異端の巫子

小目出鯛太郎

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石の声

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「今、なにを……」

 へベスの白い額からひとすじの汗がしたたった。
 流れ星よりも珍しいものを見たような気になった。

「…俺の役に立たない巫子の能力はね、石の声が聞こえるってよく分からないものなんだけど。へベスの中にある石の声が聞こえるかなって試して、石に話しかけてみたんだけど…もしかしてあんまり良くない?」

 へベスは右手の甲で汗を拭い、手を下ろした。それから足を組んで左手で顔の半分を覆い深いため息をついた。どの動作もへベスらしくなかった。


「…心臓を直接素手で掴まれたらこうなるのか、ぐらいには驚きました」


 え?
 冗談だろうか?
 へベスの顔を見返した。
 銀縁眼鏡のガラスとダークブラウンの瞳に俺が映る。互いの瞳に自分の姿を見ると言うのは、ベッドに転がるのと同じくらい恥ずかしいものだとその時思った。


「…試しにもう一度やってみてください」

 へベスが差し出した手を取って、両手で包むように握ると俺はすごく真面目な顔で『べろべろばー』と心の中で唱えてみた。


 へベスは怪訝そうに眉間に皺を寄せた。
 瞬きのない三白眼で見つめられると今度は俺が汗をかきそうになった。

「…ちょっと待って」
 今度は至極真面目に、もう一度石の声を聞くところからやり直そうとした。それなのにそこには体温のあるへベスの手があるだけで、石は何処かに隠されたように探れず、石の声も聞こえない。


 やり方は探知機ソナーに似ている…のかな?

 探知機ソナーなら水中で音波を発信して、その音波が対象物に反射して戻って来るまでの時間から、距離を測定するんだっけ。
 あれ?でも俺は音波を発しているわけじゃないし、それに代わる何かを発信しているわけでもないな。


 探知機というより、石の声限定の受信機レシーバーなのか。しかもあんまり感度の良くない受信機だ。


 昔はもっと聞こえた気がする。
 なんだかきらきらするような無邪気な声が。

 黄銅鉱の虹色に輝く部分や、水晶に青い花が咲いたようなディモルチェライトの軽やかな声が。

 もしかしたら昔の俺ならば、へベスの石の叫びを何を言っているのか理解できたのかもしれない。



 昔は当たり前に聞こえた声が、今は探さないと聞こえない。

 横にいるのにへベスの石の音が聞こえない。





 鈍い俺でも、へベスが心を閉ざしたのだと分かった。『ごめんねへベス』伝わるだろうか?
 俺はさっきちょっとふざけた事を後悔した。

 へベスは俺の手を握り返した。
「伝わった?」

「…今度はよくわかりませんでしたね。でもこれは、他の方にしない方がよいでしょう」


 銃を手にしていたら撃ってしまいそうです、と彼は言った。
 なにー…。そんな気持ちにさせちゃうのか…。もうやらない、と俺はへベスに言ってその場はお開きとなった。


 
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