異端の巫子

小目出鯛太郎

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治水と水の魔導

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 マウロさんが淹れてくれた濃いコーヒーのおかげで眠気はない。

 眠気はないけど、それで理解力が増すかというとそれは別問題だった。


 聴講室には俺と、護衛官が一人、もう一人は廊下に立っている。90分も立ちっぱなしで申し訳なく思うんだけど、外務だと3、4時間交代無しとかなんだって。それと比べると楽ですよ、とシェスさんは笑った。
 そうなのだ。

 シェスさんが外に立って、ルゥカーフが聴講室の中で立っている。

 逆だったら良かったのになー。


 一応座ったら?ってルゥカーフに言ったんだけどね。
「いえ、これも任務ですから」
 って入り口の横にずーんって立たれてしまった。
 背後に人がいるのも落ち着かないんだけど、仕方ない。


 今日の聴講の内容は『治水』についてだった。聞いたことはあるけれど俺には馴染みの無い言葉だった。
 生まれ育ったセルカはものすごく乾いた環境だったからな。
 水の管理は王家の主導のもとで行われてたし。


 逆にレベリオは水資源が豊かで『治水・利水』に関しては連綿と受け継がれる歴史と技術があった。
 ただその技術も、俺の頭の中にあるものとは若干ずれていた。レベリオは広大な国土と沢山の河川を有し、溢水を収容する大運河と小運河で整備されていた。河床を深く掘り下げて氾濫原は遊水地に、広大な湿地帯は灌漑を進めながら農地に、乾いた土地には鉄道網と街が開かれていた。
 

 気候は湿潤で穏やかだけれど、災害がないわけではなく、河川の氾濫や洪水対策を王家だけでなく土地の所有者や住人にもその義務を負わせていた。

 河川貴族なんて揶揄される時もあるらしいけど、肥沃で広大な土地を所有しその分治水に対しては相応の責任を有する。

 俺、なんかそういう洪水とか氾濫は水の魔導を操る術師さん達が呪文とか魔法陣みたいなのでえいや!って治めてるのかと思ってたんだけど…全然違ってた。


 俺の頭の中にさぁ、おじいちゃんが杖を手にして『いざ行かん!』って言うと海がぱっかーんて割れて道が現れるような想像が浮かんでさぁ。

 水の魔導ってそういう水を自在に動かすのかなって思ってたんだけど…。そういうのじゃなかった。そもそもあれはおじいちゃんが念動力とかで動かしたんじゃなくて、神様がやったんだっけ?
 水の剣とか、水球が飛んで対象物を破壊する術でもなかったよ!



「一体どこで何を学んで来られたんですか」
 ルゥカーフに冷たーい視線で見下されていた。いや、ルゥカーフには聴講が終わってから水の魔導って使えますか?って聞いただけだったんだけど…。

「水の剣?人間の手から水が噴出する訳がないでしょう。人体が一日に出納する汗を総換算すれば2500立方…」

 あぅぇぇぇえ…。汗の剣とか臭そうで嫌だよ。じゃなくて、水の魔導と言っても無から水を出せる訳じゃないし、思い通りに動かせる訳でもなかった。
 現在活用されているのはホバークラフトに風と水の術式が搭載されていたり、水の濾過装置に組むこまれているみたい。
 科学の代わりに発展したのが水の魔導だった。
 
 水の魔導って、電気というか動力の替わりに利用されている色合いが強かった。ホバークラフトが開発される前は、運河を船で渡っていたそうだ。そっちの方が風情があるけど、世の中が求めたのは風情よりも機動力だったみたい。




 動力利用という点ではすごい残念だった。

 動力だと、セルカには水が無いからなぁ。

 水の魔導を極めたらさぁ、セルカに戻っても水を売って生活できるんじゃないかと思ったんどけど…。甘かったかぁ。
 先代から俺は魔導の才能は無いって言われてたけどさ、もしかしたら年齢と共に力に目覚めるとか、ひょんな拍子で体得するとかあるかもしれないとか…夢みるくらい良いじゃない?



「セルカはいつも渇水状態だから、水の魔導で水を自由に出来たら良いなぁって思っただけなんだよ~。か、乾いた土地の人のために…」

 ちょっと取ってつけたような理由になったけど、ルゥカーフはそうでしたか、とあっさりと引き下がってくれた。

 うん、彼は『民を想う巫子』好きそうと思ったけど。やっぱりそれっぽいよ。


「水を自由に操れたらか。指先から麦酒ビール葡萄酒ワインが出るなら俺も真剣に学んだだろうなぁ…」
 シェスさんがはふっと呟いて、ルゥカーフに冷たく睨まれている。

「退官したら、田舎で飲み屋の親父になるのが俺の夢なんだ」
 わぁ…シェスさんのお店賑やかそうだよ。でも誰かがしっかり見ていないと稼ぐよりもシェスさんが飲んでしまいそうだ。

「ルゥカーフお前だって退官したらどうしようとか考えるだろう?実家は…」

「生憎相続する土地も無い貴族の四男坊でしてね。何処かの施設の管理人にでもなれれば良いのですが」

 あぇぇぇえ?なんか流し目で見られてるけど俺にはそんなの任命する権利なんてないからね?
「…何か?」

「ううん、ルゥカーフはしっかりしているからてっきり長男かと思っただけ」

 護衛官とか公務の人達は一生困らないって想像してたんだけど。まだ若いのに退官後の事まで考えているんだね。


 ううん、施設の管理人かぁ…。


 巫子をお役御免になったら何処かの施設で使ってくれないかな?何か資格とかいるんだろうか。
 あぁでもヘベスみたいに手際が良くて、ルゥカーフみたいに色々細かい所に目がいく人間でないとだめかも。
 俺、すごい大雑把だもんな。

 巫子も不安定な職だけどそう思っているのは俺だけなのかもしれないけど、将来ってさぁ、考えるの難しいよな。

 俺は深々と溜息をついた。
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