異端の巫子

小目出鯛太郎

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道行き

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 なるべくそわそわしないように、聴講中はいつもより念入りにノートを書いた。
 もし浮ついたり、気もそぞろになってしまったら今日はもとより、これから先も誰かに会ったり何かしたりする機会が損なわれてしまうんじゃないかと思って。
 
 ただ二つ目の聴講の後半は、顔を前に向けながら頭の中は何を言えば良いのかと思い悩んだ。
『君達には世話をかけたね。ありがとう』とその程度で良いのだとルゥカーフは言った。
 巫子にはなんの過失もなかったのだからと。

 でも皇太子のお眼鏡にかなっての特待生だったのに講義を受ける機会はなくなっちゃったわけで。
 俺が悪いわけじゃないけど…。

 悪いのはやっぱり悪戯を仕掛けてきたロベリオだと思うけど。
 ロベリオは自業自得だとしてもあの時助けてくれた二人も特別な機会を逸しているというのは申し訳なかった。
 罰を受けた人達の事は考えないようにしていた。


 俺がもっと大人の対応ができていたら今と違った結果もあったんじゃないかと思うようにはなっていた。
 泥を被っても毅然として。
 無理か…。

 …せめて噴水に飛び込むのはやめて、泥で汚れたのは転んだせいですとか言いはれば良かったかな…。今更なんだけど。


 シェスに連れられて聖堂に向かう間も俺は過ぎてしまった過去を考えていた。 



 変えられない過去に熱中しすぎて白い護衛官の制服を着たシェスに手を引かれて歩く姿が他人ひとにどう思われるかなんて考えもしない。
 後日人伝ひとづてにその様子が儚い人形のようだったと聞いて火を吹くほど恥ずかしかった。
 儚いってなんだよ~!?そんな俺から程遠い言葉もないと思うよ…。

 その頃、自分が人目にどう映っているのかなんて考えた事がなかったし、見られているなんて思いもしていなかったのだから仕方ない。


 聖堂は王宮の敷地内にあって、大聖堂というのがまた別に敷地外にあるらしかった。
 大聖堂はレベリオの観光地に組み込まれるほどすごく見栄えのする場所だからいつか行きましょうね、とシェスは言った。

 文学館にあるより更に壮麗なステンドグラスがあるらしく、夕日が指す頃にその下に行くと色とりどりの光の花に包まれて自分が天上の一員となれたかと錯覚するほど綺麗だそうだ。


 そうだね、いつか行けたらいいな。見てみたいな。

 セルカにはセルカの良さがあったけれど、ざらりとした茶色い泥の色の建物が多い。あとレンガとか。岩の色もなんとなく赤茶色が多い気がする。日中の陽と熱を遮る為に壁は厚く、内部は暗かった。ステンドグラスなんかなくて木の扉か、風通しを良くするために鉄格子だけの窓もあったかな。明かり取りの窓がなければ暗い…今思えばそんな印象ばかりが強い。


 レベリオは全般的に白い。王宮も白亜の宮殿だ。星養宮も外側は白い。
 建築に使用された岩質の違いなんだろうけどね。

 窓の格子は彫刻がされているし、嵌っているガラスも大きい。だから室内は明るい。セルカと比べると天井も高くて開放感が凄い。あのきらびやかな家具がなければ俺はもっと寛げたかもしれなかった。
 アルコーブベッドとか好きになったものもあるけどね。



 十分は歩かなかったと思う。
 視線の先に白い柱の目立つ建物が見えた。
 きっとなんとか様式って建築様式に沿って建てられているんだろうな。
 

 目に眩しい白い造りの聖堂は主神アーマを祀っている。全能の神アーマ。
『魔導大全』にあった太陽の化身ソールは主神アーマの一部だって書いてあったな。

 なんか、俺…神様お願いって祈る割にはその神がアーマだって意識することがなかった。
 いったい今まで何神に祈ってたのやら…。
 どの神に宛てたかわからない祈りが届くはずもない。
 今まで願いが叶わなかったのはこのせいかもしれないな。



「ねぇ、シェス。シェスは神様にお願いする時ってどの神様に祈ってる?」


 シェスはちらりと俺を見下ろした。
「…愛欲の女神エルドレか金運の神ウラールですかね?」

 シェスは黙っていれば凛々しい顔しているのに、なんだかすごく俗物的なお願いをしてそうだ。


「ちなみに軍学校では祈るより走れ、もしくは祈る先に撃て、でしたね」


「ええぇ。何それ。なんか嫌だ」

 きっと鞭を持った筋肉鎧みたいな無慈悲そうな教官が言うのに違いない。
「まぁ、祈る暇があったら一秒でも早く相手より先に動け、ということなんでしょうね。祈るのは死ぬ時…大戦を生き残った教官世代は大体がそんな感じでした」

 戦争の体験をもとにした教訓かぁ…。戦争なんて知らないから重いなぁ。


「俺好みの可愛こちゃんに出会えますようにって祈ったかいがありましたよ」


 うわ、もしかしてゼルドさんの子供の頃だろうか。それはもうぴっかぴかの目をみはるような美少年だったに違いない。もしくはきらっきらの美少女に見えたに違いない。どちらにしろ可愛かっただろうなぁ。
 良いなぁ、幼なじみって。

 幼なじみどころか友達もいない俺は羨むことしかできない。


「巫子様、口づけたくなりますからそんな風に唇を尖らせてはいけません」

「な、何言ってんのもぅ」

 いきなり護衛官らしい口調になったかと思えば何を言うんだか。恥ずかしい。俺は慌ててあたりを見回した。
 整えられた園庭と遠くに歩く人の姿。うん、周りに人気ひとけはない。

「そういうこと外で言わないでよ」
「では中でたっぷりと」


「もう、シェス」
 俺はぱしぱしとシェスの腕をたたいた。馬鹿なことを言い合ったおかげか変な緊張は取れていた。
 緊張が解けるようにからかったのかな。

 俺のことを見ていないようで意外に気を使ってくれているんだなぁと少し嬉しく思う。でも同時に大人の対応とか無表情ポーカーフェイスができなくて悔しいというか恥ずかしい。
 きっと俺が何を思ってるかとか不安とか緊張とか全部顔に出ちゃっているんだろうなって、それがやっぱり恥ずかしかった。
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