鬼の名語り

小目出鯛太郎

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鋼の御探り

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 朽木くちきはあれからもう一度棗婆なつめばばの所へ連れて行って貰った。御探りについてもう一回尋ねるためである。

 棗婆はわからなくなったら全部お任せしますと言って鋼に引っ付いていれば良いと言った。しかし、何も起きなかった。目覚めるといつものように布団の中で寝ていたのだ。このようであったと朽木は告げる。寝てしまって何も覚えていないのかも、と。

「…あとで鋼を叱っておいてあげるから、今日もやってみてごらん。それから鋼が横になったら上から順に鋼の身体にも触ってどこも痛めて無いか確かめてみて、鋼があっと声をあげる場所をよぉく撫でてごらん」
 
 棗婆は潰されて平らになったわけでもないがしんなりとしたお煎餅のように元気がなかった。

 鋼にまた屋敷に戻されると、鋼も棗婆と同じようなしんなりした顔ですぐ戻るからと出ていった。しかし直ぐと言いながらなかなか戻らず帰ってきたのは日暮れ頃だった。

 朽木は仕上げた縫い物を褒めて貰い、日が暮れて暗くなるといつもしているように布団を敷くのを手伝った。
 鋼はいつもにまして口数が少なく、気怠そうで少し眠そうな顔をしている。

「上から順に鋼の身体をさわって、どこも痛くないか確かめてみなさいって棗婆が言ったの。でも今日は、しない方が良い?」

 鋼は眉を寄せて、怒っている顔ではなく困ったような顔をした。そして今日しようか、と小さな声で言った。
 
 部屋の隅の小さな行灯あんどんだけを灯して鋼は横になり、朽木は側について、まず鋼の髪に触れた。硬いがつやつやとして指が引っかかる事がない。するりと指の間を通る。広い額に触れ、濃い眉をなぞる。縦に長く太い鼻筋は途中歪んだ感触がする。
 上唇に触れると鋼は震えて声なく笑い、顔を背けた。

「いや?」
「嫌ではなく、くすぐったい」
 
 朽木は人差し指でそろそろと唇を撫でた。ふふと笑われる。ここを忘れていたと鋼の耳に触れる。耳は小さいくせに複雑な形をしている。
 朽木の小さい頭は引き寄せられた。
「いいか?」
 と鋼は囁き朽木が応えるより先に耳に
唇をつけた。
 鋼より先に、朽木があっと声を上げた。
 鋼の舌先がゆっくりと動くと、耳ではない場所がぞわぞわとして、勝手に身体が動いてしまった。

「…こんな風にするのは朽木は嫌か?」
 朽木は、鋼に触るのも触られのも嫌ではなかった。怖い気持ちも今はない。
 ただ心のうちにあるのは、岩館の事だった。岩館の耳を舐めた事はあっただろうか?
 思い出せない。
 してはいけない事のような気がする。

 朽木の直ぐ側で鋼は弱ったような辛そうな顔をしていた。いつも鋼は朽木のためになんでもしてくれのに、朽木は今まで何かを返した覚えがない。うろうろとしてかえって邪魔になり鋼の手数や手間を増やしたりした。鋼は怒らない。鋼は優しい。鋼は苦しそうな顔をしている…。朽木は、鋼の耳に口を寄せて、鋼がしたように、舌先をゆっくりと動かした。

「…あぁ…」
 鋼の口からはぁ…と息が漏れた。朽木がそろそろと舌先を動かすたびにぁあと声が聞こえる。よぉく撫でるの回数がわからぬまま、朽木は、ぴちゃぴちゃと音がするまで、鋼の耳を探った。
「…ぁあ、朽木…」今まで聞いたことの無い様な低く掠れた響きで、喉の奥でもつれたような、熱いような、声だった。喉の奥に触る事はできないないので、首筋にそってゆっくりゆっくり唇と舌を滑らせては戻る。

 岩館に似たような事をされたけれど、返した事はなかった。それを鋼の身体に試すようにしてみる。
 朽木がどうして良いかわからずに唇や手が止まると優しく撫でられて、鋼の耳と首を撫でたり舐めたりしていたはずが、互いの胸の先を舐めたり弾いたり、最後はもう、朽木の身体は背を床につけて、足の間に鋼の頭があってぴちゃぴちゃと御探りをされていた。 
 ひたひた、びしょびしょ、と棗婆は言ったけれど、似た音はぴちゃぴちゃだった。鋼の舌に探られて朽木はあぁと喘いだ。

 朽木が鋼にするはずだったのに、腰は砕けたように力が入らず、繰り返しもたらされる快感に朽木は溺れてしまった。
 たくさんの花木かぼくの密を絡めとって狂わせてきた鋼の舌は朽木の小さな花芽を丹念に愛撫し疼かせた。鋼の舌と唇が離れるとそこがひくひくと震えるのがわかる。
「…はがね、はがね…っ」

 今日は、鋼の身体を順に撫でるはずだったのに…それも考えられなくなるほど朽木は快感に追われ上り詰めて、鋼に優しく足を抱えられて何もわからなくなってしまった。

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