異端の巫子

小目出鯛太郎

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聖堂で

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 本当は遅すぎるくらいなんだけどあの日のお礼を二人に言う為だけに設けられた場は滞りなく終わりそうだった。



 わざわざ足を運んでもらってすまないねって先に部屋に通されていた二人に声をかける。

 そう言いなさいって言われてたんだよ。なんだか偉いおじさんが言いそうな台詞だよなぁ。

 聖堂の二階の小部屋の一つは、外の壮麗さとは裏腹に飾り気のない机と椅子があるだけの質素な作りになっていた。座っていた二人は揃って立ち上がった。
 お礼を言うために来てもらったのに二人の顔はまるで罰を待つ子供みたいに強張っていた。もしかしてかなり前から待たせていたんじゃないかな。


 俺はちらりとルゥカーフを見た。先に聖堂に来ていたルゥカーフが何か変な事を言って二人を怖がらせたんじゃないか、なんて思ってしまう。


 部屋に控えていたルゥカーフが「事を大事にしたくないという殿下のご意向で星養宮ではなく聖堂でこのような機会を設けることになりました。こちらは巫子から…」

 …って決まりきった流れ作業のように取り仕切って二人に箱に入ったハンカチを渡す。
 ちょっとしたお礼にハンカチを渡すのは定番らしい。

 俺からするとあの日の出来事はちょっとした事ではないんだけど、そう云う納まりにしなくてはいけないのならば諾々と従うしかなかった。

 二人共神妙な顔つきでルゥカーフからそれを受け取る。

 クロックス君はヒヨコみたいな髪色のふわふわした髪を今日は七三に分けてがっちり固めていた。
 傍目に緊張してるのがまるわかりだった。
 ミラさんは濃い灰色の詰め襟のワンピースで修道女みたいな装いだった。ただ顔立ちが凛々しいので女騎士のようにも見える。


 そんなふたりの前にひらひらのレースのタイなんかつけて銀糸の刺繍の上着なんか着て立つと凄い隔たりを感じた。


「あの日のお礼を言うには遅すぎるくらいなんだけど、ありがとう。クロックスさんとミラさんには良くしてもらったのに何のお返しもできなくてごめんね。一緒に講義が受けれなくて本当に残念だよ」


「勿体ないお言葉です」
 二人は同時に言った。クロックス君はうろうろと視線を彷徨わせ、ミラさんは曇った眼差しのまま俺を見た。


「あの…巫子様は未だにお怒りでしょうか、…ロベリオのこと」

 そう言ったのはクロックス君だった。ミラさんが驚いた顔で鋭くクロックス君に肘打ちをした。
 もう日も過ぎたし、ロベリオは罰を受けたと聞いていたのに彼の事はこの場で話してはいけない話題なのだとわかった。


「君」
 シェスが咎めるような声で諌めた。
 もう話を切り上げさせようとシェスとルゥカーフが目配せするのが見えた。


「怒ってないよ、あの時は腹もたったし悲しかったけど、今は全然怒ってないよ。彼、元気でいるの?」


 俺は身を乗り出す。

「アルテア殿下から既にお聞きかもしれませんが、ロベリオは懲罰房に籠城しているんです。巫子様からお許しを得るまで出ないと言って」


「え?」
 俺はクロックス君の言葉に耳を疑った。それから自分が知っている『籠城ろうじょう』の意味が間違っていないか確かめたくなった。

「君、その話はそれまでにしなさい」
 シェスが鞭のようにしなる声で言い放つ。でも俺は聞きたかった。


「待ってよ。お、私はロベリオが懲罰房に入れられたって話は聞いていたけど、それ以外のことは聞いていないよ?聞かせてよ。ロベリオはあれからずっと懲罰房にいるの?」

 いけないいけない。ついうっかり俺って言う所だった。巫子でいる時は丁寧に私って言わないといけないんだった。

「うん、あ、はい!ロベリオは懲罰房に立て籠もっているんです。あいつの為にこんな事を言うわけじゃなくてあんな状態が続いたら巫子様への外聞も悪くなるんじゃないかと思って…その」

 クロックス君は勢いこんだものの、シェスとルゥカーフとミラさんに睨まれて縮こまった。


「他の生徒はロベリオが何をしたかを詳しくは知りません。あの場で吹聴する者もいなかったのでなんとなく殿下と巫子様の不興をかったと思われています。懲罰房は長くても三、四日で出る事が多いのです。ですからロベリオが長く居座ることで逆に殿下や巫子様が狭量だと思う生徒が出そうで…」
 
 クロックス君の代わりにミラさんが話しだしたものの、少し言葉を詰まらせた。

 俺はともかく、アルテア殿下が狭量だと思われるのは困る。殿下はロベリオの事は心底嫌いみたいだけど。あの出来事に関して殿下の非はないもんね。

 ロベリオと彼の取り巻きが悪い。

 でも、こんなに引きずって良いものじゃない。これに関しては自分の事にかまけてだらだら我欲に溺れてた俺が悪いと思う。殿下の態度に怯えてちゃんと言えなかった俺も悪い。

「懲罰房に案内してください」


「エヌ様」
「巫子様、いけません」

 制止する声を俺は無視した。後でこってり怒られそうだけれど。
「生徒が利用している学舎に行くだけだから危険もないでしょう?引き籠もっているロベリオの顔を見るだけです。アルテア殿下の恥になるような馬鹿な真似をやめてと言わなくてはいけません。私の体面の問題でもあります」


 こじつけにしてはちゃんと言えたんじゃないかな。
 ルゥカーフは渋面で、シェスは『あーあ、やっちまったこいつは』みたいな顔をしていた。
 俺がロベリオに会うと二人に迷惑がかかる可能性もあるんだけど…。それは、報告しなければ良いのでは?なんて小狡い事も考えていた。

 むしろ報告しない方が良い。アルテア殿下にしれたら気分を悪くされるのは分かりきっていた。でも殿下は今遠い他国にいる。

 ロベリオに会うには今しかない。なんだか誰かに背中を押されるみたいな気分だった。

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