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ようやく
しおりを挟む「あれ?なんか、今日の服、重々しくない?」
誰もいない部屋で俺は思わず声を出してしまった。服は確か昨日のうちにルゥカーフが準備していたような気がするんだけど。
白いシャツの襟と袖には銀の刺繍がしてあり揃いの上着も肘までびっしり刺繍がしてあった。
しかも俺が嫌いなふわっとしたレースが段になったタイとタイピン替わりのごてっとした緑の宝石のブローチも添えてある。
レースのタイってさぁ、ご飯食べる時に邪魔だから苦手なんだけど。ブローチも重いし。
それにさ、これきっと目の玉飛び出るような値段の宝石に違いなかった。
俺は宝石に指を触れて久々に石に語りかけてみた。なぁ、絶対に落ちないでくれよ。お前きっと凄く高いんだろう?大事に仕舞われてた宝石なんだろう?って。
石はクスクスって押し殺したように笑った気がした。
気のせいかなぁ…。
こういうのはアルテア殿下みたいな貴族然とした顔立ちの方がつけたら優美で似合うんだろうけど。俺がつけるとなんか野良猫に無理やりカーテンのレースの首飾りをつけたみたいだよ…。
自分で言って残念だけど本当に似合わない。
もうちょっとしゅっと縦に伸びてるタイなら我慢できるんだけどなぁ…。ブローチだけじゃだめかなぁ。
俺はとりあえずブローチだけつけてタイを折ってポケットに入れた。
今日はもしかしたら誰かに会う予定なのかな。
誰か何か言ってたかな?記憶にない。
それを聞かされたのは朝食の後、聴講のために星養宮を出る直前だった。
「今日は二つ目の聴講の後に十五分程時間を設けましたから、エヌ様がお会いになりたいと仰った二名の者とお話頂けます。場所は聖堂二階の小会議室です。場所はシェスが知っていますから迷われることも無いと思います」
ルゥカーフは淡々と告げた。
一瞬耳を素通りしそうになったのに、手配してもらえたことに嬉しさがこみ上げた。
「うわぁ、ルゥカーフありがとう!嬉しいよ!!」
万歳してルゥカーフの手を掴んでしまった。やってしまってからしまった…と思ったけれど、ルゥカーフは仕方ないなぁって顔をして俺の両肩を叩いた。
「間違っても今みたいに飛び上がったり大声を出したりせずに巫子らしい大人の落ち着きある行動を願います。良いですね?」
ルゥカーフの顔には、俺が巫子らしくない事を何かやらかすに違いない…と書いてあるように見えた。
か、考えすぎかな…?
なんか上目遣いで見てしまった。
ルゥカーフは仕方ないと言うように小さくため息をついた。
「時間が近くなりましたら私もそちらに向かいますから。何分ご自身のお立場と云うものを常に念頭に置いて殿下のご迷惑にならないように気をつけてください」
「…ひゃぃ」
「…そういう所ですよ。それから今日のように人に会う予定がある場合は気に入らなくても必ずタイを着けてください。その装いは相手に対する最低限の礼儀です」
ひゃい。
貴族っぽいとか巫子っぽい服みたいな感じでしか見ていなかったんだけど、場所と相手によって身につける物も変わるんだって。
非公式だから襟飾りとか、手袋や他の宝飾品はつけなくても良いとか…。服や宝石が礼を言うわけじゃないのにねぇ。
俺はポケットから折りたたんだレースのタイを取り出した。レースだからシワも目立たない。
礼儀って言われたら仕方ない。
似合わないし、ほんとに嫌なんだけど…。
仕方なくレースのタイを首元につけブローチをつけ直した。
「よくお似合いです」
ルゥカーフに見えない位置からシェスがぱちんと片目を瞑った。
ルゥカーフは勿論、シェスの胸元もすっきりしている。
俺がこんな恥ずかしい飾りをつけるんだから皆もつけるべきだよと言うと二人は
「それでは仕事になりません」
と同時に言ってお互いちょっと嫌そうに顔をしかめた。
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