鬼の名語り

小目出鯛太郎

文字の大きさ
37 / 46

樟脳

しおりを挟む
 朽木くちきがあまりにも虫を怖がるので、鋼は少しばかり後悔した。

 彼自身は欠片も虫に脅かされぬ存在であるので、木のあやかしの虫に対する恐怖というものを小さく考えすぎていた。ようやく少し笑うようになったのに、怯えた亀の子のように手足を縮めてしまい、目をぎゅっと閉じている。
 鋼が離れようとすると鋼の着物の裾を掴んでいる。掴んでいる指が可哀そうなほどに震えている。

「朽木、俺の勘違いだった、虫などいない、気のせいだった。ほらもう大丈夫大丈夫」
 とんとんと指の腹で背をたたき、髪を撫でても朽木は一言もしゃべらず、目を合わせようとしても瞼を閉じてしまう。


 鋼は朽木を抱っこしたまま立ち上がり、部屋を移動した。
 その途中で胸いっぱいに朽木のほんのりと甘い香りを堪能した。

 朽木の身体の奥に潜んだ、甘い蜜。鋼がまだ味わうことのできない蕩ける蜜の香り。




 大きな箪笥ばかり置いた部屋に向かうとすんと鼻を鳴らし、一つの箪笥の棚を引き出した。
 
 淡い色の花唐柄や薄水色の椿柄など鋼が着るにはあまり好きではない着物の入った引き出しの中に白い紙に包んだものがちょんと乗っている。


 楠から作った虫よけの樟脳しょうのうだった。

 匂いが独特のため、鋼はあまり好きではないのだが仕方なかった。

「ほら、朽木、特別なお薬だぞ。この樟脳の匂いが嫌いで虫はもう寄ってこないぞ」
 
 ん、と小さな声がして朽木の手が白い紙をくしゃっと握った。

 朽木の淡い甘い香りが、樟脳の強い匂いにかき消されてしまった。

「さ、縁側で陽に当たろうか」
 香りが消えてしまったのを残念に思いながら促すと、朽木はこくんと頷いた。


 縁側でも朽木は鋼にぴったりとくっついて離れなかった。
 
 太腿の上に抱き寄せられ、鋼の広い胸に顔を寄せて、陽に背中を照らされて身じろぎもせずじっとしている。
 鋼の硬い部分が朽木の柔らかい部分に触れても、全く気が付かぬように動かない。

 
 焦りすぎたと鋼は悔悟かいごした。

 朽木のここに、みつむしがいると囁いて、きっとむしを取ってと言ってくるはずの朽木の小さな蜜の壺に指をれて、優しく掻き混ぜるつもりでいた。耳殻と耳朶をむより丹念に時間をかけて、この身体に快楽を覚えさせる。

 昼の陽の高いうちから二人裸で横になって、朽木の身体に陽をあてて気持ち良くして、ぴちゃぴちゃと音を立てながら指を抜き差し動かして目合ひまぐわいの真似事をするはずだった。指では届かぬ奥へ虫がかくれてしまったと、指より長いもので奥から掻き出すつもりでいた。
 朽木の心地良い場所をたくさん見つけてその全てに悦楽の種を植え付けて、鋼の淫らな愛を注いで一晩どころか、それこそ三日でも四日でも、離れずに繋がって朽木の最奥に鋼の雄の形を覚え込ませたかった。
 
 朽木の密の香りが硬い鋼を狂わせた。

 俺はこんないやらしい事ばかりを考える男ではなかったはずだと思っても、鋼の歪な雄は硬く盛り上がり朽木の柔らかい場所に挿入はいりたがっていた。
 邪魔な着物に隔てられて、しかし鋼の剛直は膨らみ勃起した。
 朽木の重みと儚い熱に腰をすりつける。下から押し上げるように、小刻みに揺らすように。

「…んっ」
 朽木が夢うつつのような、みだりがましい鋼の動きに感じたような声を漏らした。
 処女膜を突き抜けるようにこの着物を割いて中に埋める事ができたら良いのにと鋼は朽木に雄をすりつける。

 朽木の身体が鋼の腕の中でぴくんと震えた。戸惑ったように目を開いた朽木は気まずそうに身体をずらそうとした。

 鋼が朽木の着物の裾を掴んでそろりと持ち上げる。
 二人の身体は繋がってはいないが、重なっていた場所にどちらの漏らしたものかわからぬ染みが広がっていた。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

お義父さん、好き。

うみ
恋愛
お義父さんの子を孕みたい……。義理の父を好きになって、愛してしまった。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...