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「世の中には2種類の男しかいない。俺か俺に抱かれる男だ」
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「世の中には2種類の男しかいない。俺か俺に抱かれる男だ」
今どき日本にいるのか? という地位もありあまる金も、もちろん超絶美形の顔も長い足も広い肩幅も持っている、スーパー攻めはため息交じりにいった。
グレージュ縦縞の三つ揃えのスーツも似合っている。
「さようにございますか」
とかたわらから冷ややかな声。
「昼からのM社のCEOとの会食にございますが」
なにごともないかのように続ける、彼にスーパー攻めは「田中」と呼びかける。
「なんでございましょう」
「この俺を見てなにも感じないか?」
「さて感じるところはなにもありませんが、私の感じる杞憂としては、誰かさんが気紛れを起こして、このあとの会食を気分がのらないとすっぽかすと、あとの処理が大変だなということぐらいです」
「訂正だ。世の中には3種類の男しかいない。俺と俺に抱かれる男と、俺にかけらも興味のない秘書の田中だ」
「それで会食はいかがいたしますか?」
「気分がのらない。さいど申し込まれても十年先にしてくれ」
「かしこまりました。10年後にはCEOの顔は変わっているでしょうが」
M社とは世界を席巻するあの基本OSの会社のM社なのだが、それが許されるのがこのスーパー攻めなのだ。さすがスーパー攻め。
「では本日のランチは?」
「ドーナッツがいい。お前も付き合え」
ブラックのコーヒーとドーナッツが、このスーパー攻めの楽しみであったのだ。それも秘書の田中と……というのは、田中の知らない事情。
あらゆる男を、たとえそれがノンケだって眼差し一つで落とし、ひと夜の恋を楽しんだあとは、後腐れなく別れて恨みもかわない。それがスーパー攻めであったが、なにごとも例外がある。
「このワシを忘れたのか! 死ねえ!」
華やかなりしパーティ。目の前の老紳士と和やかに談笑していたスーパー攻めだったが、紳士はいきなり激昂して、隠し持っていたナイフでいきなり攻めの顔面を切りつけた。
……というか、じーさんまで守備範囲とはさすがすべての男を抱いてきたスーパー攻めというべきか。
「田中!」
スーパー攻めのこれまで誰も聞いたことのないような、悲痛な声が響く。とっさにあいだにはいった田中の顔面が半分血に染まっていたのだ。
命に別状はないが田中の頬にはナイフで切られた傷が残ることになった。
田中の頬の包帯が取れたとき、そこに残る赤い傷に顔をしかめるスーパー攻め。田中は「仕事に支障はありません」と冷静な声でいう。
その田中の前にスーパー攻めは片膝をついて跪き、そして、その左手の薬指に銀の指輪をはめる。
「田中、責任はとる。一生私のそばにいてくれないか?」
「嫌です」
「は?」
「私は直ちにあなたの秘書を辞めさせてもらいます。金輪際もうお会いもしません」
田中は激怒していた。わけもわからず「待ってくれ」とスーパー攻めはすがりつく。
「別に私はあなたに一生の面倒を見てもらいたいとか、責任とってもらいたいとか思ってかばったわけではありません」
「そんなのわかっている!」
「わかっていて、そんな銀の指輪一つで私を一生しばりつけようと?」
冷ややかに田中に見下され鼻で笑われて、スーパー攻めは「違う、違う」と首をふる。
「ああ、そうだ。その傷を理由にお前と一生共にいられると思ったのは俺のほうだ。お前とずっと一緒にいたいのも俺。俺に振り向かないお前を俺はずっとずっと愛していた。
田中、田中、そばにいてくれ。別にお前に触れられなくていい。お前が嫌というのは他のものにももう手を触れない」
スーパー攻めは片膝でなく、両膝をついて田中の足にすがりつき涙どころか鼻水も少し垂れていた。そんな姿は、いつもの堂々たるスーパー攻めを知る者からしたら信じられないだろう。
「顔をあげてください」
「…………」
スーパー攻めはのろのろ顔をあげる。
ぱしゃり。
田中はスマホをかまえていた。きょとりとするスーパー攻めに。
「あなたのみっともない泣き顔なんて貴重なんで、記念に一枚とっておこうと思いまして」
「そのお前のどこまでも冷静なところを私は好ましいと思っているよ」
「それだけですか?」
「お前のすべてを愛している」
「やっといいましたね。私もあなたの全部どうしようもないところをずっと愛していましたよ。我ながら趣味が悪い」
「ひどいな……」
「世の中には3種類の男しかいない」
スーパー攻めは愛しい恋人の頬にうっすら残った赤い痕を舐めながらつぶやく。
「おや種類が増えましたね」
「俺と愛するお前とあとはどうでもいい男だ」
【END】
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