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お手紙
しおりを挟むファルカ様に送る手紙と収穫を祝う絵を白い封筒に入れて、封筒は開けたまま渡さなくちゃいけないと思い出すと、これをルゥカーフがいる私信室に持って行くのはなんだか嫌だなぁと思ってしまった。
セルカ語で書かれているから読めないかもしれないけど、絵とか馬鹿にされそうな気がする。もっと優美な絵とか高尚な感じなら別だけど、こういう土俗的な物には、直接言わないだろうけどそんなもの…みたいな目で見られそうな気がする。
被害妄想かな。
彼には星養宮で仕事をしてもらっているんだからもっと感謝しなくちゃいけないんだけど。
いっぺん苦手だと思うとなかなか気持ちが塗り替えられないというか、切り替えられないというか…。だめだよな。
それからそこで、アルテア殿下より先にファルカ様に何か送るのは駄目じゃないかと気がついてしまった。どこかからアルテア殿下の耳に入ったらきっとものすごく機嫌を損ねてしまうだろう。
ところが、殿下宛に筆を取ろうとすると、何も書くことがないのだ。
本当に何もお伝えすることがない。
何にも話したいことがなかった。
アルテア殿下の前だと俺はどう振る舞えば良いのか、何を言って良いのかもわからなかった。そんな状態の俺が殿下宛の手紙を気軽に書けるはずがなかった。せめてこれを読みました…ぐらいのことは書かなくちゃだめかな…?
俺は机の引き出しを探り、殿下がしっかりと勉強しておくようにと俺宛に残していかれた書き付けを取り出した。
『氷・水・水蒸気の三態における動力活用』
『水の自然蒸発の再利用』
『電気利用に関する啓発』
ひぃぃぃ…俺はそれを丸めて何処かに隠したくなった。まだたくさん書いてある。
殿下が星養宮に運ばれた本の類からも、殿下が水資源の動力活用に意欲的なのはわかっていたんだけど…。
殿下がお持ちになられた本は難しいんだよ。
確かに俺は誰かさんの知識で色んな物や概念が存在することを知ってはいるけど、全ての仕組みがわかっているわけではないし、図面が引けるわけでもないからなぁ。
レベリオは水資源が豊かだけれど、水力発電ではないんだよね。
そこには宗教が大きく関わっている。
雷は主神が地上に諌めとして打ち下ろした天罰みたいな解釈があるために、人々に良い捉えられ方をしていないんだ。
俺が文学館で借りた『神話における魔導体系』や『魔導大全(下)』に書かれている解釈で、誰かと話して聞いたわけではないけれど。
そのかわりに神からもたらされたのが魔導だ。人々は魔導を用いて生活を豊かにしている。
でも魔導には適性があるから、誰もが等しく恩恵を享受できるものじゃない。
アルテア殿下がどういう理由で魔導に代わるものを普及?認知?流布?させようとしているのか、俺は知らない。それとも魔導との融合?そういう話題を十分に話す時間もなかったし、時間があっても萎縮してなかなかその話題は出来なかったと思う。
俺は巫子なんて呼ばれてるけれど、神様に関しての知識はあやふやだった。だけど宗教が関わると物事がややこしくなるのは多分…理解しているつもりだ。
先代は厳しいけれど寛容だった。
『描いてはいけない、口にしてはいけない』
そう言いきかせ、俺をたしなめた。
まずいセロリは山のように食べたけれど、焼きごてを当てたり鞭打つような事は先代はしなかった。
でもみんながみんな異端な考え方に関して寛容なわけじゃない。
もし、アルテア殿下が宗教的な忌避感を和らげるために巫子を集めて、巫子の口から電気や諸々の宗教に関わってくる事象の誤ちや利便性を語らせようとしているなら…。
考えすぎか。
そんなのをぽっとでの俺に任せるわけないか。
もっと頭が良くて弁が立つ人がいっぱいいるだろうしな。
宗教に関する事は注意しなさいと、先代からは固く言い含められていた。
石打ち刑や火炙りなどは世界から無くなっていないのだからと。
抗わず、大きな流れに逆らわず、風に吹かれる柳の枝のように従順に生きよと。
俺は殿下が書かれた書き付けと、置いていかれた本を幾冊かめくっては閉じ、斜め読みしては閉じた。
やっぱりすごく難しい。
アルテア殿下への手紙はまだまだ書けそうになかった。
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