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泥に触れて
しおりを挟むどうしよう。あの人の石に触れたいという気持ちが抑えられない。
それなのに一人にしてもらえそうにない。ものすごく心配されている。そうだよな、裸同然で外に倒れてるとか、周りからしたらいい迷惑だよな。外に出たのは俺自身だけど、なんで脱いでしまってたんだろう。
灰色の影に身包みはがされたんだっけ…。あの世界で脱がされると、こっちでも脱いじゃうのか…?
あれ、そうすると灰色の世界で怪我とかしたらやばいんじゃないだろうか…。
ううう…俺が諦めれば良いだけだとわかっているけれど、結局あんな事になってしまったけれどあの影のような暗い街に行けた事で、ゼルドさんの石に触れるんじゃないかという希望が消せなくなってしまったのだ。
出立の日が差し迫っているから余計に気持ちが焦る。
こんな無謀な事をせずに、直接会いに行って握手でもなんでもした方が余程健全で計画的だと云う事は重々承知していた。
それができるような性格をしていないからだよな。隠れてこっそりと試そうとするなんて。あぁほんと、女々しいよな、なんて駄目な奴だろう俺って。
俺はお気に入りだったアルコーブベッドの上で悶々とした。あんなに気に入っていた場所なのに。ここは地面に接していない。床は木材だし、窓枠は金属で、壁は石なんだろうけど…加工してあるもんな。
加工していない剥き出しの土か岩か、砂でも良い。そんな物がある場所はないのかな?あのダリアの咲く花壇の他に……温室!温室の何処かに泥が剥き出しになった場所が、あったかもしれない。
温室は何度も行っているから、ヘベスも安心してくれた。ずっと横にいると気が休まらないだろうと一人にしてくれた。
ところが温室は失敗だった。地面から冷えるのを想定して、何処も断熱のブロックが敷き詰められ泥のように見えていた場所も透水ブロックの上に土が盛られて木や植物が植えられた物だった。
剥き出しの場所が無い…。
置いてある飾りの岩に触って探って見ても何の反応もなかった。
天気が良いせいで温室内は熱くなり、汗ばむ程になり俺は外に出ようとしてそこで温室のすぐ外の裏手に生えている木の根元が足を投げ出して座れる位の剥き出しの泥である事に気がついた。
ここだ、ここしかない。
直接座ったら汚れて怒られそうだけれど…。
これは何の木だろう。漂う芳香が少し甘いような。
昨夜は闇雲に進んでしまったから今回は王子宮のある方向をなんとなく意識してみた。
お邪魔しますと木に声をかけて、泥の上に座り木に背を預ける。
昨日したことを試すだけだから、と誰にともなく言い訳をした。昨日したように両手を地面について空を見上げた。昨夜見えたのは夜空とダリアの茎と入り乱れる花と葉の裏側だった。
今目にするのは青空と広がる枝と豊かな緑の葉、葉の間から優しい木漏れ日。
訪れる酩酊感、何かが巻き付いて引き込まれるような感じだ。良いぞ、行け、と暗い街に足を踏み出す。
方向は残念ながらよく分からなかった。身体が沈み込む時に何処を向いているのかわからなくなってしまうんだ。
ただ昨日と同じ固く鎧った部屋が近くにある感じがした。
ゼルドさんの事を考えていたのにどうして全く違う影を引き当ててしまったんだろう?煙草の香りのする凄く激しい影を、どうして…。ゼルドさんに会いたくて名前を呼んで、何の反応もなくて、それから俺は何をしただろうか?
…思い出せない。
何も特別な事はしていなかったよな?
ゼルドさん、ゼルドリスに会いたい。
日の光が差しているのか瞼の辺りが明るくて、瞼に赤く血の色が透けて見えるようだ。
会いたいと思うだけではだめなのかな…俺は今日はこれで諦めようと戻ろうとした。あの甘い香りが少し漂う木の下に。
困ったことに戻れなかったのだ。
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