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コーヒー
しおりを挟む読書の後、マウロさんが作ってくれたおいしい昼食をスミセルさんと堪能し、次は食後のコーヒーを…という所で楽しい時間は終わった。
非番時の巫子宮での飲食は服務規程に違反するのだ、とか何だとかと早めに到着したルゥカーフが言い出したのだ。
あれ、昨日はルゥカーフだってお茶を飲んだんじゃない?って思ったら王宮警備の者は非番日、週休日に巫子宮での飲食を禁じているんだって。別に一食ぐらい良いじゃないと思うんだけど…。
王宮と巫子宮では同じ敷地内でも管轄が違うだとか、護衛官に限ってないとは思うが、護衛官が巫子宮での接待や食事をあてにするような事があっては困るだとか言い出した。
俺、ゼルドさんだったら毎日来てくれてもよいのにとか思っちゃうけど。作るの俺じゃなくてマウロさんだから、用意するのは大変になっちゃうだろうし、一緒の食卓とか緊張しちゃって食べれないだろうなとかとりとめもない事を考えてしまった。はっ!?いけない今はそんな事を考えている場合じゃない。
ルゥカーフの後ろにいたシェスさんは、お手上げ、みたいに両手を上に向ける仕草を俺にして見せた。それから手を目の下に当てて泣き真似みたいな動きをした。
そ、それは突っかからずに泣き落としでいけと言う合図だな!?
よし、俺に役者の経験は無いけれど…。俺は両手を合わせて胸に当てた。
「ごめんなさい。そんな決まりがあるなんて知らなくて…。最近側仕えのへベスが忙しくて、食事が一人だと寂しくて味気ないからスミセルさんに無理にお願いしたんです。悪いのは僕なのでスミセルさんを怒らないでください…」
下唇の内側をがぶっと噛んで。うん、痛い、目がうるっとしたな。そこから上目遣いだ。あれだ。雨に濡れた子猫みたいな感じだ?
…こんな大根役者の演技が通じるかな?と思ったら……うわぁ……通じてた。
ルゥカーフは不承不承というか護衛の規則は御身を護るためにも大事ですとか規則を言い並べ、確かに彼の言うことは真実であるので俺も頷かざるを得ないのだが、その後で巫子がお寂しい思いをされているとは気が回らず申し訳ございませんというような事をもにょもにょと言った。
いつもは陰険で鷹のように鋭い目つきを落ち着きなさそうに揺らす。
陰険そうっていうのは俺の勝手な主観で、ルゥカーフは外見が鋭角的なんだよな。
眼窩から鼻梁にかけてとか、頬から顎にかけてとか無駄な所を削ぎ落としたようで黒い眉もきりっと真っ直ぐだし。それで性格があれだからなぁ…。
くそ真面目とも違うし、堅物でもないしなんて言うんだろう?言うことがきついし、周りを一段下に見てる感じがするんだよな。いや、俺の事は馬鹿だと思ってるのは間違いないだろうけど。
「あのぅ…食後の眠気覚ましに濃いコーヒーをみんなで一杯飲むってそういうのもだめですか?」
「せっかく巫子がこう仰ってくださるのだからどうかな、ルゥカーフ。頭もすっきりするし時間もまだ余裕があるじゃないか」
すかさずシェスさんが丸め込んだ。
シェスさんて、裕福なお宅にいる金色の毛の愛想の良い大型犬みたいだ。ルゥカーフはつんとした仕事熱心な警察犬。スミセルさんは犬じゃないな。つんとして微動だにしないように見えて毛糸玉を出したら、そわそわする毛足の長い猫みたいだ。
人付き合いのあまりない俺は、人様を犬猫のような印象でまとめて一人納得した。
「巫子様には少しミルクを多めにしましたが、このぐらいの量でしたら皆様のお仕事のお邪魔にもならないでしょう」
マウロさんの援護射撃だ。とっても小さいカップにコーヒーを淹れてさささと流れるように渡してくれる。
「わぁ、香りが良いですね」
ね、という所を同意を求めるように、かつ無邪気に純真にくらえ!俺の大根演技…って感じでルゥカーフに微笑みかけた。
……うん。効果あった。
なんかこの人への対応が分かったような気がする。
一度抱いた苦手意識ってなかなか消えないけど、うまくやっていかなくちゃいけないし。護衛とかほんと、要らないんだけれど、俺お世話になってる方だからね…。
勉強だけじゃなくて、人間観察というか、人付き合いもね、大事だから。
コーヒー一杯でそれが円滑になるのなら、利用しない手はないよね。
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