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第172話「シャケ、しょっぴかれる①」

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 皆様お久しぶりです。

 私、ニートM役をしているマクシミリアンと申します。

 覚えていらっしゃるでしょうか?

 多分お忘れですよね……まあ、当然だと思いますが。

 なんと言っても、今の私はしがないニートのリアン=ランベールに過ぎないのですから!

 それに加えて皆様には大変申し上げにくいのですが、今後私に注目していても面白いことはないと思いますよ?

 何故なら、私には安定した平穏無事な未来が約束されているのですから!

 一人の男が普通に街中で、ゆくゆくは田舎でスローライフをおくるだけの物語…… つまり、日常系?スローライフ系?的な感じの路線になる筈なので、面白い筈がありません。

 しかも、これはアニメや小説のようなフィクションではありませんから、目を惹くような派手な戦闘シーンや胸がキュンとするような恋愛のシーンもありません。

 それにもう、今後いきなり記憶が戻って慌てたり、タ◯タ社長の真似をしたり、社畜顔負けの仕事量をこなしたり、そして何より命の心配をするようなことはあり得ないのです!

 いやー、私が色々と酷い目に遭いながら奮闘する物語に期待してくれた皆様、本当すみませんm(_ _)m

 と、前置きが長くなってしまいましたが、一応現在の私の状況を説明致しましょうか。

 まず今、私はニート生活七日目に入ったところです。

 仕事漬けだった毎日から解放され、今は好きなだけ寝て、起きて、食べて、そしてまた寝るだけの生活です。

 ああ!本当に幸せです!

 きちんと睡眠が取れて、命の心配をしなくて良いのですから!

 因みに今は遅めの朝食……いや、昼食を取る為に馴染みの食堂へと向かって街中を歩いているところです。

 あ、一応言っておくとアーク=リアン亭ではありませんよ?

 あの店、サービスは良い……というか過剰なのですが、何となく怖いんですよね……。

 とまあ、街中をのんびりと歩いているのですが……街といえばこれも不思議なことがあります。

 それは、日に日に街が綺麗になっているんですよ。

 色々な意味で。

 例えばゴミが落ちていることが無くなったり、街路樹や花壇が増えたり、チンピラや怪しい露天商、それに浮浪者なんかが消えました。

 まあ、それ自体は良い事なんでしょうが……兎に角不思議です。

 街ぐるみでイメージアップか何かの取り組みをしているのでしょうか?

 あと、気の所為かもしれませんが、最近やたらと官憲の巡回が増えたような気もします。

 私が街を歩いていると、憲兵、近衛、自警団に加え、私服の情報局員っぽい人達が常に視界の何処かにいるぐらいの頻度です。

 まあ、治安が良いのは好ましいことなので問題はないのですが……。

 もしかして私が知らないだけでこの国戒厳令とか出ているのでしょうか?

 ま、兎に角自分がしょっぴかれないように気をつけないといけません。

 ……と、下らないことを考えていたら、そろそろ目的地付近ですね。

 これでやっと美味い昼食にありつけます。

 そして、そこの角を曲がったら目当ての食堂に……と、私が思ったその瞬間。

「そこの平民!アタクシを助けなさい!」

 と、突然背後から耳に突き刺さるような甲高い声がして、私が驚いて振り返るとそこには『悪役令嬢』?がいました……は?

「え!?」

 そこにいたのは美しくも攻撃的な目をした、どぎついメイクに谷間が強調された豊かな胸、腰まで伸びる金髪縦ロールを装備し、上等ですがド派手なドレスを身に纏った美少女でした。

 わーお!リアル悪役令嬢!

 凄い、折角だから写真撮ろうかな……って違う!

 そんな非日常的な状況に私が若干パニックになりつつ、下らないことを考えていると……。

「ねえ、そこの貴方!聞いてるの!?」

 反応の無い私に業をにやしたのか、そのヤバそうな女性はそう言ってからこちらへツカツカと歩いて来ました。

 え!?あ、しまった!

 どうしよう、何か怖い!

 それにしても、この厚化粧の女性は何なんだ?……て、あれ?これってルビオン語?

 うーむ……この悪役令嬢?は何故このランスの、しかも王都でわざわざルビオン語で話しかけてきたのだろうか?

 このご時世だからルビオンからの観光客ではないだろうし……うーん、分からん。

「ねえ!アタクシの声が聞こえないの!?」

「うわ!」

 考え込んでいる間に目の前まで来ていたその女性に再び鋭くそう言われ、私は慌ててしまった。

 そして、

「あ、これはお嬢様、大変失礼を……」

 と、平民らしく私が低頭しながらそう言い掛けた、その瞬間。

「その怪しいルビオン女を確保だ!」

 突然何処から鋭く叫ぶ声が聞こえた後、周囲の色々なところから憲兵、近衛、一般人に偽装した情報局員?みたいな人達がワラワラ飛び出して来た。

 そして目の前の悪役令嬢?を取り囲むと同時に、訓練された無駄のない動きで私を後方へ引き離した。

「「!?」」

 これには私も悪役令嬢?もビックリだ。

 続いて、

「リアン=ランベールさんですね?お怪我や精神的苦痛はありませんか?」

「え?いや、大丈夫ですが……精神的苦痛?」

 問われた私がそう答えていると、

「アタクシに触らないで!この無礼者!」

「ぐわぁ!」

「ぎゃあ!」

「あべし!」

「ひでぶ!」

 少し離れたところで官憲に取り囲まれた悪役令嬢?が暴れ、ワイヤーアクションばりに人が飛ばされていた。

 そして、マジか?アレ大丈夫なのか!?とか思っていたら、

「ここは危険ですし、お目汚しになります。ささ、こちらへ」

 と、私は早々に別の場所に誘導されてしまった。

 まあ、それはいいけど……あの謎の少女が何となく気になる。

 だがその後、私は彼女について何も教えて貰うことは出来なかった。

 何故なら、私はそのまま近くの憲兵隊の事務所で安全が確認されるまではここにいろと言われてしまったからだ。

 あと、その時にランチがーと文句を言ったら、何処かのカフェの時のようにまたフルコースが提供され、デザートと珈琲を終えた頃に漸く解放された。

 もう、訳がわからないよ!

 まあ、タダ飯だからいいけど。

 そして、フリーになった後、私は街を散策し、気が付くと夕方になっていた。

 たまには夕食は自分で作ろうか、などと考えながら帰ろうかと思ったその時、偶然一軒のバーが目に入った。

「ん?こんなところにバーが出来たのか……なんかいい感じの雰囲気だし、折角だから一杯やろうかな」

 と、あっさり考えを変えた私がお洒落な木製の扉を開けて店の中へ入るとそこには……。

「いらっしゃいませー!バー『Li☆a☆n』へようこそー!……て、あれ!?またまたイケメンのお兄さんじゃないですか!?」

 バーテンダーの制服を着た花売り兼ウェイトレスの少女がいた。

 また!?

 というか、本当にこの娘いくつバイト掛け持ちしてるの!?

「や、やあ、数日ぶりだね……」

「わー!またまたお会い出来て嬉しいです!ささ、こちらへどうぞー!たっぷりサービスしちゃいますよー!」

「はは、ありがとう。それにしてもすごい偶然だね」

「はい、流石に私もビックリですよー!」

 と、私は苦笑しながら会話をしていたのだが、ここで彼女のおでこに絆創膏が貼られていることに気づいた。

「ん?おでこはどうしたの?大丈夫?」

「え?ああ!これですかー……実は先日愛に飢えた凶悪な雌ライオンが暴れ出しましてー、それと戦った時に負った名誉の負傷なんです」

 え!?王都でライオン飼ってんの!?

 確かこの間はレオニーが白熊と戦って負傷していたし、この国の動物の管理は大丈夫なのか!?

「そ、そっか、お大事に」

「ありがとうございますー!……さて、ではではー、お飲み物は如何されますかー?あ!あと特別にお触りは自由ですよ?」

「えーと、飲み物は……ん?」

 え?お触り?

 まあ、冗談だろう……そうだよね!?
 
 というやり取りがあったりして、今回も何となくヤバい感じの店なのかと思いきや、そこからは至って普通だった。

 いや、普通に良かった。

 酒も料理も美味いし、バーテンダーとも楽しく会話出来たし。

 正直、これなら今後も通ってもいいかな?など思っているとちょうどその時、奥の四人がけのテーブルに座っている男達から、

「おい聞いたか?戦争だってよ!」

 という話し声が聞こえてきた。

「……え?」

 マジ!?

 このタイミングで?

 うーむ、相手はやはりルビオンか?

 などと私は驚きながら、更に聞き耳を立てていると……。

「ああ!知ってる知ってる!確かセシル様率いる二万人の遠征軍がバイエルライン王国に攻め込んで、しかも初戦で王子二人を討ち取る大勝利らしいな!?」

 と、別の男がそれに答えた。

「!?」

 は!?バイエルライン!?

 何故今その国なんだ!?

 というか今セシルと聞こえたような気が……?

 いや、気の所為だろう。

 あの心優しいセシルが戦争など出来る筈が……。

 何故だろう、不思議と『ない』と言い切れない気がするぞ。

 まあ、それは取り敢えず置いておくとして……バイエルラインかー、あの国は確か、中規模の軍事国家でランスとは可もなく不可もなく、ぐらいの関係だった筈だが……。

 一体何があったんだろうか?

 いや、一介のニートである私には、最早全く関係ないから別にいいか……。

「しかも、噂によるとマクシミリアン殿下の独断で攻め込んだらしいぞ!」

 ………………は?
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