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最終章 人族編
ユアンさんの婚約者 1
しおりを挟むホールから中庭に出て、王族専用庭を目指す。
後ろからクロードさんとルース君がついて来ているのがわかる。ルースくん、超楽しそう。ワクワクしてるの丸わかり。
反対側の塔の図書室前の庭で子供達とお爺さん達が何かわちゃわちゃやっているのが遠くに見えた。
クロム君と目があった気がして手招きしてみると、目のいい獣人のクロム君にはしっかり見えていた様ですぐにこっちに飛んできてくれた。
「ははうえ!」
「ふふ、クロムくん、ご挨拶して?こちらはヤクトア辺境伯の御息女、ヤノ様。ヤノ様?私の息子のクロムです」
「小公爵様、ヤノと申します。以後、お見知り置きを」
クロム君はヤノ様の前に降りたち跪く。
身長が足りないからか、その後浮き上がって手を取って額をちょんと付けた。
貴族の子供のするこの国の挨拶らしい。
「クロム・レイリン。ヤクトア、国境の、要」
「まぁ、光栄でございます。小公爵様の領地とは離れておりますのに……ご聡明な」
おぉ!クロム君がちゃんとご挨拶したばかりか、雑談までこなしている!!!びっくりだよ母上は!!子供が褒められるって嬉しい!
「ふふ、クロム君、上手にご挨拶できたね、ちょっとの間、私たちの護衛を頼める?」
「ん、やる」
「そういう事なので、クロードさんとルース君は会場に戻っていて下さい」
ワクワク顔だったルース君が残念そう。
クロードさんは訳がわかってなさそう。
二人を残して王族専用庭に入ると、ガゼボにお茶を用意をしているリツさんがいた。シゴデキ。
用意が終わると一礼して下がっていった。
「何故、私を?」
「お話ししてみたいと、思いました」
「ユアン様の事でしょうか」
おぉ、直球できたな……。
「ユアンさんと、何かあるのですか?」
「………………」
すっとぼけてみたけどダメか。
「ヤノ様お一人だけ、この縁談パーティーに気乗りしていない様に見えたので」
ヤノ様はちょっと驚いたお顔をした後、顔を伏せた。
「申し訳ありません。貴族の娘として失格ですね……顔に出すなど……」
いえそれは私と息子の特殊スキルのせいで分かっただけで。とは言えないからふんわり笑って誤魔化す。
「ユアンさんとお付き合いされていたんですか?」
なんとなく気になったことを聞いてみる。
「元…………婚約者でございます……」
「元……」
別れたけど、まだ縁がある。どういう事だろう。
「お別れした理由を伺っても?」
「それは…………ユアン様は、素敵な方ですので……その……」
「他の令嬢の嫉妬を買ったのでしょうか」
ズバッと聞いてみると「はい……」と素直に認めて頷いた。
「私への嫌がらせが、父の怒りに触れまして。二十七の時に婚約解消を致しました。それまでは、王都のタウンハウスにいたのですが、解消してからは領地ですごしております」
「どんな嫌がらせを?」
「着物を裂かれたり、物を隠されたり、は……まだ良かったのですが……毒を盛られて……それが父の怒りに触れたのです。幸い直ぐに吐き出しましたし、弱い毒でしたので……」
お、おぅ、すごいな。ドロッドロだ。
「今回の縁談パーティーはお父上が?」
「えぇ、私も二十九ですし、行き遅れる前に社交界に戻らなければなりません。今回陛下のお相手に選ばれるとは父も思っておりません。私が王都に帰っても平気かどうかを確かめるための参加なのです」
「成る程…………。今だに嫌がらせはありましたか?」
「ユアン様とはもう婚約者ではありませんし、今の所好奇の目があるだけです、父もこれで安心するでしょう」
幸薄系とでもいうのか、儚い系の美女が苦笑する破壊力すごい。涙ボクロのある細く涼やかな目元が凄まじい色気を出してる。
何と言っていいのか分からず、無言の時間が過ぎるけれど、その時間も心地よい。
サクサクとクロム君がカナッペをほうばる音だけが響く。
「あ、あの……」
ヤノ様が頬を赤らめて話しづらそうにする。はぁ、守ってあげたくなる系。やばい。
「しょ、小公爵様、こちらもどうぞ……」
カットフルーツをフォークでクロム君の口元に運ぶ仕草も美しい。
頓着なくあーんと口をあけるクロム君、めちゃくちゃ可愛い。
「ふふ、クロム君、ヤノ様のお膝にお邪魔しておいで」
キョトンとしたクロム君が、それでも私の言うことを聞いてふよふよと彼女の膝に飛んでいきおさまった。
ヤノ様、キュンキュンしてる。
分かる分かる、わたしのクロム君は可愛いからね!
「こんな……お可愛らしい……」
「ふふふ、ありがとうございます。息子を褒められるのって、嬉しいものですね」
「こんなにお可愛らしいのは……エルダゾルク神の加護を受けているとしか……!!!っ美少年……」
わりとミーハーなのか。ユアンさんの事も、タイプだったんだろうな。
——————「紬嬢!!!!」
ゼェゼェと息が上がったユアンさんがガゼボの入り口に現れて、ヤノ様がクロム君を抱いたまま立ち上がり礼の姿勢をとった。
「っ————ヤクトア、辺境伯嬢……お久しぶりです」
「はい、お久しぶりでございます、シュトルツェ伯爵子息様」
この二人、まだ想いあってるなぁ。
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