営業課エースは、お尻の穴に興味があるらしい

凜伍

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「早くアナルセックスしたい」

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「で、なに。王川にそんな事言われちゃったわけ?あーヤダヤダ、だから年上の女なんて辞めとけって言ったのに」
「ちょっと一回黙って欲しい」

 社員食堂はお昼の時間を過ぎると人が少なくなる。お昼休みの時間を逃した研究職の社員ばかりしかいない今の時間、私と同期である嵐山 勇人あらしやま はやとも例に漏れずテーブルの席に腰をかけていた。

 今日の昼はオムライス。嵐山はカレー。スプーンをルーの中に突っ込みながら、彼はそう言った。眉を顰めながら態とらしく大きい声でそう宣うこれに、思わずこめかみが震えるのだって仕方ない。

 大きい声で話さないでくれないかな、本当に。人が少ないとは言え、上司や知らないグループの人だっているんだから。オムライスを食べながら言う話では無い、と言う事実は棚の上に置いておこう。私の彼氏、お尻の穴に興味あるらしいんだよね、とか実験疲れの頭でないと中々言えやしないし、天気のいいこの時間に話す内容でもなかったことも分かってはいるから。

 嵐山は頬を動かして、喉の奥にそれを飲み込ませた後、ぐいっと体を近づけた。机の上に手をついて近づく端正な顔。目の下にあるクマは私と同じぐらい、いやそれよりも黒く染み付いていた。小さい声で話そうと言うことか。ガサツな男にしては、珍しく気を遣ってくれたな。オムライスを飲み込んで、私も彼の口元に耳を近づけた。


「王川の尻を調教すんの?それともお前の尻?」


 前言撤回、やっぱりただのバカだ。呆れからため息を吐き捨てる。その質問、そっくりそのまま王川君にしたいよ私だって。どっちの尻?とか齢二九の女がしてはいけない質問だろう。そしてお前もだ、アラサー男子め。

 他人の尻に興味を持つな。変態野郎。

「多分、王川君のお尻だと思う」

 そして淡々と、自分の恋人の尻を提供してしまう私も私だ。

「じゃあ色々用意しねーと、ローションとか」
「あぁ……」
「アナルプラグとか買ってやったら?営業二年目より研究職のお前の方が金あるしょ」
「インセンティブで稼いでんじゃない?」
「エース様だもんな~」

 私より乗り気で話すじゃん。綺麗な黒髪をかき上げながら、嵐山は当たり前のようにそう言った。当たり前も当たり前だ。

 何を隠そう、彼はゲイなのだから。

 キラキラと輝くオーラを身に纏うどころか、どこからどう見てもイケメンの嵐山は、入社当時多くの女性社員を虜にした。そりゃもう、飛ぶ鳥を落とす勢いだ。使い方が間違っているかもしれないが、どのぐらいすごかったのかというと、そのぐらいモテた。

 理系職だからと言って女子が少ないわけでは無いのだ。中には性格が結構きつい先輩だっていたし、お局と呼ばれるおばさまと中にはいる。ただ、その人達でさえ彼の顔に惚れ込んでいた。

 アイドルか?俳優か?はたまたモデルか?実の両親がモデルだとかなんだとか、そんな噂さえ広がり始めて、女子や上司にちやほやとされてる彼を見ては「顔がいい人間は良いもんだな』とその時に思った気がする。今思えば劣等感だ。

 その時の私はと言えば、唯一の同期である嵐山が私よりもかなりハイスペックな大学の出身だと知っていたせいか、どうにもその顔に惹かれることはできなくて。要は負け惜しみを抱いていたせいで、周りの皆と同じように目の保養にとかそんな事さえ思えなかった。つまり、嫌いだったのだ。高学歴、頭も良い、顔もいい。全て揃った出来すぎた人間に抱くのは憧れでも尊敬でもない、劣等と嫉妬だ。

 多分、それが良かったのかもしれない。皆の前で「俺ゲイなんで」と、飲みの席で言っていた姿を思い出すたびに、笑ってしまう。

 格好いいなと思ったのだ。人間性というかなんというか、その自信に溢れる凛々しい顔は、中身から来てるのだとその時に気づけたから。よかったと思った、卑屈にならなくて。自分の感性や価値観を下げるような人間ではなくて良かったと、その時に思った。

「俺が教えてやりてーわ」
「嵐山の好みって王川君みたいな子?」
「うん、猫っぽい奴がいい」
「うっわ、そこにも俺様出すの?なんだかんだ言ってドMそうだけど違うんだ」
「お前、この後のミーティングで助けてやんねーからな」

 今ではこれぐらいの軽口を叩けるぐらい仲良くなった。

「きゃっ、王川君…!」
「王川さんお疲れ様です~!」

 静かだった食堂に、少しのうるささが加わった。女子の声が高く聞こえる、ということは営業課のエースが入ってきたのだろう。打ち合わせか、何かがあったのか。お昼を食べるのが今日は遅いなんて可哀想に。

 お疲れ様ですの声があちこちから聞こえる。耳を澄ませなくても聞こえるその声は、もしも昼寝をしていたら怒りたくなるぐらいやっぱりうるさい。

「ほら、王子様が帰ってきた」

 嵐山の指が入り口を示した。後ろを振り返れば、案の定そこには王川君がいる。

 相変わらずキラキラとした笑顔を浮かべて、周りを囲ってくる女子達一人一人に挨拶を返していた。

 律儀な人だと思う。だけどきっとそんなところが優しいのだろう。残り一口のオムライスを飲み込んで、水を飲みながら彼を見た。王川君は私の視線に気づいたのか、チラリとこちらを向くとその頬をほんの少し赤色に染めて、私にだけ見えるように小さく手を振ってきた。

「……健気だねぇ……」

 ボソリと呟いたのは嵐山。ネクタイの上に乗せられている社員証がカレーのルーの中に入りそうになっていた。そのまま汚しとけ。

 健気ってなんだ。一度だけ話したことがあったかもしれないが、王川君はあの王子様のような甘いマスクを崩して、泣きじゃくりながら私に童貞を捧げたんだぞ。

 今だってそう。泣きながら、それこそ顔を真っ赤にしながら、何度も見てるだろう私の全裸を元々大きい目をさらに大きく見開いて、目に収めるのだ。ムッツリ。どすけべ。健気というよりはただ、セックスに興味のある高校生みたいな彼を、健気と言ってもいいものか。なんならエロガキだろう。

 あんな顔して掘られたい願望があるなんて思わないだろ普通。男の体なら熟知してるだろう嵐山を頼った私がいけなかったか、嵐山はニヤニヤと笑いながら、私を見つめたままだった。

「で、どうすんのお姉さん。どう調教するおつもりですか~?」

 ムカつくので、まずはこの男を調教しよう。つまり昼休み明けの実験で、あんたが欲しいと言っていた細胞は明け渡しません、以上。







「……ちせ先輩」

 営業課と研究職が会うことはあまり無い。あったとしてもそれは上の人達同士で、下っ端の人間が話すことはそうそうない。こっちからしたら営業とか専門外すぎるからだ。ただ営業課に関してはそれは別かもしれないけれと。

 それでも王川君と知り合ってしまったのは仕方ないわけで。一年も経てば情だって湧く。しっかりと彼氏としての役割を担ってしまった王川君は、見た目の王子様ぶりは中身も一緒で、真摯に私の世話をしたがっていた。

 帰ろうかと白衣をロッカーに仕舞い込んで、研究員室を出た時だった。お疲れ様でしたとまばらに聞こえる声を背に顔を上げれば、廊下の壁に背中を預けながら、王川君がそこに立っていた。

 少しだけ、しょんぼりとしている。頭にある耳は垂れているようにも見えた。

 会社内では話したりしないし、こうやって顔を合わせることだってしないようにしてるのに。珍しいこともあるものだ。遅い時間だとしてもまだまだ残ってる人はいる。誰に見られるか分からない。隠してるわけではないけれど、社内恋愛は意外に面倒だから、嵐山以外には見られたくない。

 そう言ったのは私ではあるけど、もしかして王川君は納得いってなかったのかな。彼の前に立って、首を傾げて見上げてみる。王川君は少しだけ元気がなさげに何なら落ち込んでいた。

 今のうちに帰ってしまおう。彼の手首を引っ張って、急いで会社を出る。外はもう暗くなっていて、夜空の真ん中に月が浮かんでいた。

「どうかした?仕事ミスった?」
「…いいえ……違います」

 まぁ王川君がミスるわけないか、とは思う。真面目な子だし、別の課だとしても評判は聞いている。

「あの、ね、ちせさん…」

 ちせさんと呼ぶ時の王川君は、大体がその心に何かの欲情を孕んでいる時だ。

 彼の手が、すっと私の指に絡んだ。恋人繋ぎ、彼は意外に人目を気にせずにイチャイチャをしたがる。そこは多分、歳下っぽい所かもしれない。

「…今日、家行っていいですか…?」

 王川君のその声に弱いのだ。今日は一人で、今週末に訪れるだろうお尻の穴調教の勉強でもしようかと思っていた所なのに。彼のそんな弱々しい声で甘えられたら、仕方ないと言うしかないじゃないか。

 健気とか、絶対に違う。こいつはきっと、こんな甘えたな顔でさえ計算のうちに入れてるのだろう。私が王川君に心底惚れるのを今か今かと待ち侘びているに違いない。









「っ…ん、先輩見て…っ…ふ…っ…」

 王川君は、去年までずっと童貞だった、らしい。女の人の裸を見るのも初めてだと、鼻血を出しそうな勢いでそう言われた当時を思い出す。あんなに純粋だった男の子が、なんでこんなに性に積極的になるのだろう。営業課は陽キャが多いイメージだからか、もしかしてまわりに色々言われたんじゃないのかとかそんな事を思った。

 王子様だなんだと囃し立てられてるこのイケメンに、そんな変な事を吹き込むような奴はいないか、いや待てよ、いるか。男同士ならそんなこともありえるのでは?彼の交友関係についてはよくわからないけれど。

 だけど、唯一の同期であった嵐山は、王川君が入社したその日に「あいつ狙おうかな」とか言ってきたから、なんとなくあいつが犯人ではないかと疑っている。今日のお昼のあれは白々しい演技だったんじゃないだろうか。理系の頭がここで冴えるとは、元来研究好きなのだ、ここでも発揮されてありがたい限りだ。

 よし、明日は嵐山を追い詰めてやろう。

 頭の中でどうでもいいことを思いながら、目の前にいる彼をじっと見つめた。二人きりの部屋、二人きりのベッド。夜。暗い中。全てが合わさったこの完璧な空間で見せつけられているのは、王川雄大のエロティックショーだ。

 甘い声を漏らしながら私の名前を呼び続ける彼に思わず生唾をごくりと飲み込んだ。

 
「先輩ぃ…っ、俺の事…見て…っ…」



 王川君は可愛い。王川君は、良い子だ。王川君は、エロい。



 私の部屋にきたかと思えば、勢いのままに王川君は私をベッドに押し倒した。ネクタイを緩めて眉をしかめながら熱い吐息を吐き捨てて、彼はキスをした。舌を入れて酸素を全て吸い尽くす勢いのそのキスに、一瞬で酸欠になってしまって、震える手で彼のワイシャツを握りしめた。あぁ、待って。このままだと私の何かが切れてしまうかもしれない、なんて。

 全くもって困ったものだと思った。誰だ、誰がこの子をこんな淫らな生き物に育て上げてしまったんだ。そうか、私か。

「…見てるよ…?」
「ん…っ…もっと…」

 明日も仕事あるからエッチはだめ。私のその言葉に、シュン、と落ち込んだ王川君は、あろうことか身体を起こしてズボンを脱ぎ始めた。

 シングルベッドは、大きい体の王川君の動きに合わせて鈍い音を響かせる。ベルトを取ってチャックを開けて、そうして見せられたのが、ボクサーパンツを押し上げている彼のあそこだった。

 ギンギンじゃん、え、なんで?そう言いたくなったのを我慢した私を誰か褒めて欲しい。王川君はストリッパーよろしくその太ももにボクサーパンツを滑らせて、下半身を露出させた。

 天井に向かって勃起していたそこは、脈打つ鼓動のせいか震えていて、先端から先走っている我慢汁が彼の勃起したそのふくらみの裏筋をつーっと伝っていた。

 それが多分、十分ほど前の出来事。今はなぜかわからないけれど、彼のオナニーを見せつけられていた。ぐちゃぐちゃと鳴り響く水音が卑猥で、一体何を見せつけられてるのだろうと頭の中がぼーっとする。

 ただ、彼のそんな艶かしい姿は誰にも見せては行けないと、その責任だけは感じ取っていた。いや、独占欲とも取れるかもしれない。

「…っは、ぁ…先輩…ちせ、先輩…っ…」
「……王川君、なんでそんなにエッチになっちゃったの?」
「わか、わかんな…っ」

 だらしなく口を開けて、口の端から垂れ落ちる唾液までもが色気があって。ワイシャツがはだけて見えている胸元は、乳首までもが勃起していた。可愛い子だなと思う。年下と今まで付き合ってこなかったせいか、こんなにも年下が可愛い生物だとは思わなかった。

 童貞の筆おろしから始まって、気づいたら性に奔走している彼氏のオナニーまで見るなんて。私も捨てたものじゃないのでは?

 頭の中に住み着いている嵐山が、ニヤニヤと笑っていた。そんな目で見るな、本当に。あのゲイは、人の彼氏を狙うとんでもない人間だぞと自分に言い聞かせながら、イケメンのオナニーにもう一度視線を向けた。

 王川君は、ギンギンに勃っている自分のそこを握って、激しく右手を上下に動かしている。ぐちゃぐちゃと鳴る水音は、我慢汁からきこえる音。震えてる太ももの振動と、彼の痙攣による振動で、ベッドまで揺れていた。

「あ…っ、先輩見て…っ」

 王川君は、その熱にうなされた瞳のまま、私をみつめていた。俺を見てと何度も何度も繰り返すのは、どうしてだろう。やっぱり何かあったのだろうか。そんな心配をよそに、王川君は手を伸ばして、私の後頭部をつかんだ。

「ん…っ」

 押し付けられる唇。私の口内へ伸びてきた舌が、私の舌を追いかける。生暖かいそれは気持ちが良い。キスも上手くなってしまって、やっぱり営業課エースというのはすごいものだと思った。

「ぁ…王川君…っんぅ…」
「っ…見て、俺のことちゃんと見て…?」

 がっしりと掴まれた後頭部は、彼の左手の力のせいで抜け出すことはできない。唇を合わせながら何度も呟くその言葉に、酔いそうになる頭は朦朧としていて。王川君の力によって、もう一度ベッドへ押し倒される。

 明日も仕事、明日も朝早くに会社へ行かないといけない。だけど、自分の可愛い彼氏のオナニーを見せつけられて、興奮しない女ではなかった。

 彼の右手が、私の太ももに触る。我慢汁で濡れた手のひらが、優しく私の肌を包み込む。そのまま片足を上げられて、タイトスカートの中に履いてるタイツ越しの下半身へ、その硬くて太い彼のそれを押し付けられた。

 硬い、熱い。それだけで、どきりと心臓が高鳴るなんて、私も彼の事を言える立場ではないかもしれない。

「…だめ、シない」
「……うん……素股だけ…」

 わかってるんだかわかってないんだか。この状態の王川君に、何を言っても意味はないと一年の付き合いでわかっているので、押し付けられる熱いそれに目を瞑って答えることにした。素股なんて言葉、その王子様ルックスで言ってはいけないだろう。

 絶対何かよからぬことを教えてる奴がいる。そう、絶対に。私ではない誰かが彼に、性の手解きをしているのでは。

 犯人探しをしようとしていた頭は、タイツ越しに擦られた陰核への刺激で、現実に引き戻された。触られるだけで、気持ち良さに感じてしまう身体が少し憎い。シミでも見えたのか、王川君はさっきまでの不貞腐れモードを消して、にこやかに笑いながら「濡れてる」なんて嬉しそうに言ってきた。

 耳の輪郭に沿って舌で舐められるそこ。首に肩に胸元に走る鳥肌が、もっと舐めてと言いたくなる感情を現してくれているのか。王川君は息を吐くように小さく笑って、前後に振る腰の動きを早くした。

 耳元で囁く低い声がくすぐったい。耳から首へ広がる鳥肌から逃げようともがいても、彼の舌が耳の穴へ入ってきて、逃げられそうにない。

「あ…っ、ぁ、好き…っ、好き、ちせ先輩…っ、早く挿れたい…っ」

 王川君は私の事が本当に好きだ。これは自惚れなんかではなくて本気でそう思う。美人でもなんでもないただの研究員の私に、どうして彼がここまで惚れ込んでしまったのか。

 それはきっと、彼しかわからない。いつか飽きるだろうなと思ってる自分だっている。ただそれが、もしも本当に起きてしまったら。私はきっと立ち直ることが難しいかもしれない。それぐらい、彼に愛されている自覚があった。

 耳を舐められるのが好きだった。それはもう、ずっと彼に伝えていた。大きく口を開けて、甘噛みする歯のあとは、舌を中にいれてぐちゃぐちゃと犯すその口。

 全部全部、私が教えたそれが私の身体全体を襲ってくる。あぁ気持ちいい。思わずつぶやいた私の言葉に、王川君は生唾を飲み込んで、笑った。

「ちせ先輩…っかけていい…っ…?」
「服の上は、だめだよ…っ…?」
「うん…っ…」

 あぁ、もう。なんなんだ本当に。

 さっきまであんなに落ち込んでる風だったくせに。部屋にきたら急に発情しちゃって。ダメだとかシないとか言ったくせに、ちゃっかり彼に素股されてる今の自分にも驚きものだが、彼のその性欲の膨れ上がり具合にも驚く。

 何がどうなって、そうなってしまったのか。震えてる肩を握って、彼の腰に両足を巻きつける。いつものようにセックス中の素振りでもしてあげればもしかしたら、王川君も喜ぶんじゃないかと思って。

 背中に回した足に力を入れて、彼の下半身に擦り付けるように腰を上げた。王川君は一度、びくりと身体を揺らしたあと、私の首元に噛み付いて不規則に肩を大きく揺らした。

 どろりと暖かいものがタイツに掛けられる。服の上はダメと言ったのに、しっかりとタイツに射精するとは、怒られる覚悟はできているのだろうか。

「…ダメって言ったよ?」
「っ……だって……先輩の足が…」
「足が?」
「気持ちよくて……」

 中に挿れてるみたいだったから。

 王川君は、顔を真っ赤にしながらそう言った。素股でそこまで気持ちよさに喘げるなら、王川君はもう百点満点だな。

 ぎらついた瞳、荒い呼吸。熱い手で頬を撫でて、私の顔を慈しむように見下ろすその表情。全てにおいて及第点以上の点数をあげたいし、こんな子にここまで求められてる自分に疑問さえ浮かびそうになる。

 彼は顔を歪ませたまま、まだ去らない快感に身を委ねて、小さい声でこう言った。


「……早く、アナルセックスしたい…」


 やっぱりか、やっぱり君が掘られたい方なんだ。

 その決定的な言葉に、ついに私も覚悟を決めるしかないのかと、ごくりと生唾を飲み込んだ。時刻はもう遅い時間だ。明日も仕事があるというのに、王川君の目からそのぎらつきが消えそうには見えない。

 一回だけ、一回だけならいいかな。

 枕元に置いてあるコンドームの箱をちらりと見上げて、そう言い聞かせる。

 一回だけ。私を組み敷く立派な身体に手を添えて、王川君の耳もとで優しく呟く。私が彼の甘えたな声に弱いのと同じで、王川君も、私のこの声に弱いと知っているから。

「エッチ、しない…?」
「………する……」

 儚げな表情は消えて、シーツについていた手に力が入った。私を逃す気はないらしい。王川君は身体を倒して、私の顔に顔を近づけたあと、目を閉じながらキスをした。

 ぬるぬるの白濁液を間にはさんで、身体と体を擦り合わせる。

 ベッドのスプリングの音に重なったその水音と、彼の小さな喘ぎ声は、大凡月曜日のこの時間から聴くものではないなと、どこか冷静な頭では、きちんと思っていたのだ。

 思っては、いたのだ。
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