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第103話「祝勝会②」
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今、マ・リ・アの三人はアネットが決めた通り、ビアホール『コマン・ドゥ』の前まで来ていた。
既に店には、かなりの客が入っているようで、石造の無骨な建物からは、陽気な声が響いている。
「混んでるみたいね、空いてるかしら?」
そう呟きながら、アネットが慣れた手つきで分厚い木製のドアを押し開けた。
三人が中に入ったところで、彼女と件のマッチョで陽気な店長の目が合い、
「アネット!?生きていたのか!?死んだと思ってた……」
と、彼は大袈裟に驚いてみせた。
「くっくっく、大佐、あれはトリックよ……て、何を言わせんのよ!あれは酔い潰れて運ばれただけじゃない!」
アネットも冗談と分かった上で、それに付き合っている。
「HAHAHA!すまんなアネット、ちょっとしたジョークだ」
と、店長は豪快に笑い出した。
そして、彼はアネットの後ろにいたマリーを見ると、
「ん?アネットの後ろにいるお嬢さんは、お友達かな?」
真っ白な歯をキラリと光らせ、まるでボディービルダーのような爽やか過ぎる笑顔を浮かべながら言った。
「そう、アタシの親友のマリーよ」
アネットは笑顔で、当然のようにそう答えた。
「は、初めまして、マリーです。宜しくお願いします」
初対面のマッチョに、しかも急に話しかけられた為、マリーは少し慌てながら挨拶した。
「おう!コマン・ドゥへようこそ、お嬢さん。今日はサービスするから楽しんでいってくれ!」
「はい!」
そして大佐はニカッ!と笑い、カウンターへ戻っていった。
そのあと三人は、適当なテーブル席に座ると、酒と料理を選び出した。
「マリー、リゼット、お酒と料理は何にする?アタシはビール、リゼットも……ビールでいいわよね?」
「はいぃ」
「じゃ、あとは……マリーは軽く、リンゴ酒を薄めたやつとかにする?」
アネットはマリーを気遣って軽めの酒を勧めるが、
「えーと、私もビールを」
マリーは平然とビールを所望した。
「え?大丈夫?苦いし、そもそもホントにアルコール大丈夫なの?」
心配するアネットが確認するが、
「はい、大丈夫です。私、基本的にどのお酒の味も好きですし、アルコールに対する強さも大丈夫ですよ?ウチの家系は基本的にザルなので」
「え!?そうなの?」
「はい、私の実家があるブルゴーニュはワインの産地ですし、先祖代々ワインとブランデーは水代わりです」
当然とばかりに彼女は言った。
「……凄いわね。でも、無理はダメよ?」
「はいはい、大丈夫ですよー。もぅ……」
マリーは、自分を心配してくれるアネットを好ましく思いながらも、過保護過ぎではないかと思った。
「じゃあ、お酒はいいとして、料理はどうする?」
「えーと、シャケと季節の野菜サラダと、シャケのムニエルと、シャケのカルパッチョと……」
マリーは早速好きなものを羅列し始めるが、
「何で全部シャケなの?」
アネットがツッコミを入れた。
「昔から好きなんですよ、シャケ。それに加えて、何故か今無性にシャケが食べたい気分なのです!」
マリーは力説した。
「へー、まあ、いいけどね。アタシもなんかシャケが食べたい気分だし。さて、他はどうしようかな……」
「あ!やっぱり私これがいいです!」
「え?どれどれ?」
マリーがはしゃぎ、アネットがメニューを覗き込むと、そこには、
『一匹丸ごとシャケの姿焼き』
と、あった。
「うーん、確かに凄く美味しそうなんだけど……美少女三人でシャケ一匹はちょっと多くない?」
「確かにぃ、食べきれないかもですぅ」
と、リゼットが同意したところで、背後から野太い声がした。
「ああ、それならちょうど小ぶりのシャケがあるから、三人分でちょうどいいと思うぞ?」
「え!?た、大佐、いつの間に……」
驚いたアネットがビクリとし、慌てて振り返った。
「いや、すまん。悩んでいたようだから様子を見に来たんだ。で、どうする?」
「えーと、まずビールが三つと……取り敢えずミニサイズの『シャケの姿焼き』でいい?」
「えぇー、やっぱか私はぁ、お肉も……」
アネットの問いに、リゼットはお肉も入れて!と口を挟むが、
「はい!是非それで!」
「じゃあ、シャケで決まりね」
「……」
二人にスルーされてしまった。
「あとは、サラダと……」
そして、アネットが残りのアテを適当に注文し、それらが揃ったところで、
「「「かんぱ~い!」」」
三人は木製のジョッキを派手にぶつけ合い、宴をスタートさせた。
アネットはグビグビと、リゼットはぐわーっと、そしてマリーは可愛らしく両手でジョッキを持ちながらコクコクと飲んでいる。
「プハァー、仕事終わりの一杯は格別よね!」
口の周りに泡を付けたアネットが、オヤジ臭く言った。
「同感ですぅ」
「はい、凄く美味しく感じますね!」
それに二人も激しく同意した。
そして、それぞれ一杯目の感想を漏らしたところで、
「いやー、それにしても今日は大変だったわねー。大乱闘スマッシュシスターズしたり、心に重い話をしたり」
「はいぃー、疲れましたぁ。裏モードはぁ、体力と精神力を大量に消費するのでぇ、もうヘトヘトですぅ」
「はい、私もCQC(近接格闘)に加え、ずっと喋り続けていましたし……」
と、三人はそれぞれ本日の感想を漏らした。
「「「はぁ……」」」
そして、一斉にため息をついた。
と、そこでアネットが唐突に、
「あ、そういえば、今更アタシ思ったんだけと……」
「「?」」
「もう少しだけレオニーが早く来てたら連中、瞬殺だったんじゃないか?って……」
そんな疑問を口にした。
「アネット、それは言わない約束ですよ……それに、仮にレオニーが乱闘に間に合ったとしたら……私達の見せ場ゼロですよ?」
それにマリーが、微妙な顔で答えると、
「そうなんですよねぇ……、レオニー様は強過ぎますからぁ……」
リゼットも続き、
「はっ!た、確かに……」
最後にアネットは納得した。
「あのメイド……まさに化け物よね……。あ、そういえば化け物と言えば、もう一人いたわよね?今不在だけど……」
「「ああ、確かに」」
「そうだ!ねえマリーちょっと聞きたいんだけど……」
「はい、何ですか?」
「レオニーとセシルって、二人共化け物級に強いけど、どっちが強いの?」
と、アネットが純粋な疑問をマリーに聞いた。
「ああ、なるほど。確かにそれは気になりますよね」
「はいぃ、同感ですぅ」
二人も同感だった。
「で、実際どうなの?」
問われたマリーは、あざとく小首を傾げ、考え始めた。
「えーと、では少し考えてみましょうか。仮にあの二人が闘ったとして……うーん、まず純粋なパワーや一撃の威力、そして防御力ならセシロクマの方が上だと思います」
「「確かに」」
「ですから、正面から正々堂々と戦えば、総合力で勝るセシロクマが勝つと思います」
「「なるほど」」
「しかし、確かにレオニーはそれらの点では僅かにセシロクマに劣り、総合力では負けてしまいますが、機動性や隠密性、おっぱいの大きさ、それに暗殺者が持つ特殊なスキル等を持つという点ではレオニーに分があります。なので、条件次第では彼女にも勝機はあるでしょう。例えば森の中とか、市街地戦とか、暗闇とか、霧が出ているとか……」
「なーんだ、結局ケースバイケースってことかー、つまんなーい」
と、アネットが割とありきたりな結論に、そんな身も蓋もない感想をぶちまけた。
「貴方ねえ……」
頑張って答えたのに、そんなことを言われてしまったマリーが、若干キレかけるが……。
「あ!でも忘れていました。セシロクマはリアンお義兄様が絡むと、普段の二乗の力を発揮するので、やっぱりレオニーではあれには勝てませんね」
「「二乗!?」」
と、二人して驚いたところでアネットがあることに気づいた。
「え?だったらレオニーも王子様LOVEなんだから、パワーアップしたりしないの?」
「勿論、レオニーもパワーアップしますが、まだ気持ちを自覚してから日が浅いので、せいぜい二倍ぐらいです。だからアレには勝てません」
マリーは断言した。
「え!?戦闘力って愛の深さに比例すんの!?」
「まあ、連中に関して言えば、そういうことになるのでは?」
「ねえ!じゃあ、もしかしてマリーやアタシも!?」
と、そこに気づいたアネットが興奮気味に叫ぶが、
「……そんな訳ないでしょうが。私達では、どんなにお義兄様が応援してくれても、上がるのはテンションだけですよ」
マリーは非情な現実を、少しやさぐれた顔で告げた。
「……そう」
皆様、本年最後の話をお読み頂き、ありがとうございました。
今年は投稿開始の時から、皆様の応援や温かいお言葉に勇気を貰い、何とかここまで投稿を続けて来られました。
全ての読者様に心から感謝を申し上げます。
本当に、ありがとうございました。
来年は今年以上に楽しい話を書いていきたいと思っておりますので、どうか来年も宜しくお願い致します。
それでは皆様、良いお年を!
既に店には、かなりの客が入っているようで、石造の無骨な建物からは、陽気な声が響いている。
「混んでるみたいね、空いてるかしら?」
そう呟きながら、アネットが慣れた手つきで分厚い木製のドアを押し開けた。
三人が中に入ったところで、彼女と件のマッチョで陽気な店長の目が合い、
「アネット!?生きていたのか!?死んだと思ってた……」
と、彼は大袈裟に驚いてみせた。
「くっくっく、大佐、あれはトリックよ……て、何を言わせんのよ!あれは酔い潰れて運ばれただけじゃない!」
アネットも冗談と分かった上で、それに付き合っている。
「HAHAHA!すまんなアネット、ちょっとしたジョークだ」
と、店長は豪快に笑い出した。
そして、彼はアネットの後ろにいたマリーを見ると、
「ん?アネットの後ろにいるお嬢さんは、お友達かな?」
真っ白な歯をキラリと光らせ、まるでボディービルダーのような爽やか過ぎる笑顔を浮かべながら言った。
「そう、アタシの親友のマリーよ」
アネットは笑顔で、当然のようにそう答えた。
「は、初めまして、マリーです。宜しくお願いします」
初対面のマッチョに、しかも急に話しかけられた為、マリーは少し慌てながら挨拶した。
「おう!コマン・ドゥへようこそ、お嬢さん。今日はサービスするから楽しんでいってくれ!」
「はい!」
そして大佐はニカッ!と笑い、カウンターへ戻っていった。
そのあと三人は、適当なテーブル席に座ると、酒と料理を選び出した。
「マリー、リゼット、お酒と料理は何にする?アタシはビール、リゼットも……ビールでいいわよね?」
「はいぃ」
「じゃ、あとは……マリーは軽く、リンゴ酒を薄めたやつとかにする?」
アネットはマリーを気遣って軽めの酒を勧めるが、
「えーと、私もビールを」
マリーは平然とビールを所望した。
「え?大丈夫?苦いし、そもそもホントにアルコール大丈夫なの?」
心配するアネットが確認するが、
「はい、大丈夫です。私、基本的にどのお酒の味も好きですし、アルコールに対する強さも大丈夫ですよ?ウチの家系は基本的にザルなので」
「え!?そうなの?」
「はい、私の実家があるブルゴーニュはワインの産地ですし、先祖代々ワインとブランデーは水代わりです」
当然とばかりに彼女は言った。
「……凄いわね。でも、無理はダメよ?」
「はいはい、大丈夫ですよー。もぅ……」
マリーは、自分を心配してくれるアネットを好ましく思いながらも、過保護過ぎではないかと思った。
「じゃあ、お酒はいいとして、料理はどうする?」
「えーと、シャケと季節の野菜サラダと、シャケのムニエルと、シャケのカルパッチョと……」
マリーは早速好きなものを羅列し始めるが、
「何で全部シャケなの?」
アネットがツッコミを入れた。
「昔から好きなんですよ、シャケ。それに加えて、何故か今無性にシャケが食べたい気分なのです!」
マリーは力説した。
「へー、まあ、いいけどね。アタシもなんかシャケが食べたい気分だし。さて、他はどうしようかな……」
「あ!やっぱり私これがいいです!」
「え?どれどれ?」
マリーがはしゃぎ、アネットがメニューを覗き込むと、そこには、
『一匹丸ごとシャケの姿焼き』
と、あった。
「うーん、確かに凄く美味しそうなんだけど……美少女三人でシャケ一匹はちょっと多くない?」
「確かにぃ、食べきれないかもですぅ」
と、リゼットが同意したところで、背後から野太い声がした。
「ああ、それならちょうど小ぶりのシャケがあるから、三人分でちょうどいいと思うぞ?」
「え!?た、大佐、いつの間に……」
驚いたアネットがビクリとし、慌てて振り返った。
「いや、すまん。悩んでいたようだから様子を見に来たんだ。で、どうする?」
「えーと、まずビールが三つと……取り敢えずミニサイズの『シャケの姿焼き』でいい?」
「えぇー、やっぱか私はぁ、お肉も……」
アネットの問いに、リゼットはお肉も入れて!と口を挟むが、
「はい!是非それで!」
「じゃあ、シャケで決まりね」
「……」
二人にスルーされてしまった。
「あとは、サラダと……」
そして、アネットが残りのアテを適当に注文し、それらが揃ったところで、
「「「かんぱ~い!」」」
三人は木製のジョッキを派手にぶつけ合い、宴をスタートさせた。
アネットはグビグビと、リゼットはぐわーっと、そしてマリーは可愛らしく両手でジョッキを持ちながらコクコクと飲んでいる。
「プハァー、仕事終わりの一杯は格別よね!」
口の周りに泡を付けたアネットが、オヤジ臭く言った。
「同感ですぅ」
「はい、凄く美味しく感じますね!」
それに二人も激しく同意した。
そして、それぞれ一杯目の感想を漏らしたところで、
「いやー、それにしても今日は大変だったわねー。大乱闘スマッシュシスターズしたり、心に重い話をしたり」
「はいぃー、疲れましたぁ。裏モードはぁ、体力と精神力を大量に消費するのでぇ、もうヘトヘトですぅ」
「はい、私もCQC(近接格闘)に加え、ずっと喋り続けていましたし……」
と、三人はそれぞれ本日の感想を漏らした。
「「「はぁ……」」」
そして、一斉にため息をついた。
と、そこでアネットが唐突に、
「あ、そういえば、今更アタシ思ったんだけと……」
「「?」」
「もう少しだけレオニーが早く来てたら連中、瞬殺だったんじゃないか?って……」
そんな疑問を口にした。
「アネット、それは言わない約束ですよ……それに、仮にレオニーが乱闘に間に合ったとしたら……私達の見せ場ゼロですよ?」
それにマリーが、微妙な顔で答えると、
「そうなんですよねぇ……、レオニー様は強過ぎますからぁ……」
リゼットも続き、
「はっ!た、確かに……」
最後にアネットは納得した。
「あのメイド……まさに化け物よね……。あ、そういえば化け物と言えば、もう一人いたわよね?今不在だけど……」
「「ああ、確かに」」
「そうだ!ねえマリーちょっと聞きたいんだけど……」
「はい、何ですか?」
「レオニーとセシルって、二人共化け物級に強いけど、どっちが強いの?」
と、アネットが純粋な疑問をマリーに聞いた。
「ああ、なるほど。確かにそれは気になりますよね」
「はいぃ、同感ですぅ」
二人も同感だった。
「で、実際どうなの?」
問われたマリーは、あざとく小首を傾げ、考え始めた。
「えーと、では少し考えてみましょうか。仮にあの二人が闘ったとして……うーん、まず純粋なパワーや一撃の威力、そして防御力ならセシロクマの方が上だと思います」
「「確かに」」
「ですから、正面から正々堂々と戦えば、総合力で勝るセシロクマが勝つと思います」
「「なるほど」」
「しかし、確かにレオニーはそれらの点では僅かにセシロクマに劣り、総合力では負けてしまいますが、機動性や隠密性、おっぱいの大きさ、それに暗殺者が持つ特殊なスキル等を持つという点ではレオニーに分があります。なので、条件次第では彼女にも勝機はあるでしょう。例えば森の中とか、市街地戦とか、暗闇とか、霧が出ているとか……」
「なーんだ、結局ケースバイケースってことかー、つまんなーい」
と、アネットが割とありきたりな結論に、そんな身も蓋もない感想をぶちまけた。
「貴方ねえ……」
頑張って答えたのに、そんなことを言われてしまったマリーが、若干キレかけるが……。
「あ!でも忘れていました。セシロクマはリアンお義兄様が絡むと、普段の二乗の力を発揮するので、やっぱりレオニーではあれには勝てませんね」
「「二乗!?」」
と、二人して驚いたところでアネットがあることに気づいた。
「え?だったらレオニーも王子様LOVEなんだから、パワーアップしたりしないの?」
「勿論、レオニーもパワーアップしますが、まだ気持ちを自覚してから日が浅いので、せいぜい二倍ぐらいです。だからアレには勝てません」
マリーは断言した。
「え!?戦闘力って愛の深さに比例すんの!?」
「まあ、連中に関して言えば、そういうことになるのでは?」
「ねえ!じゃあ、もしかしてマリーやアタシも!?」
と、そこに気づいたアネットが興奮気味に叫ぶが、
「……そんな訳ないでしょうが。私達では、どんなにお義兄様が応援してくれても、上がるのはテンションだけですよ」
マリーは非情な現実を、少しやさぐれた顔で告げた。
「……そう」
皆様、本年最後の話をお読み頂き、ありがとうございました。
今年は投稿開始の時から、皆様の応援や温かいお言葉に勇気を貰い、何とかここまで投稿を続けて来られました。
全ての読者様に心から感謝を申し上げます。
本当に、ありがとうございました。
来年は今年以上に楽しい話を書いていきたいと思っておりますので、どうか来年も宜しくお願い致します。
それでは皆様、良いお年を!
応援ありがとうございます!
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