異端の巫子

小目出鯛太郎

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ことわざ

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 うわぁぁぁぁぁ。へ、平常心、平常心だ俺。こんな時こそ落ち着いて深呼吸だ。この暗い世界で目の前に、誰もいない事にこんなに安堵するとは。 
 
 これは、こういう事が起こるのか、この暗い世界では。天に口あり地に耳ありってことわざがあるけど…こう言う事だったのかな。聞かなかったことにしよう。無かった事に。よりにもよって、なんでロベリオなんだろう。今まで思い出しもしなかったのに。
 
 それこそどうせ聞こえるなら…ゼルドさ…んのが良かったよ…。嫌、だめだな。何考えてるんだ俺。

 予想外の出来事で俺は困っていた。闇雲に突き進んだ昨夜のように足を踏み出せなくなってしまった。
 
 知らない石の影に抱きつかれるのも怖いけれど、知っている人の声が聞こえるのも気まずいし怖い。
 今のは、ロベリオの声は拡大解釈すれば…好意だ…まぁ…その…相手が本当に俺かどうかはわかんないけど。でももし次に聞こえてくる声が俺に対する憎悪や俺を忌み嫌う声だったら、怖い。
 意図的に耳を塞ぐことも出来ずに、受信し続けるだけの壊れた受信機レシーバーでいるのは嫌だ。

 俺は自分の想いに溺れるより先に、別の巫子と交流して自分の力やその使い方を知らなくちゃいけないのかもしれない。そうしないと、何か酷い間違いを起こしそうだ。

 ゼルドさんが好きだ、彼に会いたい。彼が俺をどう思っているか知りたい…そう思っている気持ちは消えないけれど、ロベリオの呟き声のせいで俺は急に臆病になってしまった。

 もう一つ思い起こされる諺があって『聞けば気の毒見れば目の毒』って言うやつだ。聞けば聞いたで真実を知って心を悩ませ見れば見たでその事実に心を悩ませる。まさにこれだよな。

 ロベリオだってその、自分が致しているのを人に知られたくは無いだろう…。しかもこんな通常の想定外の方法で。



 俺は元気だから、変なことしちゃだめだよ、ロベリオ。

 俺はなんとなく声が聞こえた方に背を向けて歩き出そうとした。


 その時の感覚を何て表現したら良いんだろう。親から逸れたお腹をすかせた子猫が何日かぶりに餌を見つけて食べようとしたら、恐ろしい何かが現れて、慌てて物陰に飛び退すさった感じ。それでもなおかつ餌を諦めきれずに物陰からこっそりと覗き見ている気配だけがするような。

 まさか、ね?
 子猫って感じじゃ無かったよねロベリオは。顔を思い出そうとすると、自信満々の声と、黒っぽい髪と、俺を睨んでいた眼と彼の顔に残された『罪人の証』の黒い十字架の痣しか思い出せなかった。それぞれが崩れたパズルの破片のように散らばり、何か余計なものが加わり、何か必要なものが足りなくて彼の顔を鮮明に思い出せなかった。不思議だ、なんで俺はロベリオを黒い太陽だと思ったんだろう?彼の髪が黒いからってそれだけの理由かな?
 アルテア殿下の髪が眩い金髪だから、単純に反対のように感じたのかな。

 ロベリオの『罪人の証』は消えたってアルテア殿下が言ってたよな。見てないからわからないけど、殿下がわざわざ俺に嘘を言うはずもないし。あんな奴は放っておいても良いか。でもまだ懲罰房とかにいるのかな?そんな長くはいないか…とつらつら俺は思っただけだった。
 声になど出してはいなかった。
 別にロベリオに会いたいと思ったわけでもなかった。


 ……………巫子?


 さっきよりもはっきりとした声で呼ばれた感じがして、俺はその場で飛び上がった。
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