未だに大好きな元カノ幼馴染が、俺と結婚する未来を見ているらしい

黒野マル

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67話  加減が分からない

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『やだ、やだぁ~~ハグしてよ~~』
『子供か!!料理出来上がるまで待てって言ったよね!?』
『いやですぅ~~私は蓮にハグされないと死ぬ病気にかかっているんですぅ~~早く早くぅ~~!』
『これが、本当に母親……?』


……あぁ、幸せそうだなと莉愛は思う。

デスクに突っ伏したまま、頬をパンパンにして抗議する未来の自分。エプロン姿で料理をしながらも、仕方ないとばかりに苦笑している未来の蓮。

自分はまた、夢を見ているのだ。蓮と結婚した未来の夢を。


『んん……ママたち、また喧嘩してるぅ……』
『……ママ?』
『いい?よく聞きなさい?ママはなにも悪くないの!すべては昨日の夜から一回も私をハグしてくれなかったパパが悪いの!』
『いやいや、酒飲んだ状態で抱きしめるわけにもいかないでしょ!?せっかく配慮してやったのに!!』
『ならなんで今朝は抱きしめてくれないのよ!!毎朝のキスはどうしたの?愛してるって言葉は!?なにもしてくれなかったじゃない!!』
『わぁ~~我が家では子供が3人もいるんだ!!!』


……あ、あれが本当に未来の自分?

莉愛は夢を見ている中でも、ほんのり信じられないと感じてしまう。だって、未来の自分は今よりずっと子供っぽく見えたから。

そう……どちらかというと、中学時代の自分に似ている気がした。あの時の自分も、とにかく蓮に色々な愛情表現を要求していたから。

当時の蓮は、思春期だったからあんまり表現をしてなかったけど。

でも、未来の蓮は―――ふうとため息を一回ついてから、コンロの火を消して未来の自分に近づいた。

それから、耳元でささやく。


『後でお仕置きな?』
『…………ぇ、え?』
『昨日の分まできっちり埋め合わせしてもらうから、覚悟しろよ?』
『…………………………………………』


……そっか。あ、あんな風にやられるんだ、私。

未来の自分が顔を真っ赤に素女て俯いていると、娘たちが首を傾げながら聞いてくる。


『うぅん?ママ、顔真っ赤~~』
『パパ、ママがおかしい~~』
『あはっ、大丈夫大丈夫!!ママは元々おかしいから!』
『あ………うぅっ!!』


未来の自分は連に恨めしい視線を送るけど、その勢いも一瞬。

すぐにまたしおらしくなって、己の胸元に手を当てながら深呼吸を重ねていた。その光景を見て私はよかったと思う。

大人になっても、私は連を愛しているんだ。大人の私は……もっと、器用に振舞うことができるんだ。

そう思うと、心がほっこりして口元に笑みが滲む。未来の自分は耐えきれないとばかりに、ぼそっとつぶやいた。


『本当、バカ……』
『ははっ、本当莉愛さんは変わりませんね~~』
『……あんたが、全部受け入れてくれるから』
『ううん、違うでしょ?』


それから、未来の旦那様は―――テーブルにオムライスを置いてから、ニヤッと笑って見せる。


『君が頑張ってくれたから―――俺を信じる努力をしてくれたから、こうなったんだよ。君のおかげだよ、すべて』
『ううん……?ママ、パパ。なんの話してるの―――?』
『あはっ、ごめんね。そうだね、これはパパたちの高校時代の話なんだけど―――』


もう少し、蓮の言葉が続くかと思っていたところで。

私の意識は、ぷっつりと途絶えてしまった。







朝日が差し込む部屋の中、莉愛はベッドで座ったまま夢の内容をじっくり思い返す。


「……頑張ってる、か」


その決心の言葉が、莉愛の心を温かく包む。そっか、未来の自分はちゃんと頑張ったんだ。

なら、現在の私ももっと頑張らないと。もっと―――好かれるために、努力しないと。


「でも、信じる努力ってどういうことなのかな……まあ、確かに信じられなくて別れたんだけど」


中学時代の莉愛は、どこか不安定なところがあった。完璧で理想的な愛を蓮に押し付けて、蓮を片っ端から独占しようとしていたから。

でも、蓮が他の女の子と話をするたびに胸が痛くなって。しないでって言われたら、逆に怒られて……それでもう、信じられないって言ってしまったのだ。

あの頃の莉愛は、蓮の立場をちっとも考えずに無理強いをしていた。

蓮の気持ちを考える時間を、蓮を信じるための努力を重ねなかった。だから、別れに繋がった。


「……もう、いや」


でも、やっぱり嫌だ。なにがあっても別れたくない。そう思った莉愛はふうと短い息をついて、ベッドから立ち上がる。

向かう先は、キッチンだった。


「うん?あ、おはよう」
「……おはよう」


最近、料理しすぎだと小言をぶつけた甲斐があったのか、蓮は食卓の椅子に座っているだけで電子レンジの音だけが響いている。

たぶん、冷凍餃子なのだろう。それでいいと思った。蓮に無理させたくないから。

絶対に、昔のような辛い思いをさせたくはないから。


「うん?どうしたの、莉愛―――ん」


莉愛は何も話さず蓮に近づいて、そのまま唇を塞ぐ。

当たり前になった短いキスが終わると、莉愛はすぐにぎゅっと蓮を抱きしめた。

予想外のスキンシップに、蓮は朝から顔を真っ赤にさせてしまう。


「ちょっ、どうしたんだよ……!?急になんで!?」
「……好かれるために努力するって、言ったじゃん」
「いや、でも……!まあ、嫌じゃないけど……その」
「その?」
「……は、恥ずかしいから」


ようやく、莉愛は体を少し離して蓮の顔を見つめる。蓮は耐えられないとばかりに、そっぽを向いていた。

……愛おしすぎる。

やっぱり、絶対に逃してはいけないと再び思いながら、莉愛は連の上に座った。


「ちょっ!?莉愛!?」
「……なに慌ててるの。昨日のホテルではあんなに激しく……したくせに」
「いや、でも……!!」
「ふふ~~ん。なんでちゅか~?またエッチしたくなったんでちゅか~?やだ、朝からまた襲われちゃう~~」
「……………」
「困ったな、どうしよう~~あ、早く学校行かなきゃ―――んん!?」


お返しとばかりに、蓮は荒々しく莉愛の唇を塞ぐ。

歯を磨いてないから、莉愛は最大限唇を閉じようとしていた。

でも、蓮は構わずに無理やり舌で唇をこじ開け、いわゆるディープキスをかましてくる。


「んん!?ちゅっ、ちょっ、待っ―――ん、んん……」


恥ずかしくて何度か胸板を叩くけど、離してもらえない。

結局、キスが終わったのは莉愛の理性が溶け切って、ドロドロになった時だった。


「…………バカ」
「煽ったのはそっちだから」
「ま、まだ歯も磨いてないのに……!ここで口臭が臭いって言ったら殺すからね!?」
「うん~~あっ、レンジ終わった!早く弁当作ろうっと」
「ちょっ、今明らかに臭いって言いたかったんでしょ!?早く答えて!!」
「あははっ、あはははっ!!」


蓮は愉快に笑いながらも、莉愛から体を離して立ち上がる。

それから、莉愛にしれっと一言を届けた。


「そういうところ全部含めて、受け入れるんだって」
「…………………え?」
「別に、素のままでいいと言っただけ。変に気を張るよりはずっといいからさ」
「………」


気を張る。

確かに、そうかもしれない。でも、そうしなきゃ一緒にいれないと思って―――仕方なく、そうなるのだ。

本当に、どうしたらいいか分からないな……。

莉愛がそう思っていた当日に、事件は起きてしまった。なにせ、蓮の下駄箱の中に―――


「………うん?」


ハート形のシールが貼られている、ラブレターが到着したのである。
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