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41. 1人ぼっちの10年間
しおりを挟む姿に関して言及すると彼は苦笑いをした。
「見た目が、変わっちまったけど間違いなく中身は俺だよ望」
確かに仕草も喋り方も、優しげな雰囲気も今朝登城する直前の彼とは全く違い、健一を彷彿とさせるモノばかりだ・・・声だってそう言えば何となく似ている――そう思うだけで、気がつけば目に涙の膜が張っていて溢れそうになり慌てて鼻を啜る望。
「声が凄く似てる気がするのは、私の欲目?」
1言喋る事に涙が頬を流れる。
「顎周りが似てるせいかもな。他人でも口元が似てたら声も似るっていうだろ?」
答える彼も、涙声だ。
「確かに顎は似てるかも知れないわね」
過去の健一の声や姿、特に顎や口元を思い出しながら彼の顎にそっと触れると、又1筋涙が望の頬を伝う。
「案外、魂と身体がマッチングするのって身体的特徴も似てるって基準があるのかも・・・」
「そうかもな。考えたことなかった」
「え、何で?」
望は鼻をすすりながら、袖で涙を拭い首を傾げて彼の顔を見る。
ルーカスが悲しいような、そして諦めたような笑顔を浮かべて、肩を竦めた。
「俺の事を知ってる人なんて、この世界に1人もいないから。ここでの俺はルーカス・フォルテリアでしかないからだよ」
長い睫毛が不意に伏せられた。
健一は10年の間知り合いが誰1人いない世界で自分の記憶も、言葉も、そしてルーカスの記憶を受け継ぐことも出来ずに1人でルーカスとして頑張って生きてきたのだ――周りにルーカスの家族や友人がいたとしても、記憶の中で覚えている家族は違う人達だ。
寂しいと一言で片付けるのは簡単だが、そんな言葉で表せるような10年ではなかっただろう。
望はそっと彼の頬に手を添えて
「これからは私がずっと側にいるよ」
そう言ってから、首に手を回してギュッと力を入れて抱きしめた。
「うん・・・」
短い返事には、ここでの彼の過ごしてきた時間が全部詰まっているような気がした――
「この10年、俺はお前を忘れたことなんか1度も無かった。もう2度と逢えないって分かってても」
抱きしめられたまま言葉を続ける健一。
「健一・・・」
「だけど、お前はあっちの世界で生きてて、きっと社会に出て仕事もしてるだろうし、お前くらい可愛いんなら恋人が出来て下手すりゃ結婚もしてるかもって俺は思ってたんだ」
腕の力を緩めて彼の端正な顔を見上げると眉根を寄せてグッと力を入れているのか、縦皺が出来ていた。
多分自分で言っておいてそれを想像して不快なのだろう・・・
「・・・」
「俺を忘れて幸せになってて欲しいって思ってたんだ。ほんとは覚えてて欲しいくせにな」
大きく溜息をつくルーカス。
「なのにお前ときたら死ぬ寸前でこっちに『乙女召喚』されて来て、しかも乗ってたのがフランス行きの飛行機って聞いて。俺、正直どうしていいか分かんなくなったんだよ」
そう言って困った顔で眉根を又寄せた。
「え、何で?」
「だって・・・俺のせいで・・・『嫁き遅れ』になったんじゃないかと思って・・・さ」
ちょっとだけ言いにくそうに小声になり、目が泳ぐ・・・
「・・・」
望はいい笑顔で健一の鳩尾に強烈なアッパーをお見舞いした・・・
ラブチェアーに鳩尾を押さえて、うつ伏せに倒れた黒髪の騎士ルーカスに向かって腰に手を当て、仁王立ちになった望が、
「私はまだ30歳手前だから現代日本じゃ行き遅れにはカテゴライズされないのよッ! ほんとにもうッ!」
と・・・
激オコで文句を言ったのは、仕方がないだろう。
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