【短編】バレンタイン当日にドキドキしながら下駄箱を開けたら、上履きが盗まれていた話。

夜葉@佳作受賞

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ガーリー・ビター・バレンタイン・グレイス

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 二月十四日。それは、男共にとっては気が気でない日であり、同時に命日にもなり得る、甘くて苦い一日であった。

「今年こそは俺も貰えねぇかな~。黒崎は良いよな。去年も一昨年も貰ったんだ。今年も安泰だろ」

「安泰って……。偶然貰えただけかも知れないじゃないか。そういう友部、お前こそ今年は貰えるって」

「どうだかねぇ~……」

 親友である友部と適当な会話を打ちながら、俺達は高校の下駄箱の前へと着いた。
 俺は慣れた手つきで自分の使っている列へ向かい、名前が書かれた場所を開いていつものように上履きを取り出そうとした。その時だった。

「……無い」

「はぁ? 無いって何が。チョコが? そう慌てなさんな。今日と言う日はまだ始まったばかりだ。それに俺だって入ってない。気にするな」

「違う。違うんだ。チョコではないんだ。いや、チョコも無いんだが……」

「何が違うってんだよ?」

「俺の上履きが、無くなっている……!!」

「な、なにぃ……!?」

 二月十四日。またの名をバレンタインデー。
 そんな特別な日に、俺の上履きは下駄箱から姿を消していた。

 俺の虚しい叫びが、下駄箱を前に一喜一憂する周りの学生達へと響き渡っていた。

 すると、ただ一人場違いな絶望をする俺のもとへ、手を差し伸べるが如き救いの声が聞こえてきた。

「お困りのようだね……。黒崎少年」

 俺は咄嗟に空っぽの下駄箱から声のした校舎の内側へ顔を向ける。そこに居たのは、よく見知った人物であった。

「星野……? なんでお前が、いや。そもそもその恰好はなんだ?」

 中学からの同級生で、よく暇を見つけては下らない事に巻き込んで来る変人。それが星野。
 今日の彼女は紺のブレザーに紺のスカートと一般的な女子の恰好をしていた。

 しかしその頭にはお前は探偵かと言いたくなるようなチェック柄の帽子を被り、肩には茶色の良質な素材を使っていそうなケープを、そして片手には何円均一で手に入れただろう安物の虫眼鏡を持っていた。

「特別な日には特別な事件が付き物だと思ってね。予想通り、事件が起きたという訳だ」

「いや答えになっていないが……」

「それで、問題の下駄箱の中は……ふむふむ、なるほど。ものの見事に空っぽだね」

 俺より頭一つほど身長の低い星野は、背伸びをしながら下駄箱の中身を調べていた。
 役に立っているのか分からない虫眼鏡越しにキョロキョロと捜査していると、次第に登校した生徒達が集まって来ていた。

「とりあえず教室行かね? ここに居ても俺ら邪魔だぜ」

 友部がもっともらしい意見を述べてくれた。
 俺もその案に乗り、何はともかくこの場を離れる事にする。

「友部の言う通りだ星野。とりあえずこの件は教室に行ってから話し合おう。俺は来客用のスリッパを借りて来るから、二人は先に行っててくれ」

「なっ、まだ現場の確認は済んでいないのだぞ!」

「いいからいいから!」

 俺は友部と協力しながら、捜査を続けようとする星野を下駄箱の前から連れ去った。

 靴下越しに伝わるひんやりとした廊下の感触が、冬はまだ終わっていないと俺に告げているようだった。


 ――――――――――――――――――――


 パカパカとスリッパの音を立てながら、俺は二階にある自分の教室へと向かう。

 通り掛けにちらほらといた男女が、今日ばかりは特別に感じて妙にソワソワとしてしまった。

 教室に着くと俺は扉を開け、適当におはようと挨拶を吐く。
 そして自分の机へと向かってみると、友部と星野が緊張した面持ちで待っていた。

「どうしたんだよ?」

「黒崎少年……第二の事件だ」

「はい?」

「机を確認してみたまえ」

 完全に役に入った星野の言葉に、俺は思わず息を飲んだ。

 そして自分の机へと鞄を置き、机の中を覗き込んだ。そこにあったのは。

「テープ……? なんでこんなものが」

 俺の机には、がっちりと透明なビニールテープで目張りされていた。
 それこそ、物の一つも出入り出来ないように……。

「黒崎、それだけじゃないみたいだぜ」

 友部の声を聞き、俺と星野はロッカーの方へ振り返った。
 そこには、同じく俺の場所だけがテープで目張りされていたのだ。

「黒崎くん……まさか恨まれるような事とか、してないよね?」

 名探偵を気取っていた星野の口調が、思わず崩れ普段通りに戻る。

 不思議な状況を前に、俺は心臓がドクンドクンと脈打つのが聞こえた。

「そんな事はしていない……と、思いたい……」

 俺はがっくりと肩を下げて露骨に落ち込んでいた。

 心配するな励ます星野の声の聞こえないまま俯いていると、そこへ突然大きな声と共にある人物が登校してきた。

「おはよう諸君! こんな日に落ち込んでいる奴はいないかね? そんな奴にはこの水瀬サマがチョコを渡して進ぜよう! はっはっは!!」

 二ヵ月遅れのサンタさんですか。と言われても納得出来そうな大袋を持って教室へ入って来た彼女は水瀬。
 毎年クラス全員にチョコを配る律儀な奴だが、実際は集まるお返し目当てなのを知っている者は少ない。

「そうだ今年は水瀬ちゃんと同じクラスじゃん! ラッキ~♪」

 例にもれず、万年ゼロ個な友部も彼女のチョコに釣られて水瀬の作る輪の中に混ざっていった。

「良かったな、友部……」

 俺はポツリと親友の奇跡を祝福する。
 現代のねずみ小僧とでも呼びたくなる様子で、水瀬は次々と市販のチョコ菓子をクラスメイトに配っていた。

 微笑む女子生徒や涙を流す男子生徒が輪から離れていくと、水瀬は俺と星野の元へとやって来た。

「ほれ、黒崎に星野っち。今年もチョコをあげるよ~って、なんでスリッパ履いてるの?」

 ザ陽キャなテンションで近づいて来た水瀬は、黒崎の足元を見て当たり前な疑問を浮かべていた。

「無くなってたんだよ……上履きが」

「うっそ、マジ? ……ならどうして机にテープ貼ってんの?」

「これも今朝来たら貼られていたようなんだ。水瀬さん、何か知らないかい?」

 改めて名探偵スイッチを入れ直した星野は、虫眼鏡で貰ったチョコを観察しながら伺った。

「ん~黒崎って好かれる事はあっても、嫌われるような事はしてないんじゃない?」

「そ、そこではない。この件について、何か目撃情報や心当たりなど無いか聞いたんだ」

「あ、そっち。と聞かれても昨日は買い出しに行くからすぐ帰ったし、今日も今来たばかりなんだよねぇ」

 テープと格闘する俺を置いて、星野と水瀬は推理を広げていた。

 そうこうしているうちにチャイムが鳴り、この問題は一度保留する事となった。

 水瀬がくれたチョコ菓子には、メッセージ欄に『ファイト!』と意味深な言葉が書かれていた。

 ――――――――――――――――――――


 時刻は進んで昼休み。

 昼食を取り終えた俺と星野は、上履きを求めて校舎内を歩いていた。

「休み時間や飯の時も言った通り、俺には本当に心当たりが無いんだ」

「うーむ、では誰がこんな事を……」

 ああでもないこうでもないと言い合っていると、そこへ凛とした美しい声が割って入って来た。

「星野、また君か。指定外の衣服を持って来るなと、何度も言っているだろう」

「有栖川さん!? ち、違うの。これはね、ちょっとした事件があって……」

「事件だと? それこそ風紀委員である私の出番ではないか。今すぐその奇天烈な衣服を脱いで、その事件を私達風紀委員に受け継ぐべきだ」

 凛とした立ち振る舞いに、背筋の伸びた姿勢の良い彼女は有栖川。
 同学年の別クラス所属で、風紀委員の一員でもある。

「有栖川、そこまで大事にしなくて大丈夫だ。いや、恥ずかしいからしないでくれ……」

「恥ずかしいとは何がだ……ん? 黒崎、学校指定の上履きはどうした。それは客員用のスリッパではないか」

「失くしたんだ。ああ、事件とはこの事なんだ……」

「なるほど……。時に、その理由は?」

「それが分からないから、こうして探偵として探し回っているんです。有栖川さん、何か知りませんか?」

 凛々しい彼女の姿にドキリと驚いた星野は、また普段の口調へと戻っていた。

「うむ……。黒崎は模範的生徒だとうちでも評判が良いぞ。時々私の仕事も手伝って貰っているし、あえて言うなら……そうだな、生真面目過ぎて周りの気持ちに気づいていないなど、するのではないか?」

「わっ、わわ、わー!? そういった話じゃないです!! 彼の上履きが届いていないかとか、そういった事を聞いているんです!!」

「なんだ。そうならそうと言って欲しいぞ。そういった話は今のところ聞いていないな」

「そうですか……突然失礼しました」

「なに、心配するな。他でもない黒崎の困り事だ。私の方でも探しておこう」

「ああ、ありがとう。じゃあな」

「ああ、失礼した。……っとその前に、黒崎。これを」

「?」

 有栖川はポケットから包に入った小箱を取り出すと、俺に手渡して来た。

「これは?」

「ショコラなんとかというチョコだ。それを渡そうと君を探していたのをすっかり忘れていた。義には義をもって返す。義理堅く生きろというのがうちの家訓でな。甘いものは苦手だったか?」

「いや、そんな事ないよ。ありがとう」

「うむ、それは良かった。そうだ星野、君にもあげよう。友チョコ? という奴だ」

「いえ…………甘いものは、苦手なんで大丈夫です」

「……そうか。ではまた今度別の物を用意しておこう。ではな」

 有栖川は歩いて去っていった。

「あれ、星野って甘い物苦手だったっけ?」

「……別に。今はそれどころじゃないでしょ」

「ああ、そう……だな」

 俺と星野は昼休みの間上履きを探し回った。しかし何も手がかりは掴めないまま、チャイムの音が校内へと鳴り響いたのだった。

 後ほど有栖川から貰ったチョコを見てみると『誠心誠意』と書かれたメモが包みに挟まっていた。


 ――――――――――――――――――――


 それからさらに時刻は過ぎて、ついには放課後となっていた。

「こうなったら、下駄箱で張り込みをするしかないか……!?」

「やめなさい! 恥ずかしいでしょうが!」

 帰宅部である俺と星野は、鞄を持ったまま学校が閉まるまでの間探す事にした。

 教室の前の廊下を歩きながら、どうやって上履きを見つけ出すか、最後の手段を相談していた時の事だった。

「あら、黒崎クンじゃない。こんな所で何やってるの?」

「ん、花井か。そっちこそ放課後に何をやっているんだ?」

 周囲にソワソワとした男子の集団を引き連れているのは花井。
 隣クラスの同級生で、その美貌と愛嬌から学園のマドンナと噂されている。

 数メートル後ろから最後のチャンスを淡くも期待する男子達を尻目に、花井は俺へと話しかけて来た。

「別にー? 今日一日君の姿を見かけなかったから、何をしてたのかなって……。って、なぁにそのダサい足元。今日は生徒ではなくお客様だったのかしら?」

「ちげーよ。失くしたんだよ。そもそも在学中に、お客様で来る事なんかある訳ないだろ」

「それもそっか。んふふ、やっぱ君は面白いねぇ」

「う、うんっ……。花井さん、どうしてあなたが黒崎くんを探していたの?」

 学園でも屈指の人気者を前に、星野はまた口調が普段通りへと戻っていた。
 自称名探偵も、人気の前には無力らしい。

「あら星野サン。そっか、君が連れ回してたんだ。へぇ~君がねぇ~」

「……質問しているのは、私なんだけど」

「あら、ごめんなさい。そんなの決まっているでしょ。はい、黒崎クンっ♪」

 そういうと、花井は丁寧にラッピングされた高級そうな小箱を俺に渡して来た。

「……これは」

「もう、言わなくても分かるでしょ♪ 私、変に人気だからさ。こうやって気楽に話してくれるあなたの事は、気に入っているのよ?」

「そ、そうか。それはありがとう……」

 んふふっ、とチョコを渡して満足げな花井は、満面の笑みを浮かべていた。
 そして何かに気づいたのか、不意に星野へ近づき、何かを口にした。

(も・ち・ろ・ん。義理よ。なーんてうっそ~。本当は本命だったらどうする?)

(なっ!? どうしてそれを私に言うの……!?)

(さぁね~♪ うふふっ)

(ぐぬぬ……)

 ひとしきりヒソヒソ話をして満足したのか、花井はチョコが貰えなくて嘆いている男子達を気にもせず去っていった。

 小動物のように威嚇している星野を見ると、どうもまた小競り合いをしたらしい。

 この二人にも仲良くなって貰いたいものだが、中々上手く行かないなぁ。

「それで、この後どうする? もう諦めて帰るか?」

「何を馬鹿な事を言ってるの。今日あった事を改めてまとめるわ。付いて来て!」

 そういうと、星野はズカズカと人の少ない場所を目指し進んで行った。

 彼女の言うがままに、俺もその後を追った。

 移動中ちらりと花井から貰った高級チョコを見てみると『健闘を祈ってあげる』と書かれたメッセージカードが入っていた。


 ――――――――――――――――――――


 星野に流され着いた先は、現在誰も使っていない空き教室であった。

「ここなら落ち着いて推理が出来るね。黒崎少年」

 誰もいなくなったからか、星野は再び名探偵スイッチを入れる。

「推理って言っても、星野は何か分かったのか?」

「それを今から考えていくのさ」

 そうかいそうかいと半ばあきれ気味に相槌を打ち、俺は彼女の自称天才的な推理を聞く事にした。

「まず最初に君へ降りかかった事件は二つ。下駄箱から上履きが消えた事と、机とロッカーに目張りされていた事だ」

「ほう、それで?」

「次にここへ今日という日を当てはめてみる。するとどうだろう。君へひっそりとチョコを渡す手段が無くなっているのだ」

「いや、別に机の上とかに置いといても良いと思うけど……」

「良くなどない! それが他の誰かに見られたらどうするの! 乙女心というものを理解しなさいっ!!」

「は、はぁ」

 星野は耳を赤くしながら俺へと注意してきた。

 今回は名探偵へ成り切っているように、彼女は何かあっては可愛らしいコスプレをして俺を事件へと巻き込む。
 なのにビックリしたりビビったりすると、不意にいつもの彼女に戻ってしまう。

 そんな彼女だからこそ、俺は心置きなく巻き込まれているんだなぁと、今の彼女を見てふと思い返していた。

「次に、君は今日三人の女の子からチョコを貰っていたな?」

「あ、ああそうだ。朝に水瀬からチョコ菓子を。昼に有栖川からショコラを。そして放課後に花井から高級なやつを貰った。それがどうした」

「全く……、他の男子が聞いたら血涙ものだぞ。だからそこで、私はまず誰かからのイタズラの線を考えた」

「ほう」

「だが生憎とその線は違っていたようだ。今日一日君の周りを気に掛けていたが、特に視線を向ける者はおらず、それに今日会った彼女達も君が恨まれるとは考えにくいと証言してくれていた」

「確かに。ちょっと照れくさいけどね、へへっ」

「私は真面目に推理しているのだよ。黒崎少年」

「これは失礼しました。名探偵」

「…………。つまり、この犯行は君への恨みではなく、君へのチョコを減らすためのものだったのだ」

「……どういう事だ?」

「この事件は、君を独占するために仕掛けられた、迷える子羊による犯行だったのだよ!!」

「な、なんだってー!? いや本当になんだよそれは」

「つ・ま・り、今日君に告白しようとしていた女の子がいた。しかし、私が一緒にいた為に出来なかったの!」

「…………そんな」

「現に黒崎君は三つチョコを貰っている。そうだよね?」

「あ、ああ」

「クラスメイトの陽キャこと水瀬さん。別クラスで風紀委員の有栖川さん。そして学園のマドンナ花井さん。そう、犯人はこの中にいる」

 「それで、誰が犯人だと言うんだ」

「それはまだ、分かっていない……」

 そうかいそうかいと、俺は彼女の中途半端な結論に相槌を打った。

「思わず納得しかけたけど、その推理には大きな矛盾が一つあるぞ」

「矛盾……?」

「ああ、決定的な矛盾だ」

 不思議な顔をして星野が俺の顔を伺っていた。
 そんな彼女へ、絶対的に揺るがない事実を突きつけた。

「その三人と俺は、そんな仲じゃないよ。水瀬とはお前を通して仲良くなった友達だし、有栖川だってお前がきっかけで知り合い手伝うようになっただけだ。彼女だけを特別扱いしている訳じゃない。そして花井。彼女と打ち解けるようになったのは、星野。お前が町で変な連中に絡まれていた彼女に声をかけたからだろ。そこにたまたま俺が居合わせただけじゃないか」

「し、しかし! 君は魅力的な人だ!! 恋心を持たれたって不思議じゃないだろう!」

「確かにそうかもしれない。もしかしたらそうだったかもしれない。でも、それでも俺と彼女達はそういった関係にはなっていない」

「どうして、そう言い切れる……?」

「だったら逆に聞こうか名探偵。いいや、星野。どうしてお前は、俺が事件に巻き込まれると知っていた? いや、それ以前に何故下駄箱で事件が発生すると分かっていた?」

「!! そ、それは……その……つまりだな」

 俺は名探偵ではなく同級生で友人の星野に、彼女の行った行動の確証を得るために質問を投げかけた。
 なぜなら、この事件の全貌を俺はもう知っていたからだ。

「答えは簡単。俺が学校に着くより前に、俺の下駄箱を開けていたから。俺の下駄箱の中身を、変える事が出来たから」

「…………。確かに、私は黒崎くんの下駄箱を開けた。あなたが登校してくるより前に」

「だったら」

「でも違う! 私は上履きなんか取ってない! そんなイタズラやってないよ!!」

「じゃあ、どうして俺の下駄箱を……?」

「それは…………言えない。言えないの」

 星野の瞳は、今にも泣きだしそうなほど水分を含んでいた。
 夕陽に輝く涙は、美しくて、儚げだった。

「待て、星野。誤解しているようだが、お前を犯人だと疑っている訳ではない」

「えっ……?」

 犯人の疑惑をかけられた星野は、今にも取り乱しそうなほど慌てているようだった。
 だから俺は、事の顛末をしっかりと説明した。

「なぜなら答えは……こうだからだ」

 俺は鞄へと手を突っ込んだ。
 そしてその中から、俺の上履きを取り出した。

「えっ!? どうして黒崎くんが持っているの……!?」

「そもそも、盗まれた訳でもイタズラされた訳でもない。俺がわざと持って帰っていたんだ」

「どうして……。じゃ、じゃあ、あのテープは? 昨日は一緒に学校を出たし、今日は私の方が先に来ていたでしょ!?」

「あれは、友部の仕業だ。いいや、俺が昨日学校を出た後にやってくれるよう頼み込んでいた。つまりそれも俺の仕業だ」

「そんな……。分からない。分からないよ……。なんでそんな事をしたの? どうしてあなたが事件を起こしたの? 私には、あなたが分からないよ……」

「俺は知りたかったんだ。去年も一昨年も、チョコをくれていた相手を。その相手は、俺が思っている人かどうかを」

 俺は深呼吸をした。朝から感じた落ち着かない気持ちやソワソワとした感情を無理やり抑え、ずっと聞きたかった一言を口にした。

「星野。いつもチョコをくれていたのはお前だな。お前だったんだな」

 星野はうつむいたまま答えない。じっと、こちらの顔を見もせず、目を伏せていた。

「……違うよ、私じゃない。あなたに似合うのは、私じゃない」

「!! どうして……!」

「だってあなたは、みんなから好かれていたんだもの。水瀬さんも、有栖川さんも、花井さんも、あなたの事を思っていた。私はその気持ちを知っていた。だから私は、違うんだよ」

「知っているよ。いや、知っていた。水瀬も、有栖川も、花井も。だけど分かった上でお願いした。今日ここでお前の気持ちを確かめたかったから、三人に手伝って貰うようお願いしたんだ」

「そんな、そんな事……! 酷いよ。あなたは、黒崎くんは、乙女心なんてちっとも分かっていない。そんな残酷な事、やったらダメだよ……!」

「全くその通りだ。でも、俺の気持ちは二年前から変わっていない。その事を伝えたら三人とも快く了承してくれた。俺と星野、お前なら手伝うって、そう言ってくれたんだ!!」

 星野が顔を上げた。その顔は赤く染まっていた。
 きっとそれは夕暮れのせいなんかじゃない。彼女の思いが、その顔が、答えだとそう思った。


「もう一度だけ聞くぞ。今までチョコをくれていたのは、そして今日。変わらず俺を思っていてくれたのは、星野。お前だな」


 はぁ、と星野はため息をつく。俯いて、その表情が俺には見えなかった。
 そして探偵みたいな帽子を俺に被せて来たかと思うと、次の言葉を口にした。



「正解だよ。名探偵っ!」



 俺の口に、甘さ控えめな恋の味が広がった。
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