるぶる震えている中、由奈もまた背筋がぞわっとする感覚に陥っていた。


『お、思ってた以上にヤバいかも……なに、これ!?これって付き合ってた頃の反応じゃん!!』


唯一、蓮だけ莉愛の反応を見てもあまり動揺しないだけで。

結局、主な目的だった勉強は2時間くらいでとどまって、後はただのおしゃべり会と化してしまった勉強会は。

夕方に差し掛かった頃からようやく、幕を下ろした。


「はいっ、じゃ明後日学校でね~~バイバイ~」


外が暗くなり始めている中、由奈は玄関で片手を振る。

蓮は苦笑しながら、同じく手を振ってあげた。


「ああ、気を付けて帰ろよ、白水?陽太もな」
「おう、ありがとう。七瀬さんも、今日はありがとうね」
「うん、気を付けて帰ってね、山本君」


それから、莉愛は笑顔のまま由奈に目を向ける。


「そして、由奈」
「は、はいっ!なんでしょうか……」
「あとでLineするね?」
「ひいっ……!?」
「絶対に出てね?絶対だよ?もし返事が遅れてたら……ふふふっ」
「わ、分かった!!分かったってば!!」
「ふぅ……由奈も気を付けてね。バイバイ」


莉愛は仕方ないと言わんばかりにため息をついて、陽太と由奈に別れの挨拶をした。

そして、やけに震えていた由奈と陽太が家を出た後、彼女はジトっと目を細めて蓮を見上げる。


「……どうした?」
「楽しかった?」
「うん?ああ、まあ楽しかったな。途中からはほとんど勉強してないけどな~」
「へぇ、そっか~~楽しかったんだぁ~~」
「……うわっ」


蓮は経験で察した。こんな風にわざとらしい口調をするときの莉愛は、大抵怒っている。

困ったな、どうすればいい……?そう思っていた時、莉愛が急にぐっと体を寄せてくる。


「なっ……!?ち、近い!莉愛!」
「なに?由奈ともこれくらいの距離でいたじゃない。別になにもおかしくないでしょ?」
「おかしいんですが!?ていうか、白水には勉強教えるために仕方なく近くなっただけだろ!?」
「へぇ、そっか~~蓮は私と近くなるのより、由奈と近くなった方がいいんだ~~」
「なんで昔の重い女に戻ってんだ……!しっかりしろ、莉愛!」
「ふん」


莉愛はあからさまに頬を膨らませて、ぷいっとそっぽを向ける。


「……バカ」
「ああ~~もう完全に昔のままじゃんか……成長しないな~君も」
「っ……わ、悪いと思ってるけど!悪いのは私だって、分かってるけど!」
「ていうか、それを言うなら君も一緒だろ?」


え?

どういうことなの、それ。莉愛がついそんな質問を投げようした時、先に蓮が眉根をひそめてから言った。


「陽太との距離、だいぶ近かった気がするけど?」
「……………え?」
「いや、ちょっと必要以上に距離近くなってただろ……それに、君だって陽太と話しながら何度か笑ってたし」
「……………………………」


莉愛は、その言葉を聞いてついぽかんと口を開けてしまった。

正直に言うと、自分には全く自覚がないのだ。

もちろん、陽太に英語を教えるために距離が近くなったのは本当だし、積極的に話しかけてくれるおかげで何度か笑うこともあった。

でも、今の蓮は明らかにそれが気に食わない顔をしている。これじゃ、まるで……


「……なに、嫉妬?」
「は、はあ!?」


昔の……いや、今の自分と全く同じみたいじゃないか。

莉愛がぽつりとつぶやいたら、蓮は急速に顔を赤らめてから言った。


「いや、どうしてこれが嫉妬になるんだよ!俺は!ただ、君も私と似たようなもんだって……!」
「ウソ、あきらかに嫉妬じゃん、こんなの!ふふっ、なに~?少しは私の気持ちが分かるようになった?」
「たった1時間返信ないからってしつこく電話かけてくる女の気持ちなんてわかるか!」
「い、言った!言ったね、あなた!?大体ね、付き合ってるのに1時間も連絡無視してた、あの時のあなたが悪いに決まってるじゃない!」
「俺には俺の人生があるんだよ!大体さ、昔といい今といい、なんでそんなに執着するんだ!よもや白水にまで嫉妬して……!!」
「安心できないんだもん!!」


そこで、莉愛は両目をぐっとつぶって蓮の言葉を遮るように、叫んだ。

蓮はびくっと体を跳ねさせて、莉愛をジッと見つめる。


「あなた、変にスペックだけは高いから安心できないんだもん……!!重すぎるって分かってるけど!昔は私が悪かったって分かってるけど!でも、嫌だもん……」
「……莉愛」
「由奈にまで嫉妬するのはさすがにダメだって分かってる!由奈がそんなことするはずがないってことも!でも、でも……あなたが他の女の子と一緒にいるの見てると、モヤモヤして」
「………………」
「……私だって、あなたに執着したくない。昔みたいに、あなたのこと苦しめたくない。でも……でも」


そこで、莉愛は徐々に涙を浮かばせ始める。

蓮はそれを見たとたんにハッと息を呑んで、莉愛の手首を掴もうとした。

しかし、その前に莉愛は素早く背中を向けた。


「……ごめん。今日はちょっと休ませて」
「っ!?」


そのまま、莉愛は階段を駆け上がってパン、と部屋のドアを閉じた。

玄関の前で取り残された蓮は、呆然と立ちすくんだまま階段を見つめるだけだった。

……友達の関係を守るためなら。

ここで、何もしないで自分も自分の部屋に入った方がいい。その方が絶対にいいと、蓮は思う。

でも、莉愛の涙と最後に放った弱弱しい言葉を思い出すと、選択肢がなくなる。


「……困ったヤツめ」


昔もこうだった。ふさぎ込んでいる莉愛に構って、慰めて、最後は仲直りしてまた笑いあっていた。

でも、それは恋人だった頃のルーチン。今になってそれが利くかどうかは、分からない。

でも、やらなきゃ。


「成長しないな、俺も」


……30分くらい間を取った方がいいか。あいつも頭が冷える時間が必要だろうし。

そう思って、蓮は一旦リビングに戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

処理中です...