異端の巫子

小目出鯛太郎

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番外篇

番外if HAPPY NEW YEAR

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「モッチィ?」

 エヌは聞き慣れない単語に首を傾げた。料理長のマウロ曰くそれは異国の米で出来た練り米粉ダンプリングらしい。

「揚げた物を食べたがなかなか美味だったぞ」

「で、殿下!?」
 アルテアの前触れのない突然の訪れにエヌとマウロは飛び上がった。
「そんなに驚かないでくれ。ifな新年なのだから」

「ですよねー。無礼講ってやつですよね~」
 調子に乗ったシェスがアルテアの背後にまわり白い毛皮外套コートを受け取ろうとする。

「お前が言うな」
 幼馴染の気安さか、ゼルドかシェスの頭をぽかりと殴って替わりに外套を受け取る。

「ははは、今日くらいは無礼講で構わないさ。ゼルドは固いな」

「ゼルドが固いのは拳でだけじゃないんですよ?」
 シェスは意味ありげな流し目でエヌにウィンクした。

「星養宮で夕飯に出すチキン料理の替わりにシェスを絞めてもかまいませんか?殿下」
 
 ヘベスがじっとりとした目でシェスを睨めつける。
「やだなぁ、自分は骨ばかりで美味くありませんよ」

 エヌは何故かシェスの上に乗ったヘベスを想像してしまった。がっちりとしたシェスに対して少し細身のヘベス。のほほん✕生真面目。なかなか絵になってしまう。エヌは一人赤面した。

「あ、今なんだか寒気が」
 ヘベスとシェスが震えた。

練り米粉ダンプリングは異国では人の命を奪うという話も聞いたのだ。危険だから幼子や老人は一口しか貰えなかったり、食べなせないこともあるそうだよ。しかし私達は大人だから、食べ尽くそうではないか」

 煮る、揚げる、焼く、蒸す全ての調理法で作られた料理が並ぶ。
 ブルッティが緊張で強張った顔のまま銀のワゴンを押して来る。
「ブルッティもここで食べなよ」

 エヌが声をかけたのは全くの逆効果だったようでブルッティは雷に撃たれた悪魔のような形相で厨房に逃げ戻ってしまった。どう見ても極度の緊張と畏怖で粉々になりそうだった。

「ほら、ゼルド。お前が怖い顔をしているから給仕が怯えて逃げてしまったではないか。お前は少し甘くやわらかくなるべきだよ。そうだな、罰としてこれを全部食べなさい」

 アルテアは赤茶色いスープのようなものを指さした。
「殿下、それはなんですか?」
 
 エヌにはそれはよくある豆のスープに見えた。

「これは餅豆甘汁ゼンザイという食べ物だ。ゼルドはこれを食べ終わるまで席を立ってはいけないよ」

 ゼルドは表情をかえず手にしたスプーンでそれを食した。
「…ぐっ」
「殿下、恐れながらそれはかなり甘く、皆様の分を一皿にまとめてお作りしたものなのですが…」

 恐る恐るマウロが進上する。

「そうか、それだけ食せばゼルドも甘くなろう」

 なんてこったーとエヌは声には出さなかったものの申し訳無さでいっぱいになった。自分の発言のせいで大好きなゼルドが苦境に立たされている。ゼルドは珍しくのろのろとスプーンを口に運ぶ。甘い物が好きそうには見えなかった。


「くそー!おまえらまたおれに秘密にして集まるなんて!しかもごちそう喰うなんて!おればっかのけものにしてバーカバーカアルテアのバーカ!!こうしてやる!!」

 突如現れた小柄な影が甲高く絶叫し、凄い勢いでテーブルクロスを掴んで引いた。
 本来ならば皿という皿、料理という料理は全て転げ落ちて台無しになる所だったが今回は都合の良すぎるif世界。

 テーブルクロスだけが中空に翻った。料理は全て無事である。
 乱入者のテーブルクロス引きにみんなは拍手喝采した。

「見事だったよ、ハティ。すてきな余興だった。もう一度やるかい?」

「違う!おれはこんなことしたかったんじゃない、バカー」

 ハティと呼ばれた少年は泣きながら駆け去ってしまった。
「あぁ行ってしまった。だってモッチィは子供が食べると喉に詰まらせて命の危機になるらしいからね。あの子は落ち着きがないしいけないと思って。仕方ない。サクサクしたこれでも食べさせて機嫌でも取ろうかな。うむ、逃げ回るあれを一人で捕まえるのは面倒だな。ヘベスその皿を持ってついてきてくれ。ではみなゆっくり味わってくれ」

 アルテアとヘベスは揚げ餅の塩味とカレー味の皿を持って退出していった。

 机の上にはまだ手つかずの料理が乗っている。

「うーん、食べ切れる量ではないし、熱いうちに兵舎の奴らに差し入れしてやろうかな」

「それは私が適任だな」
 シェスの発言にゼルドが腰を浮かせた。

「お前は殿下から命じられた任務があるだろう?巫子様、ゼルドがちゃんと任務を果たすよう見守っていてくださいね」

 いつの間にかマウロの姿はなく食堂にはエヌとゼルドだけが残された。
「俺、それ、半分食べます」

「いや、殿下の命令だから」
「あの、殿下は一人で全部食べなさいとは仰らなかったので手伝っても良いと思うんです」

 エヌはゼルド相手に珍しく吃りもつっかえもせずに言い返して、隣に座って同じ器の餅豆甘汁ゼンザイを食べ始めた。

「すまない。甘いものは苦手で、歯に突き刺さるようだ…」

 エヌが食べても甘いと感じるので、甘味が苦手だとしたらかなり辛いだろう。

「俺、甘いものは大好物なので平気です」

 食べ始めてから、一つの器の物を並んで二人で食べると言うことは夫婦のように親密な関係でもなければしないということに思い至った。
 エヌの頬が染まり、胸の鼓動が早くなる。

 食事中であるし、気の利いたことも言えずエヌは無言で豆と餅を食べて咀嚼し飲み込んだ。
「残りの汁も飲んじゃいますね」

 まだ熱かったが、エヌは大きな器に残った汁を飲み干した。

 器をテーブルの上に置いたとたん、ゼルドの指がエヌの唇の端をぬぐった。
「すまない、ほとんど食べさせてしまって」

 指に残るその茶色い汁の残りを彼が拭わずに舐めるのを見て、エヌは間接キスだぁとのぼせそうになった。
「うん?まだ唇の端についているな」

 秀麗な顔が目前まで近づき大きな手がエヌの顎を捉えて、赤い舌が舐めとる。
 濡れた感触にエヌは…。

 夢の中でもifの世界でも、好きな人の前では頭が真っ白になってどうして良いかわからなくなってしまうエヌだった。
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