35 / 70
ことわざ
しおりを挟むうわぁぁぁぁぁ。へ、平常心、平常心だ俺。こんな時こそ落ち着いて深呼吸だ。この暗い世界で目の前に、誰もいない事にこんなに安堵するとは。
これは、こういう事が起こるのか、この暗い世界では。天に口あり地に耳ありって諺があるけど…こう言う事だったのかな。聞かなかったことにしよう。無かった事に。よりにもよって、なんでロベリオなんだろう。今まで思い出しもしなかったのに。
それこそどうせ聞こえるなら…ゼルドさ…んのが良かったよ…。嫌、だめだな。何考えてるんだ俺。
予想外の出来事で俺は困っていた。闇雲に突き進んだ昨夜のように足を踏み出せなくなってしまった。
知らない石の影に抱きつかれるのも怖いけれど、知っている人の声が聞こえるのも気まずいし怖い。
今のは、ロベリオの声は拡大解釈すれば…好意だ…まぁ…その…相手が本当に俺かどうかはわかんないけど。でももし次に聞こえてくる声が俺に対する憎悪や俺を忌み嫌う声だったら、怖い。
意図的に耳を塞ぐことも出来ずに、受信し続けるだけの壊れた受信機でいるのは嫌だ。
俺は自分の想いに溺れるより先に、別の巫子と交流して自分の力やその使い方を知らなくちゃいけないのかもしれない。そうしないと、何か酷い間違いを起こしそうだ。
ゼルドさんが好きだ、彼に会いたい。彼が俺をどう思っているか知りたい…そう思っている気持ちは消えないけれど、ロベリオの呟き声のせいで俺は急に臆病になってしまった。
もう一つ思い起こされる諺があって『聞けば気の毒見れば目の毒』って言うやつだ。聞けば聞いたで真実を知って心を悩ませ見れば見たでその事実に心を悩ませる。まさにこれだよな。
ロベリオだってその、自分が致しているのを人に知られたくは無いだろう…。しかもこんな通常の想定外の方法で。
俺は元気だから、変なことしちゃだめだよ、ロベリオ。
俺はなんとなく声が聞こえた方に背を向けて歩き出そうとした。
その時の感覚を何て表現したら良いんだろう。親から逸れたお腹をすかせた子猫が何日かぶりに餌を見つけて食べようとしたら、恐ろしい何かが現れて、慌てて物陰に飛び退った感じ。それでもなおかつ餌を諦めきれずに物陰からこっそりと覗き見ている気配だけがするような。
まさか、ね?
子猫って感じじゃ無かったよねロベリオは。顔を思い出そうとすると、自信満々の声と、黒っぽい髪と、俺を睨んでいた眼と彼の顔に残された『罪人の証』の黒い十字架の痣しか思い出せなかった。それぞれが崩れたパズルの破片のように散らばり、何か余計なものが加わり、何か必要なものが足りなくて彼の顔を鮮明に思い出せなかった。不思議だ、なんで俺はロベリオを黒い太陽だと思ったんだろう?彼の髪が黒いからってそれだけの理由かな?
アルテア殿下の髪が眩い金髪だから、単純に反対のように感じたのかな。
ロベリオの『罪人の証』は消えたってアルテア殿下が言ってたよな。見てないからわからないけど、殿下がわざわざ俺に嘘を言うはずもないし。あんな奴は放っておいても良いか。でもまだ懲罰房とかにいるのかな?そんな長くはいないか…とつらつら俺は思っただけだった。
声になど出してはいなかった。
別にロベリオに会いたいと思ったわけでもなかった。
……………巫子?
さっきよりもはっきりとした声で呼ばれた感じがして、俺はその場で飛び上がった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる