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第三章 龍族編
妹姫 1 月宗SIDE
「こちらへ」
ヒラヒラとした着物を着た宮女に案内されたのは、池の上に建てられた楼だった。
澄んだ池には蓮の花が一面に咲いている。
「何をするつもりだ」
「悪いようには致しません故……」
両手を顔の前で組む独特な礼をして下がっていく。
涼風が四つ守を呼んだということは、龍宗主が結衣の前にいるということだ。
即断を避けて、結衣を人質に取られる展開を防いだ。だが、それすら見透かされていたのだろう。
情報を集めなければならないというのに、あいつが結衣に何を吹き込むか、最悪な想像ばかりが頭をよぎる。
一人になり、代替案ばかりを考えている自分がいる。
結衣の作る涼風の神饌を与えるのはどうかと、一番にそれが浮かぶが、結衣の力を直接貰った後だからわかる。あの厄災級の呪詛に、それでは時間がかかりすぎる。
結衣の神楽舞なら……とも思うが、それも同じなのだろう。
龍宗主として全て分かった上で、一番確実で大きな力を得られる方法を出してきた。
(また同じ事はしない)
桜子の時と同じだ。
宗主として合理的な道を選んで結衣を傷つけたあの時と。
「くそっ…………」
池の上に張り出した東屋へ続く太鼓橋をハクが渡って来た。
俺の前に跪き、報告する。
「ご宗主殿、呪詛で間違いございません。あのような天災級の呪詛……我らではどうする事も……ですが進行を遅らせる事と、痛みを抑える事は出来ましょう」
「分かった。紫波は」
「父の調合した薬が良く効いたとかで…………」
「拘束されたか」
「おそらく。私はまだ半人前だと父が吹き込んだようで、父のみが…………お一人ですか……?」
驚いた顔で周りを見渡し言う。
「全員結衣に付けている。お前は俺に付け」
「承知」
「おそらくここに来る」
「妹姫でしょうか」
間髪を容れずに返された答えに驚く。
「流石だな。気付いたか。俺に娶らせる気だ」
「馬鹿なことを…………我らが姫の涙はもう見たくありません」
「涼風を盾に取られた。あいつは地上の空気では長くもたないらしい。龍国の一部を八咫烏に譲渡する代わりに妹姫を抱けと」
絶句したハクが自ら額の髪を上げる。
「先程の様子、私の記憶を読んで頂ければ」
妖が自ら記憶操作の術を望む事はまずない。
それだけこいつも結衣側、八咫烏側に立っている証拠だろう。
頷いて記憶を読む。
妹姫の様子、結衣との会話、龍宗主の挙動。
「人心掌握が上手い……か……」
「はい、どういう意味かと思っておりましたが…………他人を掌の上で動かすのが上手いのでしょう」
ハクのいう通りだ。
まずは結衣の同情を買い妹姫の見舞いの約束を取り付ける。
妹姫と誼を結ばせた後、助かる道を示す。
結衣のような純真な娘は動かしやすいと思っているのだろう。
————「青幽さま…………」
宮女が押す車椅子に乗って、妹姫が楼に現れた。
白に近い金の髪が緩く風に揺れる。
妖精のような容姿だが、どこか不吉さを感じさせる。作り物の様な女。
「ハク…………めんどくさい」
「やっと素が出てまいりましたねご宗主殿」
「おまえ、四つ守じゃなくて五つ守にするから入るか?」
「ご冗談を。戦うのは弟の専売特許です」
「振られた……」
「姫様にも振られないようにして頂きたい」
「それは嫌すぎる………………」
◇◆◇
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