未だに大好きな元カノ幼馴染が、俺と結婚する未来を見ているらしい

黒野マル

文字の大きさ
74 / 76

74話  同じ気持ち、同じ答え

しおりを挟む
ノックもせずに入ってきた莉愛を見て、蓮はぽかんと口を開くしかなかった。

だけど、莉愛は何故か頬を赤らめながら蓮に問う。


「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」
「……な、なんだ?」
「もしかして、藍子さんになにか言われたの?たとえば、その……再来年までアメリカにいることになった、とか……」


……なるほど、莉愛も茜さんに連絡をもらったのか。

なら、隠す必要もないだろう。蓮はすぐに頷きながら莉愛を見つめた。


「ああ、ちょうどさっき電話があったけど……別にどっちでもOKって答えた」
「……どっちでも、OKなの?」
「うん。当たり前だろ」


君が寂しがるかもしれないから。

二人でいるのがちょっと窮屈に感じられるかもしれないから。君は茜さんやロバートさんが大好きだから……俺じゃ埋められないなにかがあるはずだから。

その言葉を並べて伝えたかったけど、蓮の恥ずかしさがその衝動に蓋をした。

莉愛は少しだけ頬を膨らませて、不機嫌な表情を見せる。


「……どっちでもOKなんだ。ふうん」
「なんでそんなに不満そうなんですか、莉愛さん~?」
「……本当に、どっちでもいいの?」
「えっ」
「答えてよ。どっちがいいのか。私たち二人きりがいいのか、家族と一緒にいるのがいいのか……答えてよ」


莉愛はさっきより頬を染めながらも、すいすいと蓮に近づく。

綺麗な白金髪と青い瞳が目の前で揺れて、蓮は思わず椅子を後ろへ転がそうとした。

だけど、それよりも前に―――莉愛は連の前に立って、彼を見下ろす。


「早く答えて、どっちがいいのか」
「…………………莉愛」
「答えなかったら、絶対に口きいてあげないから」


子供っぽい物言いに、蓮は思わずぷふっと噴き出してしまった。でも、いいっか。

……こんな子供っぽい莉愛が、純粋な莉愛が大好きなんだから。


「正確に言うとさ」
「うん」
「君の決断に任せるって、言った」


咄嗟に言葉の意味を掴めず、莉愛は目を丸くする。

蓮は立ち上がってから、ゆっくりとした口調で言葉を付け加えた。


「君が寂しがるかもしれないから。その……だから、君が茜さんたちに帰って欲しいと言ったら、俺もそのままお母さんに帰ってきてって言うつもりだったんだよ」
「……それって」
「ほら、お母さんたちも茜さんと一緒に行動したがるじゃん?だから、君の意志が大事だと思って―――」
「答えになってない」


後ろ頭をかきながら蓮がそっぽ向いていると、直ちに莉愛の言葉が突き刺さる。

莉愛は、もう一歩蓮に近づいて、もはや息遣いが届きそうな距離で好きな人を見上げた。


「答えに、なってない。あなたはどうして欲しいのか、言ってないじゃない。あくまで私に合わせようとするし……」
「……それは、仕方ないだろう」
「なんで仕方ないの?」
「…………………っ」


好きだから。

死ぬほど好きだし、自分自身よりよっぽど大切に思っているし、この先もずっと一緒にいたいと思っているから。

でも、洪水のようなこの想いをぶちまけてしまったら、莉愛の意志を尊重することができなくなりそうで。だから、蓮は我慢をしているのだ。


「………好き、だから」
「………」
「俺の些細な幸せより、君の意志がよっぽど大事だから……だから、君に会わせようとしたんだよ」
「……じゃ、来年も再来年も、二人きりがいいってことよね?」
「っ……!?きゅ、急に露骨なこと言うなよ!大体さ、君は―――」
「答えて」


なんとか誤魔化そうとしたけど、無理だった。莉愛の冷静かつ熱い言葉が鳴り響き、蓮の言葉は遮られる。

二人の体はもう触れ合う寸前だった。どちらかがあと一歩踏み出せば密着できるほど、距離はなくなっている。

そんな状況で、莉愛は狂おしいほど蓮を見上げた。逃げるのを許さない目をしていた。

結局、蓮は深呼吸をして、本音をこぼすしかなかった。


「――再来年も、足りないんだ」
「…………え?」
「本当は、ずっと……お母さんたちが日本に帰ってきてもずっと、二人きりでいたいんだよ……」
「…………………………………」


……あ。

あ、あ………ぁ、あ………。

この男……この男は、本当に……。


「……なんだよ、その顔」
「ふ、ふうん……そう、なんだ……」
「……それで、君はなんと答えたんだ?」
「な、なにを?」
「その様子だと、茜さんにも同じこと聞かれたんだろ?再来年までアメリカにいるか、来年に日本に帰ってくるか。君は……なんて答えたんだ?」
「………………」


莉愛は本能的に察した。いや、察するしかなかった。蓮が自分の返事を知っているという事実を。

それでも、あえて確認しようとする理由は―――安心するため。そして、自分の羞恥心を掻き立てるため。

それをすべて分かっているにもかかわらず、莉愛は。


「決まってるじゃん……もう一年、二人きりでいさせて欲しいって、言った……」


言わずには、いられなかった。

返事をしなかったら、目の前の蓮が絶対に納得してくれなそうだったから。いや、それ以上に………。

あなたと同じ気持ちだってことを、莉愛はどうしても伝えたかったのだ。


「…………」
「…………」


蓮は顔を染めながらも、震える手で莉愛の肩を掴める。

反射的に体を跳ねさせた莉愛は、すぐに蕩けた顔で好きな人を見つめた。つま先立ちになろうとして、先に唇が塞がれる。

蓮は腰を曲げるように俯きながら、莉愛を抱きしめる。互いの熱が唇を伝ってまじりあう。


『本当に、バカ………バカ、バカぁ……』


なんでこんなに、私を振り回すの。おかしいじゃん。また私だけ溶かして、ドキドキさせて。

ああ……でも、そんな文句を言うにはキスが暖かすぎる。莉愛は目じりに涙まで浮かばせながら、蓮の唇に強く吸い付いた。


「好き……んちゅっ、すき、すきぃ……大好きぃ………」


このまま本当に死んでしまうんじゃないかと思えるくらい、莉愛の胸がパンパンになる。

再来年にとどまらず、その先も見据えてくれている蓮が愛おしすぎて、脳が狂っちゃいそうになる。

お互い息が詰まってようやく唇を離すと、莉愛はすっかり蕩けた顔で言った。


「蓮……」
「……うん、なに?」
「しよう?」


こんな気持ちを抱いたまま部屋に帰れるわけがない。

衝動と欲望と愛で無茶苦茶になった言葉を、莉愛はもう一度吐いた。


「お願い……エッチ、しよ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...