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代役
しおりを挟むその日の夜。
開封された一通の手紙を持ってへベスは現れた。
顔を見れば、手紙に書かれた内容が俺にとってあまり良いものではなさそうなのが丸わかりだ。
手紙にはへベスに、黎明宮で静養するハティの仮の側仕えとなるように記されていた。…ハティの体調が整うまで、とあってないような期限付きで。
イレーヌさんが怪我から復帰するまでの繋ぎかと思ったら、思いっきり引き抜き…というのも違うけれどハティにへベスを盗られたような気がした。
う、いや、こんな考え方は了見が狭いよな。
ハティもきっと心細いだろうし、病気の巫子のお世話の経験があるへベスがそばにいた方が良いに決まっているよな。
分かってはいるんだけど。
俺に何の断りもなく決まってしまうなんて。
…いや、そこもよく考えれば俺がへベスを雇っているわけじゃないから仕方ないんだけど。アルテア殿下が決めてしまえば従うしか無い。
「………………」
へベスに向かって何て言って良いのかわからずに躊躇った。正直を言えば行って欲しくない。でもそんな事を言っても困らせるだけだ。
ハティはそんなにひどいんだろうか?
他の人がお世話できなくらい暴れたりするんだろうか…?
長く時間がかかるんだろうか?
へベスはなんでそんな嬉しそうな顔をしているんだよ。俺は寂しいしなんか悔しい気にさえなるのに、俺の顔を見てへベスの笑みはますます深くなった。
へベスが指を伸ばして俺の唇をなぞるまで、自分の唇を噛んでいることさえ気がつかなかった。
勝ち負けでもなんでもないのに、へベスに負けたような気になる。
へベスはハティの側にいる方が嬉しいのかと思ったら、会ったこともないハティにさえも負けたような気がする。
「そんな顔をしないでください。休みの日にはこちらに帰ります」
へベスは唇をなぞった手で、俺の重く沈んでいきそうな顎を包んだ。
へベスが支えてくれなかったら、俺の頭はそのまま地面にめり込んでいきそうだった。
「へベスはなんでそんな嬉しそうなんだよ…」
「…エヌが寂しそうな顔をしているので」
やっぱりへベスは意地悪だった。へベスは俺を、星養宮で帰らぬ飼い主を待つ犬のように変えてしまうに違いなかった。へベスがいつ帰ってくるのかと物音や外の様子を伺いながら過ごす様子が簡単に想像できてしまった。
「エヌが平然としていたら、私がいなくても平気だったら私が立ち直れなくなりそうでしたよ」
手紙は床に落ちて、へベスは本当に犬にするみたいに俺の髪をぐしゃぐしゃにかきまわした。ああ、どうせ頭に触るんだったらミルク風呂で頭を洗って欲しい。気持ちが良いから。
疲れきっているへベスにそんなことは言えなくて、もう寝ようと囁いた。
どう近づいていいか分からなくてくっついたり離れたりして、ゼルドさんを好きなままなのに、へベスの手も離したくなかった。
「学舎で聴講する時間が増えますね。それから私がいない間は週に何回か代わりの者が星養宮に入るようです。ご不便をおかけすることもあるかと思いますが、何かありましたらすぐにおっしゃってください」
新しい側仕えを新たに採用するわけではないみたいで少しほっとした。
ただ護衛も兼ねて代わりに星養宮に入るというハイグ氏という男が、まさかルゥカーフのことだとはこの時俺は全く気づかずにいた。
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