異端の巫子

小目出鯛太郎

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ミルク風呂

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 料理長の作る田舎風レバーのパテは、ちっとも田舎風では無かった。

 俺、レバーって臭くて苦手だと思ってたんだけど、材料は豚レバーですよと教えてもらうまで何を食べているかわからなくて、ねっとりとふわっとの絶妙な食感で舌の上で滑らかで、ゴロゴロした食感の角切りの肉と、ローストした胡桃くるみと松の実が入っている。
 
 全然臭くない。


 臭みを取るために一晩ミルクにつけて、白い筋を包丁で全てこそげとってからペースト状にするんだって。

 香辛料も何種類も使い肉を練って型に詰めて蒸しあげて氷で急冷して、冷蔵庫で一晩置いて味を馴染ませたのが、今お皿の上にあって俺のお腹の中に収まっていくわけなんだけど、うーん、美味い。美味いよ料理長!

 こんな上品な味が田舎風って、料理長の田舎ってどんなとこだったんだよ?


 …と夕食時に思ってた。




 そして今入浴の時間なんだが…ミルク風呂に入れられている。


 白いサラサラとしたお湯だ。がもう一度言おう、ミルクと蜂蜜を混ぜた風呂だ。どうしよう…俺、臭いんだろうか?

 ミルクと蜂蜜を混ぜた物を風呂に入れるなんて狂気の沙汰だよ。それって飲み物だよ。


 うーん、あれかなぁ…。俺が傷つくと思って臭いとか言えなかったのかなぁ…。どうしようへベスが舐めた時に臭かったのかなぁ…やだなぁ…。
 自分の匂いとかわかんないし。

 汗をかいた時にするつんとしたような匂いや泥の匂いはしない。…と思う。
 そう云う匂いはセルカで、ファルカ様の元にいた時に王城の蒸し風呂で毎日汗と共に掻き落とされたように思う。大国レベリオに行く時に泥と汗と馬糞の匂いがしてはいけないと、嫌に神経質に毎日蒸し風呂に案内されたからだ。
 それまでは一週間に一回とか、二週間に一回しか街の蒸し風呂に行かなかったけど…ちゃんと香草まぶしてたし。それがセルカでは普通だったし…。


 レベリオに来てからは、風呂の時間が設けられてるし。湯船を使わなくてもシャワーがあって。
 毎日湯が使えるって、すごいよね。それだけ水資源が豊かなんだから。



 白いお湯をすくって顔にかける。

 ううう、勿体ない。俺はミルクをたっぷり入れた甘いお茶が好きだから、本当にこれは勿体ない。
 ミルクをいっぱい入れた甘いお茶が好きだということは、実は誰にも言っていない。
 それは小さい子供の飲み物だからだ。
 まさかそれに漬けられる日が来ようとは。



 今日は一階の浴室を使っていて、この風呂寝ながら入れるんだよ。
 それで、寝てる俺の髪を今へベスが洗っている。

 お手入れの時は入浴係を新たに雇うか、へベスが洗うかの二択を迫られた。いや、そこは俺が自分で洗うの三択にしようよと挙手したけれど、即時に却下された。
 
 うぁぁぁぁ。

 うぁうぁ。仰向けに寝て、風呂の縁から頭だけ出して大きな手に支えられて、首の後ろから揉むようにされて、程よい温度のお湯がそっとかけられて、へベスの指が髪の生え際から指を動かしてゆく。何かとろっとした良い香りのものが使われてるんだけど、うぁぁぁぁ。気持ち良い。頭洗ってもらうのってこんなに気持ち良いのか…。
 うんうん、そこって気持ちの良い場所を指がぐいぐいと押して、髪をすいて、流されて、気が緩み過ぎてやばい涎が出そうだよ。



 指で、きゅっと押されたり揉まれたりしながら、最後にはまた湯で頭をすすがれて、一度乾いたタオルで顔をそっと拭われてから冷たいタオルが目元に乗せられた。


 これは…天国というやつですか。へベスが床屋さんだったら、俺一生懸命お金を貯めて通ったかもしれない。
 それぐらい頭を洗ってもらうのは気持ち良かった。


 最初に緊張して固まった首や肩が終わる頃にはぐにゃぐにゃになったような気がする。このまま寝たいなーと思ったらさ、風呂用の枕があるとかおかしいよね。どうにかしてるよね。

 風呂の湯はミルクで白いから、浸かった身体は見えないんだけど、俺の上には湯船につかるように布がかけられていて見えないように配慮がされていた。


 ん?今度は足裏だという。
 持ち手のついた変な板で足裏を擦られた。足裏は相当皮が厚いんじゃないかしらん…。8年荒野を彷徨った足だもん。なんかぼろぼろって剥がれるような恐ろしい感触がする。でも痛くはない。
 

「…へベス、あんまりいっぱこすらないで。セルカに戻った時に、歩けなくなったら困るから」

「大丈夫ですよ…」

 ちゃぷちゃぷと水音がする。この星に生まれてから一度も入ったことのない海に入って波に揺られて漂う感じ。荒野を重い雑嚢ざつのうを背負って彷徨うのと違ってなんて楽で開放的なんだろう。


 うとうと眠くなる。このままずっと漂っていたくなる。

 さぁ、足は終わりましたよと声がかけられて、最後に身体にかけられていた濡れて重くなった布で身体をこすって湯船から上がる。



 エヌのミルク漬け蜂蜜風味出来上がりだ。


 指先がふやけて皺々になっているけど、腕や腿はびっくりするくらいしっとりつるつるだ。
 恐るべしミルク風呂。
 
 バスローブを着て、ほんの一口だけ冷たい水を飲んで、グラスに入っているのは常温の水だった。
 珍しく椅子に座らされて、へベスが足の裏にオイルを塗るのを水をちびちび飲みながら見ていた。


 眠い。

 眠いよ、へベス、もういいよ。


 もう眠気がすごくて、ふわっふわのタオルで髪を拭われながら、今日はすごく良く寝れそうと思っていた。

 頬に当たる髪が自分の髪じゃないみたいに艶っとしてる。しかもさらさらだ。
 へベスが床屋を開業したらきっと大盛況だよ。

 ねむい。

 白い下着とペールブルーの寝巻きを渡されて着替える。大丈夫、一人で着替えれるし、ちゃんと歩けるから抱っこされなくて、も、ベッドにいける。


 ああ、きょうはにかいに、かいだんあがらなくちゃ。



 ベッドに到着して、そのまま柔らかい枕に突っ伏して寝たいのに「さぁ」と促されて仰向けになって、「さ、手を伸ばして」と囁かれ、大の字になってうーんと伸びをした。


 本当に良く眠れそうと思った俺の手首にぱちんと音がする。

 もう一度、ぱちん、と音がする。

 両手は万歳じゃないけど、頭の横から下ろすことが出来ない。


 ねむいよ、へベス。俺、本当にきょうはねむいんだよ…。

 銀の鈴を鳴らしていないのに、へベスの顔が驚くほど近くにあって、彼は「復習の時間ですよ」と蜂蜜より重いとろりとした声で俺に囁いた。
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