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68話 ラブレター
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蓮はラブレターを見るなり、素早く鞄の中に放り込んで中身も確認していなかった。
仕方がなかった。送ってくれた人に申し訳ないけど、こんなものをクラスで堂々と読むわけにもいかないのだ。
なにより、莉愛の目があるし。
『でも、一応は確認するべきだよな……』
授業が始まってからも、蓮の意識は鞄の中にあるラブレターにずっと取られていた。
誰かが自分を好きになってくれるのは、もちろん嬉しい。蓮もそれを嫌だとは思わなかった。
だけど、自分にはもう莉愛という好きな人がちゃんといるのだ。この告白の結果は絶対に変わらない。
答えは断りにしかならない。だけど、その断り方をどうすればいいのかを、蓮は悩んでいるのだ。
それに、これを莉愛に知らせていいかいけないのかも、はっきりと判断がつかなかった。
『これ、中学時代にもあったよな……隠れて付き合ってた時に告白されて、その後にめっちゃくちゃ執着されたし』
昔の出来事を覚えているからこそ、軽く振舞うことができない。蓮はふうとため息をついた。
莉愛に知らせるべきだとは思っているけど、でも……昔と同じ展開になっているようで、どうも気が引けるのだ。
どうしよう、と思っていたその時。
急に後ろの席の陽太がコンコン、と蓮の背中をノックした。
「うん?」
授業中だからバレないように振り返ると、そこにはにやけたっぷりの親友の顔があって。
首を傾げていると、陽太はある紙切れを渡してきた。
「これ、白水さんから」
「うん?白水?」
小声で言いながら、蓮は斜め後ろ側にある由奈に目を向ける。
由奈も陽太と同じくニヤニヤしていて、そしてその隣の席には―――口だけ笑っている莉愛がいて。
背中に氷でも落とされたかのように、蓮はぶるぶる震えるしかなかった。
折りたたまれている紙を開くと、そこには案の定―――莉愛からの伝言が書かれていた。
『昼休み、屋上』
「……………………」
……やっぱり、自分は莉愛を侮っていたかもしれないと、蓮は切実に感じてしまう。
そうだよな。生まれた時からずっと幼馴染なんだもんな……ははっ。
「告白?」
「ああ、これ」
「……………」
お昼休み、ご飯を食べた後に蓮と莉愛は屋上に続く階段に来ていた。
踊り場で向き合ったまま、蓮は手に取っている手紙を見せる。ハート形のシールが貼られている、桜色の手紙。
紛れもない、ラブレターだ。
「………そう」
「……開けてもいい?」
「私に別に許可取る必要ないんでしょ?あなた宛てに来たものだから」
「いや………その」
「……なに?」
「……なんでもない」
俺が好きなのは君だけだから。
蓮はそう言いたかったけど、恥ずかしさと手紙を書いてくれた人に対する遠慮で言葉を紡げなくなった。
莉愛は悲しそうに眉尻を下げて、蓮が手に取っている手紙をもう一回見つめる。
ハート形のシール。自分じゃない………誰かから来たもの。
その事実が、その手紙がぐっと心臓に刺さって、めちゃくちゃになる。思ってた以上に気持ちが沈んで、息が詰まりそうになる。
「莉愛?」
「………」
「……莉愛?」
分かってる。
蓮が他の誰かを選ぶはずがない。そんなことは承知の上だし、蓮の性格をよく知っているから心配する必要もないはずだ。
だけど、莉愛は苦しくて苦しくて仕方がなかった。また、昔の面影が頭をもたげる。
昔のように、付き合っていることを表に出してしまえば。蓮が自分のものだって、みんなに知らしめれば……そうすれば、いいんじゃないかと。
でも、それはあまりにも、あまりにも昔通りで―――
「大丈夫」
そうやって負のスパイラルに巻き込まれようとしていた莉愛を、蓮が救い上げる。
「大丈夫だよ。莉愛」
「……蓮」
「ずっと君だけだから、心配しなくてもいい」
「………し、心配なんか。心配なんか、してないもん……」
「うそだ~~さっきの顔もうヤバかったんだよ?すぐにでも泣き出しそうな顔して」
「………」
「ふふっ、そんなところも、まあ……か、可愛いけど」
……可愛くない。
こんなの、ただ醜くて重いだけでしょ。そんな風にポジティブに解釈しないで。
莉愛はそう言いたい気持ちを押し殺して、ふうと深呼吸を重ねる。
それから、蓮と向き合った状態で言い放った。
「私、これ以上この件には関わらないから」
「……いいの?」
「いい。だって、あなたが変に負担を感じるでしょ?だったら私が抑えた方がいいじゃない。なにより……頑張るって、言ってたし」
蓮の気持ちを最大限に尊重したい。
蓮の立場を第一にしていきたい。その心が、莉愛の中には既に芽生え始めたのだ。
「だから、その……結果だけ教えて?あとで」
「……結果、知ってるでしょ?」
「……し、知らない、バカ」
「ぷふっ、わかった。ちゃんと、後で結果教えるね」
手紙を書いてくれた人には、本当に申し訳ないなと思いつつ。
蓮は、大好きな人を目の前にして苦笑するしかなかった。
仕方がなかった。送ってくれた人に申し訳ないけど、こんなものをクラスで堂々と読むわけにもいかないのだ。
なにより、莉愛の目があるし。
『でも、一応は確認するべきだよな……』
授業が始まってからも、蓮の意識は鞄の中にあるラブレターにずっと取られていた。
誰かが自分を好きになってくれるのは、もちろん嬉しい。蓮もそれを嫌だとは思わなかった。
だけど、自分にはもう莉愛という好きな人がちゃんといるのだ。この告白の結果は絶対に変わらない。
答えは断りにしかならない。だけど、その断り方をどうすればいいのかを、蓮は悩んでいるのだ。
それに、これを莉愛に知らせていいかいけないのかも、はっきりと判断がつかなかった。
『これ、中学時代にもあったよな……隠れて付き合ってた時に告白されて、その後にめっちゃくちゃ執着されたし』
昔の出来事を覚えているからこそ、軽く振舞うことができない。蓮はふうとため息をついた。
莉愛に知らせるべきだとは思っているけど、でも……昔と同じ展開になっているようで、どうも気が引けるのだ。
どうしよう、と思っていたその時。
急に後ろの席の陽太がコンコン、と蓮の背中をノックした。
「うん?」
授業中だからバレないように振り返ると、そこにはにやけたっぷりの親友の顔があって。
首を傾げていると、陽太はある紙切れを渡してきた。
「これ、白水さんから」
「うん?白水?」
小声で言いながら、蓮は斜め後ろ側にある由奈に目を向ける。
由奈も陽太と同じくニヤニヤしていて、そしてその隣の席には―――口だけ笑っている莉愛がいて。
背中に氷でも落とされたかのように、蓮はぶるぶる震えるしかなかった。
折りたたまれている紙を開くと、そこには案の定―――莉愛からの伝言が書かれていた。
『昼休み、屋上』
「……………………」
……やっぱり、自分は莉愛を侮っていたかもしれないと、蓮は切実に感じてしまう。
そうだよな。生まれた時からずっと幼馴染なんだもんな……ははっ。
「告白?」
「ああ、これ」
「……………」
お昼休み、ご飯を食べた後に蓮と莉愛は屋上に続く階段に来ていた。
踊り場で向き合ったまま、蓮は手に取っている手紙を見せる。ハート形のシールが貼られている、桜色の手紙。
紛れもない、ラブレターだ。
「………そう」
「……開けてもいい?」
「私に別に許可取る必要ないんでしょ?あなた宛てに来たものだから」
「いや………その」
「……なに?」
「……なんでもない」
俺が好きなのは君だけだから。
蓮はそう言いたかったけど、恥ずかしさと手紙を書いてくれた人に対する遠慮で言葉を紡げなくなった。
莉愛は悲しそうに眉尻を下げて、蓮が手に取っている手紙をもう一回見つめる。
ハート形のシール。自分じゃない………誰かから来たもの。
その事実が、その手紙がぐっと心臓に刺さって、めちゃくちゃになる。思ってた以上に気持ちが沈んで、息が詰まりそうになる。
「莉愛?」
「………」
「……莉愛?」
分かってる。
蓮が他の誰かを選ぶはずがない。そんなことは承知の上だし、蓮の性格をよく知っているから心配する必要もないはずだ。
だけど、莉愛は苦しくて苦しくて仕方がなかった。また、昔の面影が頭をもたげる。
昔のように、付き合っていることを表に出してしまえば。蓮が自分のものだって、みんなに知らしめれば……そうすれば、いいんじゃないかと。
でも、それはあまりにも、あまりにも昔通りで―――
「大丈夫」
そうやって負のスパイラルに巻き込まれようとしていた莉愛を、蓮が救い上げる。
「大丈夫だよ。莉愛」
「……蓮」
「ずっと君だけだから、心配しなくてもいい」
「………し、心配なんか。心配なんか、してないもん……」
「うそだ~~さっきの顔もうヤバかったんだよ?すぐにでも泣き出しそうな顔して」
「………」
「ふふっ、そんなところも、まあ……か、可愛いけど」
……可愛くない。
こんなの、ただ醜くて重いだけでしょ。そんな風にポジティブに解釈しないで。
莉愛はそう言いたい気持ちを押し殺して、ふうと深呼吸を重ねる。
それから、蓮と向き合った状態で言い放った。
「私、これ以上この件には関わらないから」
「……いいの?」
「いい。だって、あなたが変に負担を感じるでしょ?だったら私が抑えた方がいいじゃない。なにより……頑張るって、言ってたし」
蓮の気持ちを最大限に尊重したい。
蓮の立場を第一にしていきたい。その心が、莉愛の中には既に芽生え始めたのだ。
「だから、その……結果だけ教えて?あとで」
「……結果、知ってるでしょ?」
「……し、知らない、バカ」
「ぷふっ、わかった。ちゃんと、後で結果教えるね」
手紙を書いてくれた人には、本当に申し訳ないなと思いつつ。
蓮は、大好きな人を目の前にして苦笑するしかなかった。
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