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23話 罠を仕掛ける
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「はっ、やっぱりか……」
遠くでゲベルスの存在を確認した瞬間、俺は口の端を吊り上げた。
やっぱりあいつが出てくるか。ということは、狂いはあるもけどシナリオはゲーム通りってことだな。
隣にいるニアは、よからぬ魔力を感じたのか口をぐっと引き結ぶ。その後、ニアは俺の服の裾を引っ張ってから言った。
「カイ、あの男の魔力、悪魔のものとほとんど同じ」
「だろうね。あいつ、黒魔術師だから」
「……カイは知ってたの?」
「あはっ、実際に会ったことはないけどね」
……そういえば、ニアには転生のことをまだ説明していなかったんだ。
今後のためにも説明すべきかなと思いつつ、俺は戦場の流れを観察し始めた。
「げ、ゲベルスさん!ちょうどいい時に!」
「ふふっ、タイミングが良かったですね。ギルドの支部長にカルツ様の位置を確認した甲斐がありました」
「っ!?カルツ、後ろ!」
「っ!?」
クロエの鋭い声が鳴るとともに、タランチュラの毒針が飛んでくる。
今のカルツのレベルじゃ、絶対に避けられない攻撃だ―――しかし。
「ダスク・ミラー」
ゲベルスが手を上げた瞬間。
カルツの後ろに赤黒い鏡が姿を表して、毒針をそのまま吸い込むように、飲み込んだ。
そのまま終わりのように見えたが―――次の瞬間、鏡からさっきの毒針が放たれ、タランチュラの胴体を正確に貫く。
「きえっ!?きえぇええええっ!!!」
急所を刺されてしまったタランチュラは、そのままチリになってしまう。
次第に、すべてのモンスターの視線が彼に……糸目で、禍々しい雰囲気を放っているゲベルスに注がれた。
「ああ、ブリエン様が怪我をしているようですね。アルウィン様は、そのまま彼女の治癒に専念してください」
「あ……は、はい!」
「俺は戦う!ゲベルス、一緒に―――」
「いえ、その必要はありませんよ、カルツ様」
簡単にカルツの言葉を無視した後、ゲベルスは手を挙げて中指を弾く。
それから広がった光景に、みんな目を疑うしかなかった。何故なら……。
「きえっ、きへっ、きひ、き、キぃいいいいいい!!」
「きひ、キぃいい――――――!」
―――彼らを囲っていたタランチュラがすべて、自分たちの体を捕食して行ったから。
狂ったように、モンスター特有の奇声を上げながら、蜘蛛たちは自分たちの胴体を食い尽くしていく。
自分の足にかじりつくやつもいれば、足を上げて自分の胴体をぐっと突き刺すやつもいた。
「な、なに、これ……」
あまりにも歪な光景に、怪我をしているブリエンさえも驚愕して、目を見開いた。
一方で、遠くからその姿を眺めていた俺は再び苦笑を浮かび、ため息をつく。
『ミスティック・タッチ。一定時間、相手の精神を操作して自分の思い通りにすることができるBランクの黒魔法……やっぱり、今の段階でもう熟知してるか』
あのスキルこそが、クロエを狂わせて化け物にした主な原因だった。
勇者がクロエを殺す展開は、すべてゲベルスが企んだものなのだ。
ヤツはクロエが自分たちの秘密を暴こうとしているのを察していたし、勇者がクロエを煙たがることも分かっていた。
だから、色々な策を使ってクロエを狂わせ、彼女を殺す正当性をカルツに与えたのだ。
もちろん、作品の後半にはゲベルスと敵対して、すべての真実を知ることになるけど―――その時の勇者の反応は、正にサイコパスに近いものだった。
『――たとえゲベルスに利用されたとしても、あの時の俺はクロエを殺すしかなかった。クロエはもう化け物になってたからな』
自分の仲間を殺したというのに、平然な顔で仕方なかったと言うカルツの姿。
なんの反省も自責もない図々しい姿に、どれほどのユーザーが憤ったことか。
俺はあの時の、背筋がぞわっとした時の感覚を未だに忘れていない。
『……絶対に死なせないからな、クロエ』
すべてのタランチュラが自害して、状況が落ち着いた後。
俺はニアと手を繋いで、ゆっくりとカルツたちの前に姿を表した。
「カイ、ニア!!無事だったんだ……ふぅ」
俺の姿を確認するなり、クロエは安堵の息を吐く。本当に心配性だな……この子も。
「カルツ様、こちらの少年少女は?」
「ああ、14階の休憩エリアに遭難していた子たちです。なんの記憶もなく、急に目が覚めたらダンジョンの中にいたらしいので、とりあえず一緒に行動をしてました」
「ふうん、なんの記憶もない、ですか……」
「っ……!?」
ゲベルスは目の端を吊り下げて、俺とニアをジッと見つめる。クロエはとっさに不味いと思ったのか、慌てて俺たちの前に立ちふさがろうとした。
ゲベルスは、Bランクのスキルを習得している魔法使い。魔力視野で見れるものも多く、俺やニアの中に潜んでいる悪魔の力に気づくだろう。
俺はダークサイトスキルでどうにか誤魔化せるけど、ニアはまず確実にバレる。
「……ちょっと、ゲベルスさん?子供たちをそんなに睨んだらダメじゃないですか」
「ふふっ、心外ですね、クロエ様。私はただその少年の顔つきがいいから見惚れていただけですよ?ふふふっ」
ゲベルスは余裕たっぷりな表情を浮かべていたけど、俺には既に伝わっていた。
―――あいつは一瞬で魔力視野を働かせた。それから間違いなく、ニアの中に潜んでいる悪魔の正体に気づいた。
「ふふっ、ふふふふっ……ちゅるっ」
その証拠に、舌鼓まで打ちながらニアを見つめているじゃないか。
……ていうか、マジで気持ち悪いヤツだなと思いつつも、俺は相変わらず怯える演技をするしかなかった。
ヤツの計画をまるっきりぶっ壊して、自分の計画を成功させるために。
「バカ……!!どうするつもりなのよ、もう……!」
勇者たちがブリエンを気にかけている間、クロエは恨めしい口調と共に俺を睨んでくる。
本当にこの子、暗殺者にしては優しすぎるだろ……まあ、だから前世の推しキャラだったんだけど。
「それでは、街に戻りましょうか。カルツ様、このままの攻略は少々難しいかと思いますが」
「………ちっ、仕方ないか。みんな、街に戻るぞ」
さすがにこれ以上は無理だと判断したのか、カルツは舌打ちをしてから剣を収める。
その間、ゲベルスの視線はずっと俺やニアに刺さっていたけど―――
「……に、ニア。手……!!」
「……カイはバカ」
もう俺の心まで読めるっぽいニアに、つぶれるくらい強く手を握られていたせいで。
俺はもう一度前かがみになりながら、引きずるように歩くしかなかった。
遠くでゲベルスの存在を確認した瞬間、俺は口の端を吊り上げた。
やっぱりあいつが出てくるか。ということは、狂いはあるもけどシナリオはゲーム通りってことだな。
隣にいるニアは、よからぬ魔力を感じたのか口をぐっと引き結ぶ。その後、ニアは俺の服の裾を引っ張ってから言った。
「カイ、あの男の魔力、悪魔のものとほとんど同じ」
「だろうね。あいつ、黒魔術師だから」
「……カイは知ってたの?」
「あはっ、実際に会ったことはないけどね」
……そういえば、ニアには転生のことをまだ説明していなかったんだ。
今後のためにも説明すべきかなと思いつつ、俺は戦場の流れを観察し始めた。
「げ、ゲベルスさん!ちょうどいい時に!」
「ふふっ、タイミングが良かったですね。ギルドの支部長にカルツ様の位置を確認した甲斐がありました」
「っ!?カルツ、後ろ!」
「っ!?」
クロエの鋭い声が鳴るとともに、タランチュラの毒針が飛んでくる。
今のカルツのレベルじゃ、絶対に避けられない攻撃だ―――しかし。
「ダスク・ミラー」
ゲベルスが手を上げた瞬間。
カルツの後ろに赤黒い鏡が姿を表して、毒針をそのまま吸い込むように、飲み込んだ。
そのまま終わりのように見えたが―――次の瞬間、鏡からさっきの毒針が放たれ、タランチュラの胴体を正確に貫く。
「きえっ!?きえぇええええっ!!!」
急所を刺されてしまったタランチュラは、そのままチリになってしまう。
次第に、すべてのモンスターの視線が彼に……糸目で、禍々しい雰囲気を放っているゲベルスに注がれた。
「ああ、ブリエン様が怪我をしているようですね。アルウィン様は、そのまま彼女の治癒に専念してください」
「あ……は、はい!」
「俺は戦う!ゲベルス、一緒に―――」
「いえ、その必要はありませんよ、カルツ様」
簡単にカルツの言葉を無視した後、ゲベルスは手を挙げて中指を弾く。
それから広がった光景に、みんな目を疑うしかなかった。何故なら……。
「きえっ、きへっ、きひ、き、キぃいいいいいい!!」
「きひ、キぃいい――――――!」
―――彼らを囲っていたタランチュラがすべて、自分たちの体を捕食して行ったから。
狂ったように、モンスター特有の奇声を上げながら、蜘蛛たちは自分たちの胴体を食い尽くしていく。
自分の足にかじりつくやつもいれば、足を上げて自分の胴体をぐっと突き刺すやつもいた。
「な、なに、これ……」
あまりにも歪な光景に、怪我をしているブリエンさえも驚愕して、目を見開いた。
一方で、遠くからその姿を眺めていた俺は再び苦笑を浮かび、ため息をつく。
『ミスティック・タッチ。一定時間、相手の精神を操作して自分の思い通りにすることができるBランクの黒魔法……やっぱり、今の段階でもう熟知してるか』
あのスキルこそが、クロエを狂わせて化け物にした主な原因だった。
勇者がクロエを殺す展開は、すべてゲベルスが企んだものなのだ。
ヤツはクロエが自分たちの秘密を暴こうとしているのを察していたし、勇者がクロエを煙たがることも分かっていた。
だから、色々な策を使ってクロエを狂わせ、彼女を殺す正当性をカルツに与えたのだ。
もちろん、作品の後半にはゲベルスと敵対して、すべての真実を知ることになるけど―――その時の勇者の反応は、正にサイコパスに近いものだった。
『――たとえゲベルスに利用されたとしても、あの時の俺はクロエを殺すしかなかった。クロエはもう化け物になってたからな』
自分の仲間を殺したというのに、平然な顔で仕方なかったと言うカルツの姿。
なんの反省も自責もない図々しい姿に、どれほどのユーザーが憤ったことか。
俺はあの時の、背筋がぞわっとした時の感覚を未だに忘れていない。
『……絶対に死なせないからな、クロエ』
すべてのタランチュラが自害して、状況が落ち着いた後。
俺はニアと手を繋いで、ゆっくりとカルツたちの前に姿を表した。
「カイ、ニア!!無事だったんだ……ふぅ」
俺の姿を確認するなり、クロエは安堵の息を吐く。本当に心配性だな……この子も。
「カルツ様、こちらの少年少女は?」
「ああ、14階の休憩エリアに遭難していた子たちです。なんの記憶もなく、急に目が覚めたらダンジョンの中にいたらしいので、とりあえず一緒に行動をしてました」
「ふうん、なんの記憶もない、ですか……」
「っ……!?」
ゲベルスは目の端を吊り下げて、俺とニアをジッと見つめる。クロエはとっさに不味いと思ったのか、慌てて俺たちの前に立ちふさがろうとした。
ゲベルスは、Bランクのスキルを習得している魔法使い。魔力視野で見れるものも多く、俺やニアの中に潜んでいる悪魔の力に気づくだろう。
俺はダークサイトスキルでどうにか誤魔化せるけど、ニアはまず確実にバレる。
「……ちょっと、ゲベルスさん?子供たちをそんなに睨んだらダメじゃないですか」
「ふふっ、心外ですね、クロエ様。私はただその少年の顔つきがいいから見惚れていただけですよ?ふふふっ」
ゲベルスは余裕たっぷりな表情を浮かべていたけど、俺には既に伝わっていた。
―――あいつは一瞬で魔力視野を働かせた。それから間違いなく、ニアの中に潜んでいる悪魔の正体に気づいた。
「ふふっ、ふふふふっ……ちゅるっ」
その証拠に、舌鼓まで打ちながらニアを見つめているじゃないか。
……ていうか、マジで気持ち悪いヤツだなと思いつつも、俺は相変わらず怯える演技をするしかなかった。
ヤツの計画をまるっきりぶっ壊して、自分の計画を成功させるために。
「バカ……!!どうするつもりなのよ、もう……!」
勇者たちがブリエンを気にかけている間、クロエは恨めしい口調と共に俺を睨んでくる。
本当にこの子、暗殺者にしては優しすぎるだろ……まあ、だから前世の推しキャラだったんだけど。
「それでは、街に戻りましょうか。カルツ様、このままの攻略は少々難しいかと思いますが」
「………ちっ、仕方ないか。みんな、街に戻るぞ」
さすがにこれ以上は無理だと判断したのか、カルツは舌打ちをしてから剣を収める。
その間、ゲベルスの視線はずっと俺やニアに刺さっていたけど―――
「……に、ニア。手……!!」
「……カイはバカ」
もう俺の心まで読めるっぽいニアに、つぶれるくらい強く手を握られていたせいで。
俺はもう一度前かがみになりながら、引きずるように歩くしかなかった。
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