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第二章 お見合い編
神前挨拶2
「もー!まだ歩くの!?」
玉砂利敷きの伊勢神宮の参道は草履ばきの足には歩きづらく、さっきから何度目かの文句の訴えが桜子から出る。
着物を着た時の歩き方にはちょっとしたコツがあるけれど、慣れた私ですら閉口してしまう。
いつもは桜子のわがままや私の疲れに敏感な3人の当主達も今日はなんだか雰囲気が違う。
緊張しているというか、ピリピリしているというか、一挙手一投足に気を配っている感じ。
一つのミスも不敬も許されないとでも言うような。
3人とは反対に涼風だけは鳥居をくぐったあたりからご機嫌で、私の腕に抱かれたり周りを興味深そうにウロウロしたりとすごく楽しそう。
ホテルにお留守番のレレさんが着せてくれた白に水色の差し色が映える狩衣姿で元気いっぱいという感じ。
『なんかの撮影かな!?』
『背、高ーい!3人ともモデルかな!?超イケメン!!』
『あの子達いいなー!重課金かな!?』
一般の参拝客のどよめきが聞こえる。
うん、この3人、すごく目立つもの。私でも何かの撮影と思うよ。
絹の狩衣を召した笹音さんは優雅に桜子をエスコートしているし、日本人に見慣れない煌びやかな軍服を着た恭さんは私達の後ろを護衛騎士の様に歩く。
「結衣、大丈夫だ。いつも通りでいい」
あなた達が1番緊張しているのに……という言葉を飲み込んで隣の月宗様にうなずいて見せる。
しっとりとした炭黒の紋付き袴姿。
銀の帯がキリリとしまってあたりの空気まで冴えてくる様な圧倒感がある。
私の肩を抱いて歩く月宗様のエスコートは周りの参拝客の目を引きまくっていて、そんな事には全く目もくれず真っ直ぐに前を見る横顔は綺麗すぎて怖いくらい。
「涼風、お前は目立つ。これ被っとけ」
ふわりとジャンプして私の胸に飛び込んできた涼風に、どこから出したのか幼児が好きそうなアンパンのヒーローのお面を被せ布面を隠した。
「わぁ!涼風いいのもらったねぇ!凄く可愛い!」
一度取り外し、じっとお面を見つめまた被る仕草が可愛い。気に入ったんだな。分かっちゃうぞ!
緊張を涼風を抱きしめてやりすごし、どんどん内宮へ進んでいく。進んでいくごとに当主3人の緊張感が増していく。
————「ようこそお越しくださいました。どうぞこちらへ」
神主さんや神職の方々がズラリと並び、一般客とは離れ、奥へ奥へと入っていく。
あ、きっとここ普段は立ち入り禁止区域だと気づいた頃には宮司さんと私達だけになっていた。
「こたびの御慶事に立ち会わせていただけますこと、誠に嬉しく存じます。御三方におかれましてはすでにご承知のこととは存じますが、ここは神聖にして清浄なる場。とりわけ女子につきましては、言葉をお控えいただきますようお願い申し上げます。何気ない吐息すら、清浄を損なうものとなりかねませんゆえ、何卒ご留意くださいませ」
2メートルはあろうかと思われるしめ縄の設置された襖の前でうやうやしく頭を下げたままの宮司さんが言い、そのままスススと脇に下がった。
「私達が先に入室致します。ご挨拶が済みましたら静かに我らの後ろに座り頭を下げていて下さい」
笹音さんまで緊張からか顔が強張っている。
「なぁに?別にいつもと一緒でしょう?」
「桜子殿、ここで大人しくできたら私と笹森殿で新しいドレスを贈ろう」
恭さんが桜子の頭を撫でながら言い、笹音さんが頷く。
「ふぅん。べつにいいけど。早く終わらせてよね」
当主三人がアイコンタクトを取り、笹音さんが襖にむかってよく通る声を出した。
「慎みて、清き場に進ませて頂く」
宮司さんが襖を開けると、畳ではなく板張りの部屋に祭壇が設置され、中央に古い鏡とその脇に榊やらお酒やらが並んでいた。
奥に壁がないなと気づき、祭壇の奥にある壇上を見やると御簾が設置されていた。
当主三人が壇上に向かって跪き頭を垂れる。
騎士のような仕草に、時代劇みたいに正座して平伏するんじゃないんだなとぼんやりと思った。
「妖狐一族笹森家当主、まかり越しましてございます」
「狛犬一族天道寺家次期当主同じく参上つかまつる」
「八咫烏一族青幽家当主、同じく参進つかまつる」
騎士の様に膝をつき挨拶をした三人がより深く頭を下げると同時に、襖の横で控えていた宮司さんが私達に入れと促す。
よくわからないまま入室した途端、空気が変わったのが分かった。ピンっと張った澄んだ空間。温度まで急に下がった様に感じるほどの。
涼風がぐいぐいと私の手を引き、ここに座れと示した場所に私と桜子が並んで正座をして頭を下げると、また笹音さんが話す。
「此度の良縁、御神慮の賜わりを受け愛し子を迎え奉ること、まことに畏れ多くも感謝申し上げます」
————(力を与える)
「「「はっっっ!!!」」」
脳内に男とも女ともいえない声が響き、三人がより深く頭を下げた。
シンと静まったな、と思ったら私の横にいた涼風が何を思ったのかズンズンと前に進んでいく。
やばい!と思った時にはもう遅く、涼風は壇上に上がってしまい御簾を不思議そうに見ている。
三人も息を呑んで最大の警戒をしているのが感覚で分かった。
戻って!と声を出しそうになり慌てて飲み込む。喋るなと言われている。どうすればいいかわからない。子供を連れてくるべきじゃなかった。
私だけ顔も上げてしまって不敬かもしれない。
けれど涼風をなんとかしないと!
涼風はそのまま御簾を持ち上げて中に入ってしまった。
腰を浮かしかけた私を隣の桜子がぐいと引っ張り座らせる。
ダラダラと汗が流れる。
どうしよう、私のせいで儀式がダメになっちゃったかもしれない!
————(名をもらったか)
またあの声が響く。
「ひめしゃま」 久しぶりに聞いた、涼風の声。
————(励め、涼風)
ふんわり笑った様な声がして、それを最後にまたふわっと部屋の空気が変わった。
玉砂利敷きの伊勢神宮の参道は草履ばきの足には歩きづらく、さっきから何度目かの文句の訴えが桜子から出る。
着物を着た時の歩き方にはちょっとしたコツがあるけれど、慣れた私ですら閉口してしまう。
いつもは桜子のわがままや私の疲れに敏感な3人の当主達も今日はなんだか雰囲気が違う。
緊張しているというか、ピリピリしているというか、一挙手一投足に気を配っている感じ。
一つのミスも不敬も許されないとでも言うような。
3人とは反対に涼風だけは鳥居をくぐったあたりからご機嫌で、私の腕に抱かれたり周りを興味深そうにウロウロしたりとすごく楽しそう。
ホテルにお留守番のレレさんが着せてくれた白に水色の差し色が映える狩衣姿で元気いっぱいという感じ。
『なんかの撮影かな!?』
『背、高ーい!3人ともモデルかな!?超イケメン!!』
『あの子達いいなー!重課金かな!?』
一般の参拝客のどよめきが聞こえる。
うん、この3人、すごく目立つもの。私でも何かの撮影と思うよ。
絹の狩衣を召した笹音さんは優雅に桜子をエスコートしているし、日本人に見慣れない煌びやかな軍服を着た恭さんは私達の後ろを護衛騎士の様に歩く。
「結衣、大丈夫だ。いつも通りでいい」
あなた達が1番緊張しているのに……という言葉を飲み込んで隣の月宗様にうなずいて見せる。
しっとりとした炭黒の紋付き袴姿。
銀の帯がキリリとしまってあたりの空気まで冴えてくる様な圧倒感がある。
私の肩を抱いて歩く月宗様のエスコートは周りの参拝客の目を引きまくっていて、そんな事には全く目もくれず真っ直ぐに前を見る横顔は綺麗すぎて怖いくらい。
「涼風、お前は目立つ。これ被っとけ」
ふわりとジャンプして私の胸に飛び込んできた涼風に、どこから出したのか幼児が好きそうなアンパンのヒーローのお面を被せ布面を隠した。
「わぁ!涼風いいのもらったねぇ!凄く可愛い!」
一度取り外し、じっとお面を見つめまた被る仕草が可愛い。気に入ったんだな。分かっちゃうぞ!
緊張を涼風を抱きしめてやりすごし、どんどん内宮へ進んでいく。進んでいくごとに当主3人の緊張感が増していく。
————「ようこそお越しくださいました。どうぞこちらへ」
神主さんや神職の方々がズラリと並び、一般客とは離れ、奥へ奥へと入っていく。
あ、きっとここ普段は立ち入り禁止区域だと気づいた頃には宮司さんと私達だけになっていた。
「こたびの御慶事に立ち会わせていただけますこと、誠に嬉しく存じます。御三方におかれましてはすでにご承知のこととは存じますが、ここは神聖にして清浄なる場。とりわけ女子につきましては、言葉をお控えいただきますようお願い申し上げます。何気ない吐息すら、清浄を損なうものとなりかねませんゆえ、何卒ご留意くださいませ」
2メートルはあろうかと思われるしめ縄の設置された襖の前でうやうやしく頭を下げたままの宮司さんが言い、そのままスススと脇に下がった。
「私達が先に入室致します。ご挨拶が済みましたら静かに我らの後ろに座り頭を下げていて下さい」
笹音さんまで緊張からか顔が強張っている。
「なぁに?別にいつもと一緒でしょう?」
「桜子殿、ここで大人しくできたら私と笹森殿で新しいドレスを贈ろう」
恭さんが桜子の頭を撫でながら言い、笹音さんが頷く。
「ふぅん。べつにいいけど。早く終わらせてよね」
当主三人がアイコンタクトを取り、笹音さんが襖にむかってよく通る声を出した。
「慎みて、清き場に進ませて頂く」
宮司さんが襖を開けると、畳ではなく板張りの部屋に祭壇が設置され、中央に古い鏡とその脇に榊やらお酒やらが並んでいた。
奥に壁がないなと気づき、祭壇の奥にある壇上を見やると御簾が設置されていた。
当主三人が壇上に向かって跪き頭を垂れる。
騎士のような仕草に、時代劇みたいに正座して平伏するんじゃないんだなとぼんやりと思った。
「妖狐一族笹森家当主、まかり越しましてございます」
「狛犬一族天道寺家次期当主同じく参上つかまつる」
「八咫烏一族青幽家当主、同じく参進つかまつる」
騎士の様に膝をつき挨拶をした三人がより深く頭を下げると同時に、襖の横で控えていた宮司さんが私達に入れと促す。
よくわからないまま入室した途端、空気が変わったのが分かった。ピンっと張った澄んだ空間。温度まで急に下がった様に感じるほどの。
涼風がぐいぐいと私の手を引き、ここに座れと示した場所に私と桜子が並んで正座をして頭を下げると、また笹音さんが話す。
「此度の良縁、御神慮の賜わりを受け愛し子を迎え奉ること、まことに畏れ多くも感謝申し上げます」
————(力を与える)
「「「はっっっ!!!」」」
脳内に男とも女ともいえない声が響き、三人がより深く頭を下げた。
シンと静まったな、と思ったら私の横にいた涼風が何を思ったのかズンズンと前に進んでいく。
やばい!と思った時にはもう遅く、涼風は壇上に上がってしまい御簾を不思議そうに見ている。
三人も息を呑んで最大の警戒をしているのが感覚で分かった。
戻って!と声を出しそうになり慌てて飲み込む。喋るなと言われている。どうすればいいかわからない。子供を連れてくるべきじゃなかった。
私だけ顔も上げてしまって不敬かもしれない。
けれど涼風をなんとかしないと!
涼風はそのまま御簾を持ち上げて中に入ってしまった。
腰を浮かしかけた私を隣の桜子がぐいと引っ張り座らせる。
ダラダラと汗が流れる。
どうしよう、私のせいで儀式がダメになっちゃったかもしれない!
————(名をもらったか)
またあの声が響く。
「ひめしゃま」 久しぶりに聞いた、涼風の声。
————(励め、涼風)
ふんわり笑った様な声がして、それを最後にまたふわっと部屋の空気が変わった。
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