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最終章 人族編
天空領の使い道
しおりを挟む私がリヒト様の邸に帰れたのはそれから一週間程たって、起き上がれるようになってからだった。
あまりお腹がすかないのに、まだ運動は禁止されているのでリハビリがわりにキッチンに立つ。
ケーキとクッキーを沢山焼くと、端から息子二人が食べていくのが面白い。
私に食べさせようと、何度も二人がケーキのカケラを私の口に運んでくる。
「ふふ、二人が食べてるの見たら少しお腹、減ってきたよ」
お食事エプロンを久しぶりにつけたクロム君と、頬いっぱいにクッキーを詰め込んだレスターが顔を見合わせて笑いあう。
今日はやっとキッチンに立てたので、子供達が喜びそうなものをうんと作るのだ!
「天女さん!ご要望のもの持ってきました!うぉぉいいにおい!!!」
「リツ!ここ座れ!お前も食え!!!」
レスターの口調、ほんとリヒト様そっくり。
「マジすか!いいんすか!?」
にっこりわらって見せると、嬉しそうにキッチンの作業台にあるスツールに腰掛けて子供達と並んで食べ始めた。
「クロム!俺はそれいらねぇよ!」
クロム君が善意でお食事エプロンを棚から出しているのが楽しい。離れには幸せがいっぱい詰まっている。
「さぁ~きっとお子様にはとびきり好評だと思うんだよね!」
リツさんに持ってきてもらったのは羊腸。
偽物の離れの周りに咲いていたハーブを沢山収集して帰った時から考えていた。
リハビリも兼ねて豚肉をミンチにしてハーブと塩を混ぜ込んでいく。
すぐ息が切れるから、休み休み丁寧に。
リツさんがドン引きしてるけど気にしない。
羊腸はエルダゾルクでは捨てる部位みたい。もったいない。
できたお肉を羊腸に詰めていく。所々ねじって、お子様大好きソーセージ!!!
ボイルしたのと、こんがり焼き目をつけたのを両方用意して、マヨネーズと濃いめに味付けしたトマトソースも一緒に出そう!
焼いてる途中から三人がワラワラとフライパンの周りに集まってきてしまって笑ってしまう。
ジュウジュウという音と、ソーセージの焼けるいい匂いが離れに充満する。
「つむつむ~~~いい匂い王宮まで来てる~~~」
「あ!リヒト様、ルース君おかえりなさい!」
「子供らが夢中だな」
子供達を見ると、ソーセージと格闘してる。これはおかわりいるなぁ。
「二人へのねぎらいに、好きそうなもの沢山作ってるの!」
「少し休め」
リヒト様はそう言って私を抱き上げて縁側に運ぶ。
大人しく休憩にしよう。きっとお膝に乗せてくれる。
キッチンではルース君が参戦してワイワイと楽しそう。
「まだ軽いな。俺が給餌するからお前はもっと食え」
「ふふ、うん。ありがとう」
「陛下からあの二人に褒賞が出るぞ。俺からも褒美をやった」
「ご褒美だらけだね」
「レスターは陛下からの褒賞を断ったんだぞ。知ってたか?」
え?知らない。何で?息子二人が頑張ってくれたおかげで私はここに帰って来れたのに。
「クロムはやるべき事をやっていたのに、自分は泣くばかりで何もできていなかったからいらないと、兄上に自分から言っていた」
「そんなわけ無いのに……でも、レスターが成長してるって感じで嬉しいな。かっこいいね、私の息子は」
「だから俺から二人に褒美をやった。お前の周りに常時結界を張った褒美だと言ったら泣いて受け取ったぞ」
「何をあげたの?」
「揃いの天馬の鎧」
「………………………………オモチャとかじゃないの……」
「はぁ?んなもん喜ぶかよ。レスターには軍服も作ってやろうとしたらそれはいらんと言われた」
「そうなの?前から憧れていたのに?」
「クロムのお下がりを貰ったらしい。それを着たいそうだ」
仲良しだなぁ。
「お前には…………功績が大きすぎて未だ褒賞がなかなか決まらん……」
「え?別にいらないよ?あ、ソーセージ二人とも気に入ったみたいだから今度から羊腸が出たらくれる?」
「…………………………」
「欲しいもの、ある」
「なんだ、なんでも言え。領地でも爵位でも城でもいい」
「リヒト様からのキスが欲しい」
「仰せのままに」
ふっと笑ったリヒト様の優しいキスが降ってきて、甘い甘いキスに変わる。
ドロドロに溶かされて、嫌な思い出を洗い流してくれる。
「紬ちゃ~~~ん!!!」
エルシーナに乗った陛下が空から庭に降り立ち、私に手を振る。
「陛下!こんにちは!どこかへお出かけだったんですか?」
「エルシーナを自慢しがてら天空領の視察~~~」
天空領に住んでいた人間は、国外追放を受け各地に散らばって行ったそうだ。
その他の詳しい事は教えては貰えなかった。
堤さんや神官達がどうなったのか私は知らない。
もう安心していいという、リヒト様からの言葉だけ。
空に浮かぶ大地はそのままエルダゾルクの国宝として戻ってきた。楽園と呼ばれるぐらい豊かな土地で、すごく広い。
天空領の下部分には光を集める魔法がかけられている様で、上にあっても下の土地が陰る事がないらしい。
今は王都の真上に止まっている。
クロードさんとユアンさんはそちらの片付けに行ってるそうだ。
「エルシーナの初陣だったからな。浮かれまくってまだ浮ついてんだよ」
「ふふ、エルシーナは幸せ者だね。愛されて」
縁側に陛下が座り寛ぎ始めたので、ミリーナさんが慌ててお茶を入れにキッチンに飛び込んで行った。
「楽園は自然豊かなまま残されていたよ。誰かさんがえぐった部分はしょうがないから更地にしようかな」
「…………………………兄上、用件をどうぞ」
「紬ちゃんの褒賞だけどねぇ、功績が大きすぎてどうしたものかなと思ってるんだけど……」
「?私、なんにもしてませんよ?天空領にいって、体調崩して帰ってきただけで」
「………………リヒト、話進めていいかな?」
「ええどうぞ」
「天空領の奪還、人国との負の誓約破棄、百名の竜人の命の救済、加えてリアの名を継ぐ双子の出産。上げたらキリが無い」
「紬からの要望は一生出ないでしょうからお任せ致します」
「だよねぇ。とりあえず今考えているのは公爵位に叙す事と、天空領の管理を任せるから好きに使っていい事かな?楽園は割とスピードも出るし、好きなところに行けるよ~~~何を植えても育つ豊かな土地だから何でもできるよ~~~!」
「お前、俺と同じ爵位かよ……クロムがいるし、まぁいいか。成人したらあいつが全部やるだろ」
「天空領を私の好きに?貰ってもこま………」
ちょっといいこと、思いついたかもしれない。
私の好きにできるなら。
「リヒト様、天空領、テトとルルの遊び場にできる?リンゴとオレンジ沢山植えたい」
リヒト様の紺色の目が細くなって、金色の光彩がトロッと溶ける。私を甘やかす顔。
「いいよ、レンガの家も高台に建てるか。家族で泊まれるように」
「わぁ!すごい!」
「エルシーナも仲間に入れて~~~~~~!!」
「母上!ツキ達も!!!!」
「つむつむ!?ヴァルファデを仲間外れにしないで!!陛下!夫婦特典でヴァルファデもねじ込んで下さい!!」
ルース君が焦った様子でワタワタとこちらに来て陛下に懇願する。
————「是非クリストフとエレノアもよろしくお願いします」
————「すごいなぁ……アルトバイスも頼む」
天空領から帰ったユアンさんとクロードさんが目の前に天馬で降り立ち言う。
「ふふふ!みんなで遊んでもまだまだ広いね。思いっきり遊ばせてあげれそう!シーラフも呼んだら遊びに来てくれるかなぁ?」
「はぁ!?主人は入国禁止だ!お前あいつの事わりと気に入ってるだろ!!!あーゆう誠実そうなやつはダメだ!!ろくでもねぇ!!」
誠実なのがろくでもないってどういうことなのか。
「ははうえ、ひょう、あげない」
クロム君が膝に乗りコアラの様にくっついてきて言う。
以前は前を向いて膝に座っていたのに最近はもっぱらこのコアラスタイルに変わった甘えん坊のクロム君が黒豹王子にヤキモチを焼くのが可愛い。
リヒト様はまだブツブツと文句を言ってる。
「温泉があるからお母さん達もきてくれたら嬉しいなぁ」
帰った日にお見舞いに来てくれたお母さんに泣きながら怒られた。
「次同じ様な事があったら私も一緒につれていきな!」
とお化粧が全部落ちる勢いで泣かれてしまった。
小さなイケメン二人が頭を撫でたり抱きしめたりとワタワタ慰めていたのが最高に可愛かった。
◇◆◇
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