異端の巫子

小目出鯛太郎

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呼び声

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 そうだった。あの時は自分で戻ったんじゃなくて、へベスに激しく身体を揺すられて起きたんだった。肝心の自力での戻り方はわかんないや。
 温室の中じゃないけど、すぐ裏手だからきっとまたへベスが見つけてくれるだろう…。

 って、気をつけないと駄目だな。
 鍵の掛かった場所や、人気がなさすぎる場所も危険という事だよな。俺本体を起こしてもらわないとこの世界から出られなくなってしまうって事だもんな。
 ちょっとそれは怖すぎる。
 こんな何もない世界に取り残されるとかごめん被りたい…。


 俺はもう一回気合を入れ直して、目の前に広がる灰色の世界を見つめた。
 何か特徴や違いを見つけようとするんだけど一歩動くともう違う場所にいるように見える。



 …………………


 気のせいでなければ今、巫子に会いたいと聞こえたような。
 声が小さいのか、場所が遠いのか微かな声で、やはり巫子に会いたいと聞こえた。

 いや、巫子って言ったって俺だとは限らないよな。レベリオには他にも巫子がいるし。第一俺はレベリオに知り合いなんていないもんな。
 

 しかし、この暗い世界は一体何なんだろう。人間に人の世界があるように石の世界なんだろうか。
 俺は石の声しか聞こえないと思っていた。

 カエリタイ、とか、ココダヨみたいな簡単な言葉で俺に訴える声だ。言葉にならなくてキラキラ炭酸みたいに弾ける音もあれば水底をさらりと流れていくようにもの悲しい雰囲気を伝える音みたいなものもある。

 でも昨夜の軍神のような影の身体は、あれがもし強化兵の誰かだと言うのならば石の声や思念というよりも、石を埋め込まれた人そのものの声だった。



 俺は今まで一度だってそんな声を聞いたことがない。


 
 もう二度と離さないと熱っぽく囁いた声と、熱烈な抱擁。そしてあの声に宿った喜びと深い悲しみ。へベスの石も一つは深い悲しみを宿し、もう一つは烈火の如く怒りに震えていたけれど、あれは言葉ではなかった。二つは似ているようで違う。その違いは何なんだろう。


 誰かの心に隠している声や想いをこっそり聞くなんて、そんなこと…。
 いけない事だとわかっているけれど、気になるんだ。知りたくて、触りたくて仕方ないんだ。


 ゼルドさんを追いたいのに、小さな声に邪魔をされる。気をがれる。


 今まだ聞こえる微かな声は、アイタイではなく巫子に会いたいと言っている。



 巫子、巫子に会いたい。巫子に会いに行きたい。巫子は大丈夫だろうか。俺のせいで倒れてしまった。俺のせいで倒れてしまったのに誰も教えてくれない。俺の傷を癒やしてくれたあの温かな手。俺は巫子に酷い事をしたのに。巫子は一言も俺を責めずに庇ってくれた。俺の傷を癒やしてくれた。巫子、もう身体は大丈夫なのかな。どうして誰も教えてくれないんだ、あの人が無事かどうか。もう、王座なんて高望みはしないから、俺は巫子に謝って…。巫子は許してくれるかな?もし許してくれなくても、謝り続けて、巫子が傷つかないようにお守りして、泥一筋ひとすじの汚れもつかにようにお守りして、ずっとそばにいたい。巫子…俺の巫子……俺の巫子………


 え?
 なんだかすごく既視感のあるような事を言っていないか…?気のせいだと言うにはあまりにも合致する点が多すぎて。うわぁ…どうしよう、声の閉ざし方が分からない。相手の声というか思念が垂れ流される。俺は壊れた受信機レシーバーになってそれを聞いてしまう。

 はぁはぁと途切れがちな何かに耐えようとするような、逆に限界まで駆けあがろうかとするような乱れた息遣い。巫子、巫子と呟きながらきっと手を激しく動かしている。


 もしかして……もしかしなくてもこれは…ロベリオ?


 その瞬間に何かが弾けた。

 線香花火のように激しくてのひらの近くでぱちぱちと勢いよく弾けていたものが勢いを無くして最後の炎一雫がぽとりと落ちて消えるまで、そんな感覚を俺は閉ざすことも出来ずに、背筋を震わせて感じていた。
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