異端の巫子

小目出鯛太郎

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 ゆっくりと唇が離れた後、ヘベスは俺の肌に飛んでいた白い汚れを舐めとった。その舌の動きを見ていると頭がくらくらした。

 そんなことしなくていい、と言わなくちゃいけないのに、俺は喜んでいた。


 ヘベスは膝立の姿勢で俺を見下ろして困ったように微笑んだ。

「エヌ、私はオレンジの香は使わないと約束します」

 うん、と俺は返事をした。ヘベスからはミントのような香りがしていて欲しい。



「眉間の皺は最近視力が落ちてしまったので、気づかずに出てしまうかもしれません。ですからさっきのように撫でてください」
 そうでなければ、と言ってヘベスの顔が近づいた。俺の眉間にちゅっと音をたててキスをして、二人だけの時はこうしてくださいと囁いた。

「誰かの真似をしないようにします。でも、エヌ…。一つだけ従えません」
 刺すような視線で見つめられて、天蓋に隔てられた薄暗さの中でダークブラウンの瞳は黒く、その奥に狂ったような官能の炎が宿る。


「エヌ、私の巫子」
 俺はヘベスの熱に押し流された。さっきあれほど、痛いほど乱されたからもう、身体が昂ぶることなんてないと思っていたのに。エヌ、私の巫子、巫子と呼ばれながら身体を弄られ、息が止まるようなキスをされて、苦しくなって、唇が開放された時にヘベスの香りを吸い込むことになった。
 
 オレンジの香りはもうかすみはじめて、ヘベスの男っぽい体臭と髪の香り。
 本当のヘベスが俺の中に侵入はいって来たような感じがした。

「私の巫子」
 ヘベスの、囁く低い声とこれを許されると確信している眼差しと熱に俺は逆らえない。

「俺は、ヘベスの巫子なの…?」 
 彼は頷きながら指を舐めて、足の間の俺の中に指をゆっくりと沈めていった。
 本の中にそう書いてあったようにヘベスの指は俺の身体の中の快楽を潜めた場所を、最初から知っていたかのように見つけて、指先でなぞった。

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 小さなエックスを三つ彼は指先で書いた。

 それは接吻を表すXを3つ重ねたもの、遭難のおそれを知らせる符号、淫らな成人のしるし。


 そこを押されると目の前が真っ白になって勝手に声がでてしまう。
 夜に響き渡るのを恐れるように、唇が塞がれて、もう出るものがない俺の半勃ちの陰茎をヘベスは指で摘んで悪戯するように横にふった。

 ゆるゆると指を動かされて、俺は世界中の空気とヘベスの香りを吸い込んで、溺れそうになった。
 もうだめ、もうだめと最後は半泣きでヘベスに縋る腕の力もなくなってベッドに投げ出す。

 興味だけでは、これ以上は進めなかった。優しいのかそうでないのかわからないヘベスの事が怖くなったのかもしれないし、男同士のセックスそのものが怖いと思ってしまったのかもしれなかった。



 抵抗しなくなった俺の身体をヘベスは抱き寄せて、赤ちゃんにするように頬ずりした。
「エヌ、私の巫子、嫌だったらもうしません、もう此処へは来ません」

「いやじゃなぃ…」
 でももう今日はだめ、さきっぽが痛くてもうだめと訴えると、ヘベスは続きは次にしましょうねと密やかに笑い、俺の身体を手早く清めはじめた。

 起き上がってシャワーを浴びに行く気力も体力もなく、俺はヘベスにされるがまま身体を拭かれた。


 部屋を出ようとするヘベスを引き留めて、今日だけ一緒に眠ってとお願いした。
 今日だけですよと彼は念を押して、俺の横に滑り込み俺を抱きしめた。



 夜にしたことがいけないことだと俺も彼もわかっていた。



 急に甘えん坊になりましたねと、口調も髪をなでてくれる手も優しい。

 俺は巫子ではなくて、小さな仔猫か何かになって彼のポケットか手の中に納まり、ただ可愛いと撫でられて抱き寄せられる存在になりたいと思った。
 
 望んだとおりに抱きしめられているのに目を瞑ると俺は自分が怖くなった。俺を可愛いと撫でて抱き寄せる手があればその手の持ち主の事を何一つ知らなくとも身を任せてしまうような自分の無鉄砲な部分が、そして小さい頃から抱える寂しさが癒されない事がとても恐ろしかった。


 
 


 
 

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