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奴隷なんていらない
しおりを挟むその時ふと頭に思い浮かんだのはセルカのクレオさんの存在だった。
本来ならセルカから護衛と従者を連れてくる事になっていたんだ。俺が孤児だから俺の世話係に立候補してくれる酔狂な人はいなかった。でもレベリオと関係を結びたかったファルカ様が護衛に名乗り出て彼の侍従だったクレオさんが従者として短い期間だけどレベリオにいてくれた。
あんなことになって二人はセルカに帰って行った。そして今は護衛としてシェスがいる。
俺のための側仕えに選ばれた何でも出来てしまうヘベスは、週のほとんどを黎明宮のハティの所で過ごしている。星養宮から抜けたヘベスの代役がルゥカーフだ。
仲良くやれている…とは言えないけどルゥカーフは仕事はちゃんとしてくれているし文句なんてない。
従者、側仕え、侍従…言い方は色々あるけど、それを雇う事ができるのは知っている。
俺はお金が無いから誰かを雇うとか無理だと思っていた。
でも、お金、今ならあるんだ。ルゥカーフが教えてくれた。レベリオ国から支給された俺が自由に使えるお金があるのだ。
たぶん、これでロベリオを雇える。彼に身の回りの世話をしてもらおうなんて思わない。
牢に貼ってあるたくさんの紙を見て思ったんだ。その…変な人物画は抜きにして数式や、何か思いついたように描かれた部品の細密画。俺が理解していない魔導の方陣。多分、彼、普通じゃない。前に俺が読んだ『飛空艇の開発者インフェリス・ザラモン』のザラモンみたいにぶっ飛んだ発想力を持っているはずだ。
俺みたいなつぎはぎの誰かの記憶ではなくて、独自性の高い奔放な想像力を。
だってもともと「泥玉事件」が起きなければアルテア殿下が選んだ一員としてロベリオと一緒に勉強していたかもしれないんだもん。
嫌な思いはしたけど、今は凄く反省してるみたいだし。それに選抜されるほど頭が良いのにお金や身分が無いから追放されて、勉強出来ないっていうのは辛いだろう。
取って付けた言い訳がましいか…。これって保身なのかな……ロベリオを雇おうなんて突拍子もない事を思った一番の理由は俺が何にも描けていないからだ。
聴講を聞いて、質問を書いたり本を読んだりはしているけど、レベリオに来たばかりのように自由に絵を描いたり出来なくなっていた。
手が勝手に動くように線を引いて色を塗ったり出来なくなっていた。真っ白な紙を前にぼーっとしちゃうんだ。そして形にならない夢想に想いを馳せるんじゃなくて、俺はしがみつけるシェスの肉体に縋って偽物の声に溺れてしまう。
手を動かすんじゃなくて、淫らに腰を動かしてる。抱かれている間は飛空艇ことなんて考えやしない。
もっと触って、もっとキスして、名前を呼んで気持ち良くして…そんな風に貧欲になってファルカ様に巫子としてレベリオで頑張ってセルカを頼むと言われたことも、アルテア殿下との約束も何もかも忘れて快楽に溺れてしまう。
今までの貧しさや寂しさが一気に補われて俺は貪る事に夢中になっていた。
ロベリオとそういう関係なることはないだろう。俺の好みじゃないし。彼はその…俺のことが好き…みたいだけど。
こんな牢屋に居座るくらいなんだもん。俺とどうこうよりもきっと勉強できる環境を選ぶはずだ。
「ロベリオが嫌じゃなければ従者として雇うよ」
「おい、何言ってるんだエヌ」
シェスが言葉を漏らす。普段以上に口調が砕けたのはやっぱり驚いたからだろうな。
「巫子様、それは許可されないと思いますよ」
呆れきった風にルゥカーフも言った。
「ロベリオを雇うって言ったら多分却下されちゃうからセルカからリーロ・グナデ・セルカフを雇うとかでっちあげるよ」
グナデは孤児院の名称だし、セルカフは国で最も多い姓だ。
牢屋の中からロベリオは訳が分からないというようにぽかんと俺を見ている。
「アルテア殿下がここにいない今、誰が巫子の僕の要求を却下出来ると思う?それに結局はアルテア殿下の望まれる『発展に寄与する何か』を一人じゃなくて二人で考えて送る事になるんだからさ。良いものが出来ればきっと殿下もお怒りにはならないよ。一緒に勉強するはずだったんだし。優秀な頭脳を流出させるのは国家的な損失だと思うなぁ」
うん。俺にしては良く喋れたんじゃない?
「私は面倒事は嫌ですよ」
ルゥカーフは首を横に振った。
「ルゥカーフはロベリオを知らなかった。会ったこともない。巫子はセルカを恋しがって同郷の者と話したがっていた…そんな時にセルカ出身の極めて優秀な若者の履歴書を見たって筋書きにすればバレないよ」
つらつらと思いついたことを語る。
「巫子様はいつからそんな悪巧みが好きになったんですか?」
ルゥカーフは腰に手を当てて再度首を横に振った。
「ルゥカーフが嫌だったらヘベスに頼むもん。それに俺が勉強しなくて結果を何にも出さなかったら結局ルゥカーフも一緒に怒られちゃうと思うんだけどね」
あ、俺って言っちゃった。
「それでも私は関わりたくありません」
「エヌ、俺も困るんだが」
シェスは困ると言いながらにやにやしている。
「巫子様、できることなら何でもします。絶対に、迷惑はかけません」
「もう迷惑かかってるんだよ坊や」
いつになくシェスの発言がちくちくしている。
「ねぇ、お願いだよ。良いものを描いて贈れればアルテア殿下とロベリオが仲直り出来るきっかけになるはずだから」
口からでまかせが真実になれば良いんだけど。
きっとシェスは折れてくれる。そしてシェスがそうなればルゥカーフがどんなに拒絶しても俺の計画に巻き込まれるのは確定だった。
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