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めざめて
しおりを挟む朽木はほわりと目覚めた。目を開けると鋼の切れ長の黒い瞳が瞬きもせずに朽木を見つめていた。
「まだもう少し横になっているといい」
厚みのある掌が髪を撫でて頬を包む。
今更ながら緊張と羞恥で朽木の頬は染まり耳朶や首筋まで火照ってくるのを覚えた。
夜中ひとつにつながって優しく揺らされて、どんなに声をあげたか忘れようにも忘れられず朽木は両手で顔を覆った。鋼から気をもらうという行為が朽木の中では甘い疼きと蕩けるような快感に溺れた夜として刻まれてしまった。
長い茅色の髪は鋼の腕を枕にしてその外に広がり、生まれたままのほっそりとした裸身はもうつながってはいないのに、中も外も包まれるように満たされていた。
羞恥の後に襲って来た感情は悲しみだった。
鋼から溢れるほど気を貰ったから分かる…。気を貰うと良く見えるし、聞こえるし、昨夜の事を良く覚えている。今なら岩館が言っていた言葉が理解できた。
『…朽木、俺はお前に好いてもらう資格のないひどいやつだ。お前が俺を慕わしく思うのは刷り込みのようなものだ。俺がそう仕向けたからだ。俺はもう何度もお前を奪っているんだぞ』
どうしていつもぼんやりとして、うまく動けないのかと思っていたが…満たされるのではなく奪われる抱き方だった。朽木の傷を癒すためにそのやり方が適しているか必要だったのかもしれないけれど。その最も癒さねばならない深い傷に鋼の溶けた熱い雫が降り注ぎ、隙間無く埋められて身体中が滞りなく巡るような感覚を朽木は取り戻す。
忘れていた幾つかの断片を朽木は思い出してしまった。
血のように赤い記憶だ。
恐ろしい猪の記憶。それこそまだ木のあやかしとして生まれてすぐの頃に、朽木の身体のやわらかい大事な部分は齧り取られてしまった。真珠色の小さな雄芯。
朽木の生まれたばかりの頃の身体は女の子ではなかった。
岩館は傷を治せるのにどうして?
千切れた足も、燃えた手首も治してくれたのに、そこは出来なかったのだろうか?
「…どうしよう、鋼」
朽木は鼻を啜った。涙も滲んだ。
岩館を裏切ってしまったような気もするし、逆に岩館に裏切られ騙されていたような気もする。
助けてくれたのに恨言を言うのはおかしいと重々わかってはいるが、何故と思ってしまう。
どうして何度言われても私と上手く言えなかった。違和感があって。
自然に口をついて出るのは俺、だった。
やわらかい小さな胸の膨らみは…これも岩館に作られたのだろうか?それともこれが普通なのだろうか?
「鋼、この身体に種が宿っているはずがないよ…。俺、女のあやかしじゃないんだ」
朽木の震える声の告白に鋼は全く動じることもなく、ただ優しく髪を撫で続ける。
「木のあやかしの多くは雌雄の性を併せ持つことが多いのだ。表層に現れる姿の性が男でも女でも…俺はお前が好きだ、朽木」
好きだ、愛おしいと言われて喜んでいる自分がいることに朽木は気付き恐ろしくなった。
だってずっと岩館が好きだったのに、自分は岩館の物だと思っていたのに…。
朽木の心は乱れたが、鋼のその腕から逃げ出したいと思えないことがまた怖かった。
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