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72話 化け物の正体
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「ふぅ、ふぅ……っ、あうっ……!!」
「辛いでしょうけど、もう少しだけ我慢してください!傷が深すぎますから、念入りに治療しなきゃ……!」
「ふぅ、ふぅ……ご、ごめん、アルウィン……あなたも忙しいでしょうに」
「なにを言ってるんですか!私たち、仲間じゃないですか」
報告を聞いてすぐ教会に向かったところで、ちょうどアルウィンが両手を傷口に当てて、治癒魔法を施している姿が見えた。
教会の隅にある小さな治療室の中。俺とニア、クロエとリエルという4人組の登場にアルウィンは目を丸くしながら言う。
「あれ、皆さん……?どうしてここに?」
そして、ブリエンは俺たちの顔を見るなり、青ざめた顔で近くの弓矢を手に取ろうとした。
「っ……!?あ、悪魔!?それにクロエまで……まさか!」
「ち、違います!違うんです、ブリエンさん!カイさんは別に悪い人じゃなくて!」
「あぐっ……!?はぁ、はぁ、ふぅ……そ、そんなわけないでしょ!?私を襲ったあの化け物は黒魔法を使っていたのよ!それに悪魔の手下じゃなきゃ、あんな力を発揮できるわけ―――」
「……化け物って?」
落ち着いて話すべきだと分かっていながらも、思わず声が漏れてしまった。
しかめっ面になった俺の顔を見て、ブリエンは一瞬黙りこくる。言うか言わないかを悩んでいるのがありありと伝わってきた。
「大丈夫ですよ、ブリエンさん。私を信じてください」
「………………」
しかし、アルウィンの一言によって少しは疑いが晴れたのか、彼女はしぶしぶ言葉を続ける。
「……人間型の化け物に襲われたの。いや、ほとんど人間だった。なんか、皮膚とか色々変質されてたけど」
「………そっか」
人間型の化け物。それを聞いて真っ先に浮かぶのは、スラムの地下にあった死体だった。巨大な試験管の中に入れられていた死体たち。
それとも、生きている人間の体に無理やり黒魔法を注入して化け物にしたのか。どのみち、いい知らせでないのは確かだ。
向こうはブリエンにこんな傷を負わせるほど、強力な怪物を作れるというわけだから。
「ブリエン……これって、一体……」
「ああ……久しぶり、クロエ。ふぅ、ふぅ……ごめんなさいね、みっともない姿見せて」
「そんなことどうでもいいでしょう!?ていうか、この傷……!」
昔の仲間の傷を見て驚愕したのか、クロエはそそくさとブリエンの隣に腰かけて怪我の具合を確認する。
彼女がたまげるのも納得がいく。だって、パッと見ただけでも腕がボロボロなのだ。
左の腕がほとんどもぎ取られたような状況になっていて、反対側の腰辺りも斬られたのか、服に血が滲んでいる。
幸い、アルウィンがしっかりと止血をしてくれたらしいけど、落ち着いて話せない状態であるのは確かだ。
俺は両手で口元を覆っているリエルをチラッと見た後に、ブリエンに向き直った。
「ブリエン、悪いけど治療が終わったら、ちょっと話を聞かせてくれないかな」
「……私が、あなたに?どうして?あなたは予言の悪魔―――」
「ブリエンさん、大丈夫です」
ブリエンの腕に絶え間なく魔法をかけながらも、アルウィンが言う。
「今の私たちにとってカイさんは、味方なんですから」
「……でも」
「お願い、ブリエン」
そして、今度はクロエがブリエンの手を掴みながら、訴えかけるように言った。
「一度だけ。たった一度だけでいいから、私やアルウィンの顔を見て……カイに事の顛末を、話して欲しいの」
「……………」
色々と思うところはありそうだったけど。
ブリエンはふうとため息をついた後に、何度か頷いてくれた。
その日の夕方。俺たちはもう一度、ブリエンに渡された教会の寝室の中に集まった。
痛みが少しは和らいだのか、ブリエンは昼間よりは平穏な顔をしている。ベッドの上に座っている彼女の腕には包帯が巻かれていた。
そして、彼女はその包帯を数秒間見つめてから、ようやく話を切り出した。
「教皇の一件があった以来、私は一旦村に帰ろうとしたのよ。カルツも……そう、カルツも死んだし。アルウィンは、教会の再建にすべてを尽くすって言ってたから、パーティーはもう解散したと見るのが妥当じゃん?」
「……ごめんなさい、ブリエンさん」
「だから、アルウィンが悪いんじゃないって。とにかく、私は村に帰って未来のことをじっくり考えるつもりだったのよ。まさかカルツが死ぬなんてにわかには信じれなかったし、教皇だって………あっ」
「……大丈夫ですよ、ブリエンさん。私たち教会が許されない罪を犯したのは、間違いなく事実ですから」
「………とにかく、色々ありすぎてちょっと考えをまとめたかったの。なんのために戦っているのかも分からなくなったし」
ブリエンは、一度だけ間をおいてから話を続ける。
「そして、村に帰ろうとした途中で―――あの化け物に遭遇したの」
彼女が襲われた場所は、この首都の近くにいる平原だったと言う。交通路としても使われていないし、近所に鬱蒼とした森があるせいで人の往来もないところだ。
「初めて見た時は正直驚いたんだよね。魔物はダンジョンの中にいるのが普通だし、あそこはましてや首都のすぐ近くだったから。とにかく、軽い気持ちでヤツを倒して、早めに村に帰ろうとしたのよ。でも……」
「でも?」
俺が続きを促すと、ブリエンは緊張した顔で俺を見上げながら言う。
「あいつ、想像以上に強かった」
「………」
「S級ダンジョンのボスだと言われても信じるほど強かったの。あいつは剣一本で戦ってたけど、正直に言うと……私なんか相手にもならなかった。あの場面で逃げ切れたのが奇跡なくらいに」
「そんな……ブリエンさんが……」
「本当のことなの、アルウィン。あいつはすごく早かったし、早い以上に恐ろしかった。剣に殺気がいっぱいに込められていたの。でも、その割には隙が全く見えなくて、魔力量も膨大で……それにね?」
唾をグッと飲み込んでから、ブリエンは再び俺を見つめる。
「さっきも言ったけど、あいつは黒魔法を使っていたのよ」
「………………………………」
「剣にその魔力を纏わせて、黒いオーラ―を発散させていた。よく見たらあいつの体もボロボロでさ。半身がグールみたいになってて、目も真っ赤だったし、聞き取れない変な言葉もたくさん洩らしてたの。たぶん、あいつは黒魔法で人体改造されたんじゃないかな」
「人体改造、か」
「うん、そしてね?あいつ………………ぁ、いや」
ふと我に返ったように、ブリエンは何度か頭を振った。
明らかに違和感を感じる反応に、その場にいる全員の目が丸くなる。ブリエンは未だになにかを悩んでいるのか、深刻な顔で俯くだけだった。
絶対になにかあるなと、俺は直感的に察する。
反射的にクロエを見つめると、彼女は一度頷いてからブリエンに語り掛けた。
「ブリエン」
「………」
「どうしても話したくなかったら、話してくれなくてもいいよ。でも……私は聞きたいかな。些細なことでも、ヤツの正体を掴める手がかりになるかもしれないし」
クロエの言葉を聞いて、ブリエンはようやく顔を上げてくれた。
今も、その表情には苦悩に満ちている。ゲームの中と同じように、彼女は確信が立たないことはむやみに言わない性格の持ち主だ。
しかし、今度はその気質よりも疑わしさが勝ったのか。
彼女は若干体を震わせながら、肝心なことを口にする。
「あいつの剣はさ、黒魔法のオーラ―に包まれててよく見えなかったけど」
「うん、その剣がどうしたの?」
「……なんか、聖剣に見えたんだよね」
衝撃的な言葉に、みんなの口が開かれる。驚愕が広がる。
聖剣?聖剣って、あの聖剣なのか……?あいつか使っていた―――
「それに、あの顔………」
そして、ショックを受けた精神にさらに追い打ちをかけるように、ブリエンが言った。
「私には、カルツに見えたの。あの化け物の顔」
「辛いでしょうけど、もう少しだけ我慢してください!傷が深すぎますから、念入りに治療しなきゃ……!」
「ふぅ、ふぅ……ご、ごめん、アルウィン……あなたも忙しいでしょうに」
「なにを言ってるんですか!私たち、仲間じゃないですか」
報告を聞いてすぐ教会に向かったところで、ちょうどアルウィンが両手を傷口に当てて、治癒魔法を施している姿が見えた。
教会の隅にある小さな治療室の中。俺とニア、クロエとリエルという4人組の登場にアルウィンは目を丸くしながら言う。
「あれ、皆さん……?どうしてここに?」
そして、ブリエンは俺たちの顔を見るなり、青ざめた顔で近くの弓矢を手に取ろうとした。
「っ……!?あ、悪魔!?それにクロエまで……まさか!」
「ち、違います!違うんです、ブリエンさん!カイさんは別に悪い人じゃなくて!」
「あぐっ……!?はぁ、はぁ、ふぅ……そ、そんなわけないでしょ!?私を襲ったあの化け物は黒魔法を使っていたのよ!それに悪魔の手下じゃなきゃ、あんな力を発揮できるわけ―――」
「……化け物って?」
落ち着いて話すべきだと分かっていながらも、思わず声が漏れてしまった。
しかめっ面になった俺の顔を見て、ブリエンは一瞬黙りこくる。言うか言わないかを悩んでいるのがありありと伝わってきた。
「大丈夫ですよ、ブリエンさん。私を信じてください」
「………………」
しかし、アルウィンの一言によって少しは疑いが晴れたのか、彼女はしぶしぶ言葉を続ける。
「……人間型の化け物に襲われたの。いや、ほとんど人間だった。なんか、皮膚とか色々変質されてたけど」
「………そっか」
人間型の化け物。それを聞いて真っ先に浮かぶのは、スラムの地下にあった死体だった。巨大な試験管の中に入れられていた死体たち。
それとも、生きている人間の体に無理やり黒魔法を注入して化け物にしたのか。どのみち、いい知らせでないのは確かだ。
向こうはブリエンにこんな傷を負わせるほど、強力な怪物を作れるというわけだから。
「ブリエン……これって、一体……」
「ああ……久しぶり、クロエ。ふぅ、ふぅ……ごめんなさいね、みっともない姿見せて」
「そんなことどうでもいいでしょう!?ていうか、この傷……!」
昔の仲間の傷を見て驚愕したのか、クロエはそそくさとブリエンの隣に腰かけて怪我の具合を確認する。
彼女がたまげるのも納得がいく。だって、パッと見ただけでも腕がボロボロなのだ。
左の腕がほとんどもぎ取られたような状況になっていて、反対側の腰辺りも斬られたのか、服に血が滲んでいる。
幸い、アルウィンがしっかりと止血をしてくれたらしいけど、落ち着いて話せない状態であるのは確かだ。
俺は両手で口元を覆っているリエルをチラッと見た後に、ブリエンに向き直った。
「ブリエン、悪いけど治療が終わったら、ちょっと話を聞かせてくれないかな」
「……私が、あなたに?どうして?あなたは予言の悪魔―――」
「ブリエンさん、大丈夫です」
ブリエンの腕に絶え間なく魔法をかけながらも、アルウィンが言う。
「今の私たちにとってカイさんは、味方なんですから」
「……でも」
「お願い、ブリエン」
そして、今度はクロエがブリエンの手を掴みながら、訴えかけるように言った。
「一度だけ。たった一度だけでいいから、私やアルウィンの顔を見て……カイに事の顛末を、話して欲しいの」
「……………」
色々と思うところはありそうだったけど。
ブリエンはふうとため息をついた後に、何度か頷いてくれた。
その日の夕方。俺たちはもう一度、ブリエンに渡された教会の寝室の中に集まった。
痛みが少しは和らいだのか、ブリエンは昼間よりは平穏な顔をしている。ベッドの上に座っている彼女の腕には包帯が巻かれていた。
そして、彼女はその包帯を数秒間見つめてから、ようやく話を切り出した。
「教皇の一件があった以来、私は一旦村に帰ろうとしたのよ。カルツも……そう、カルツも死んだし。アルウィンは、教会の再建にすべてを尽くすって言ってたから、パーティーはもう解散したと見るのが妥当じゃん?」
「……ごめんなさい、ブリエンさん」
「だから、アルウィンが悪いんじゃないって。とにかく、私は村に帰って未来のことをじっくり考えるつもりだったのよ。まさかカルツが死ぬなんてにわかには信じれなかったし、教皇だって………あっ」
「……大丈夫ですよ、ブリエンさん。私たち教会が許されない罪を犯したのは、間違いなく事実ですから」
「………とにかく、色々ありすぎてちょっと考えをまとめたかったの。なんのために戦っているのかも分からなくなったし」
ブリエンは、一度だけ間をおいてから話を続ける。
「そして、村に帰ろうとした途中で―――あの化け物に遭遇したの」
彼女が襲われた場所は、この首都の近くにいる平原だったと言う。交通路としても使われていないし、近所に鬱蒼とした森があるせいで人の往来もないところだ。
「初めて見た時は正直驚いたんだよね。魔物はダンジョンの中にいるのが普通だし、あそこはましてや首都のすぐ近くだったから。とにかく、軽い気持ちでヤツを倒して、早めに村に帰ろうとしたのよ。でも……」
「でも?」
俺が続きを促すと、ブリエンは緊張した顔で俺を見上げながら言う。
「あいつ、想像以上に強かった」
「………」
「S級ダンジョンのボスだと言われても信じるほど強かったの。あいつは剣一本で戦ってたけど、正直に言うと……私なんか相手にもならなかった。あの場面で逃げ切れたのが奇跡なくらいに」
「そんな……ブリエンさんが……」
「本当のことなの、アルウィン。あいつはすごく早かったし、早い以上に恐ろしかった。剣に殺気がいっぱいに込められていたの。でも、その割には隙が全く見えなくて、魔力量も膨大で……それにね?」
唾をグッと飲み込んでから、ブリエンは再び俺を見つめる。
「さっきも言ったけど、あいつは黒魔法を使っていたのよ」
「………………………………」
「剣にその魔力を纏わせて、黒いオーラ―を発散させていた。よく見たらあいつの体もボロボロでさ。半身がグールみたいになってて、目も真っ赤だったし、聞き取れない変な言葉もたくさん洩らしてたの。たぶん、あいつは黒魔法で人体改造されたんじゃないかな」
「人体改造、か」
「うん、そしてね?あいつ………………ぁ、いや」
ふと我に返ったように、ブリエンは何度か頭を振った。
明らかに違和感を感じる反応に、その場にいる全員の目が丸くなる。ブリエンは未だになにかを悩んでいるのか、深刻な顔で俯くだけだった。
絶対になにかあるなと、俺は直感的に察する。
反射的にクロエを見つめると、彼女は一度頷いてからブリエンに語り掛けた。
「ブリエン」
「………」
「どうしても話したくなかったら、話してくれなくてもいいよ。でも……私は聞きたいかな。些細なことでも、ヤツの正体を掴める手がかりになるかもしれないし」
クロエの言葉を聞いて、ブリエンはようやく顔を上げてくれた。
今も、その表情には苦悩に満ちている。ゲームの中と同じように、彼女は確信が立たないことはむやみに言わない性格の持ち主だ。
しかし、今度はその気質よりも疑わしさが勝ったのか。
彼女は若干体を震わせながら、肝心なことを口にする。
「あいつの剣はさ、黒魔法のオーラ―に包まれててよく見えなかったけど」
「うん、その剣がどうしたの?」
「……なんか、聖剣に見えたんだよね」
衝撃的な言葉に、みんなの口が開かれる。驚愕が広がる。
聖剣?聖剣って、あの聖剣なのか……?あいつか使っていた―――
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