異端の巫子

小目出鯛太郎

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復習の聖句

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 へベスは俺に覆い被さって「さぁ、午後の復習をしますよ」と耳元で囁いた。彼の結われずに落ちた髪が俺の肌をくすぐる。


 ヘベスの髪を払いのけようとしても、両手は頭の横から動かないし、とにかく眠いし、俺はヘベスに訴えた。

「ねぇ、ヘベスもうすごく眠いんだよ、明日がんばるから、一緒にねよ?ね?」

 ヘベスの長い指が、俺の両手に絡んできゅっと握りしめてくる。
「私を置いて眠ってしまわれるのですか」


「おいていかないったら、いっしょにねよぅ」 
 ヘベスの片手が離れて、片方は握りしめたまま、身体の上から重みが消えて、俺の顔にくっついたヘベスの髪がそっとすくように横に流される。

 俺は気持ち良く眠りの中に沈み込み、ほんの少しばかり眠りの波のゆらぎを堪能した…かもしれなかった。

 肌がほんの少しひんやりとするような風を感じた。


『あなたの魅惑の果実が私を誘惑し、離れれれば甘く香る。渇望のまま触れずに見つめている間は純愛、貪れば堕落』

 低く歌う様な声とヘベスの指が、眠っている俺を起こそうとする。


 いやだ。起きないからな。

 それから、その変な句も覚えないからな。



 俺の抵抗も虚しく寝間着の胸元がそっと開かれて、埋もれている小さな豆粒をやわらかくさすり、転がし、硬く育ててから唇で摘んだ。


 男には不要な器官だと思っていた。

 けど、齧り盗られたいとは思わない。

 噛まれて、俺は眠りの波から浮上して、ヘベスの頭を押しやろうとした。ヘベスのぬめる舌に絡まれて、歯で優しく摘まれて甘噛みされたまま引っ張られた。果実ならそのままヘベスの口から喉へ転がり落ちただろうけれど、俺の乳首は小さく痛みを覚えた。


「ヘベス、痛いよ、やだよ。ねえ、手を外してよこれ何なの?」


 
 ヘベスが俺の乳首を舐めながら囁いた言葉に俺は頬が熱くなった。『これは巫子がお独りでお休みされる時に、淫らに自慰するのを防ぐ貞操枷ですよ』


 ていそう?

 へー…そう…。


 ちょっと待ってよ、…男の貞操って何なんだよ?

 俺は眠いのを差し引いても少し混乱した。
 なんでいきなりそんな恥ずかしいことを言うんだ!?

 それは自慰がいけないのか、淫らな自慰がだめなのか、独りでするのが許されないのか、とにかく出来るのは投網にかかった魚のようにばたつくことだった。
 
 前のは、しようと思ってなったんじゃない。

 ってそうじゃなくて、ヘベスが触るんだったらそんなのつけても意味ないじゃないか。




 
 その抵抗は、すごく無駄だった。再び身体が重なって重みと熱に押し潰されて、優しく口を塞がれて、陸に引き揚げられた魚みたいに力を失った。


 俺は何かへベスが怒るような事をしちゃったのかな。縛られなくちゃいけないような?

 
 俺がぐったりしているとヘベスの頭の重みは俺の右胸に移りそこは舌と唇で、左の乳首は乳輪をなぞるみたいにゆるゆると親指の腹で弄られた。



 
 ヘベスは俺の身体がどうなるか分かっていた。


 前にそうなったのと同じように俺の身体は素直に反応して、下着の中で震えて頭をもたげて白く薄い下着を押し上げる。ひくひくと動いてヘベスに触れて欲しいのは此処だと控えめに主張する。


 俺は言葉ではやめてと願い、俺のどうしようもない陰茎は繰り返し震えて、うずくまりそうになりながらしずくを垂らしながら嘆願する。


 ヘベスは視線を向けるけれどそこには触れてくれない。

 きっと俺がお願いしないとそこには触ってくれない。


 ずるい。すごくずるい。だって俺は今日銀の鈴を鳴らしていないのに。もしへベスがしたいなら、へベスだって鈴を鳴らすべきだ。…俺がその音に気づかず寝ている可能性もあるけれど。



 へベスはずるかった。復習だと言ったのに午後には習わなかった聖句を俺に授けた。


『愛は支配である。愛は忍耐である。愛は解放である。触れられぬ愛は空虚である』


 彼の言葉通りに、俺の身体は彼の声と指先と舌と唇に支配され、熱に耐えて、吐精を許されずに耐えて、泣き縋って射精させられて、へベスは俺の欲望からつぃっと手を離した。


 半勃ちのそこからまだ白いものをこぼしながら、俺の手は柔らかい枷にいましめられて触れられず、へベスはその間俺を圧倒的に弱者にしながら自分が虐げられたような容貌かおで俺を見つめている。


 経験を通してその息苦しい愛を学ばせようと言うのが彼の意図なら、成功しているけれど。
 こんな事をされたら絶対忘れないけれど。


 騙し討ちみたいに手を縛るのって無いと思う。
 俺は怒っている事を伝えようとしたけれど、何もかも飲み込んでしまうような優しいキスに押し流された。『愛は寛容』だとへベスが言う。そんなのは乳首を咥えながら言う台詞じゃない。


 俺は次に同じことをしたら絶対許さないから!って怒ってるのに、嬉しそうにするへベスは壊れている。許されたくないって言うのはだめだよ!


『愛は束縛』だと言って、俺を束縛し同じように心を束縛されたがっている。へベスの心はもう前の巫子に縛られているはずなのに、俺に必要とされたがっている。


「私がいなければ何もできない人にしてしまいたいのです」

 もう十分依存してしまっているのに。
 へベスがいなくなったらどうしようと怯えている俺に…そんな恐ろしい事を言う。
 
 そのくせ俺から触れる事を許してくれないのだから、へベスはずるい。触れられぬ愛は空虚であると言ったじゃないか。

 触れられぬ者ばかり愛せよというのはひどい。
 触れさせてくれぬ相手をどうしろと言うのか。ヘベスは優しいくせにひどい男だった。





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