異端の巫子

小目出鯛太郎

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銀の腕輪

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 恥ずかしい。
 今猛烈に恥ずかしい。明日になっても明後日になってもきっとずっと恥ずかしい。左手首にはまった銀色の腕輪が視界にちらりと入るたびに、地面の上をのたうちまわりたくなるくらいに恥ずかしい。
 
 俺は運ばれて朦朧としている間に何か色々へベスに口走ったらしい。

 …俺、ダリアの花を切っちゃだめだよってのは言った覚えがあるんだけど。それ以外は覚えがない。へベスいわく、俺は俺の銀の腕輪がいる、と切羽詰まった様子で叫んだらしい。
 これにはへベスも参ったらしい。

 だって俺装飾品を身につける習慣はないし、殿下から贈られた今首につけてるペンダントが唯一の飾りだもんね。

 へベスは俺を寝かせると、殿下から贈られた物をしまった場所を探したんだって。へベスが俺の側仕えになる前に殿下から贈られた衣装と揃いの装飾品の中にはイヤリングをはじめに一揃いの宝飾品が並べられていたけれど、それはどれも金に宝石をあしらったもので銀ではなかった。

 へベスは俺に悪いと思いながら俺の私物も開いてしまったと言った。
 あれだ。クレオさんが行李に入れてくれた俺がセルカから持ってきたずだ袋の中身だ。自慢じゃないがその中には指輪一つ、宝石一つ入っていない。宝飾品でもない隕鉄が小さな木箱に入っているぐらいだ。あとは俺の古びた服が。

 銀の腕輪など俺の持ち物の中にない事を確かめたへベスは、ほとんど寝ているように見えた俺に囁くように言ったそうだ。「銀の腕輪はどこにもありません」俺ははっきりと「ゼルドが持っている」と答えたらしい。

 もう、俺の銀の腕輪と口走った時点で俺は、自分の胸ぐらを掴んで揺すってやりたい。
 俺の・・って何だ!?
 確かにゼルドさんは責任を感じて体調を整えるという銀の腕輪を俺に渡そうとしたけれど、俺は断っただろぉぉ!?喉から手が出るほど欲しかったけど、断っただろう。だって俺の体調が悪いのは飛空挺に乗ったのがきっかけかもしれないけど、自分の管理の悪さだもん。それをゼルド、さんの、せいにしたくない。

 それなのに俺の銀の腕輪とか…、ゼルドが持っている…とか何言っちゃってくれてるんだ、寝てた俺よ…。どれだけあれが欲しかったんだよ。欲しかったけど…。厚かましいにも程がある。土下座してお詫びしたい…。

 へベスの凄いところはそこで話を終わらせずに、すぐに使いをやって銀の腕輪をお持ちですかとゼルドさんに問い合わせた所だよ…。巫子が夢で貴方がお持ちの銀の腕輪を見たようで、もし思い当たる品があるようならば差し支え無ければ少しお借りできないか、とアレを借りてきてしまう所だよ。

 う、う、う、嬉しいけれど複雑な気分だ。恥ずかしい。自分で断ってるのにこんな事になるなんて。

 でも嬉しいんだよ。俺の中であの時自分を偽る歯車を回す影で泣いていた小さなエヌが、また泣いている。今度は喜びに咽び泣いている。腕輪の内側には薄く削られた石が嵌めてあって、それはゼルドさんの瞳のように黒っぽい石だった。小さなエヌはうっとりとそれを指で撫でる。それから腕輪をはめて、冷たい石の感触が手首の内側のやわらかい部分に当たると、ひゃぁと歯車の影に座り込んでしまう。腕輪をきゅっと胸に抱きしめるようにして。
 小さなエヌは俺の一番純粋な部分なんだよな、きっと。素直に喜んでいる。心の中を表すならそういう感じだった。

 でも座って外を眺める俺は、というと後ろめたくて。へベスに後ろめたくてでも何て言って良いか分からなかった。もっと追求されたら言おうかとも思ったのに、へベスは俺に預かってきた腕輪を嵌めてもの問いたげに俺を見たけれど、お辛い所はありませんか?としか言わなかった。
  
 誰かとの距離が近づいたと思うと、別の誰かからの距離は遠ざかってしまうんだろうか。
 同時にその距離を近づきたいと思うことはいけないことなのか、不可能なのか。

 俺はぼんやりと外を眺めた。
 俺が寝転んで倒したり折ったりしたダリアの場所は、手入れをされていた。
 ダリアの種類が多すぎて、違う花が新たに植えられていてもわからない。

 影の暗い世界へ行く道が閉ざされてしまったように一瞬思えた。でも土に触れるからとあの場所をまためちゃくちゃにしてしまったら、否定しても夢遊病って烙印は色濃くなっちゃうし。またお医者さんが呼ばれちゃうだろう。


 この腕輪をしたせいなのか、もう行かなくて良いかと云う気分になってくるのだ。
 あの世界からの出方が分からないし、出ようとするときに痛みを感じるし、その度に倒れたり何か変な事を口走りでもしたら迷惑かけちゃうしな。

 銀色の腕輪の上にそっと手を乗せる。
 ゼルドさん、これを彼だと思って心に折り合いをつけようか。

 セルカの荒野に立っていた時、俺はもう少し強い気持ちで向かって行く忍耐というか粘り強さがあったように思うのにレベリオに来てからの俺はふにゃふにゃだ。

 この銀の腕輪に恥じないように、しっかりしなきゃ。
 そう思いながら、でもやっぱり嬉しくて恥ずかしくて、俺は定められた時間に本も開かず顔を覆ったり、頭を抱えたり、腕輪を見つめたり落ち着きなく狼狽えていた。
 
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