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【12】ちんまりしてても意外とやります! 

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 クマの獣人はヴィッゴといい、部隊長を務めているという。狼の若造はロッフェといい、ネコ娘の名はブリッタといった。
 この国は女性も兵士になれるのか? とダンダレイスに訊けば「獣人は男も女も生まれながらの戦士だからな」とロッフェが答える。

「人間より身体能力も高いし、魔法に関しても人間みたいに複数の属性を持てないが、種族特有の属性特化型な分、下手な中級魔法使いより強力なものが出せる」

 因みにクマのヴィッゴが土で、ロッフェは水というより氷、ブリッタは風だという。
 そして、ツイロは火だと聞いて、アルファードはダンダレイスの肩の上、マジマジと黒豹の獣人の顔を見る。

「ならば、俺の火の弾を顔で受けても平気ではないのか?」
「平気なわけあるか!」 火の魔法が使えるのと、火に耐性があるかは別だ」

 「軟弱な」とアルファードがふんと鼻を鳴らせば、周りからクスクスと失笑が怒る。笑うロッフェとブリッタを見て、「てめぇら、あとで追加教練な!」 」とツイロの言葉に「そんなぁ!」 」「副団長の横暴!」 」と二人は声をあげる。
 「ここが魔法教練場だ」とみんなの会話は聞いてはいるのだろうが、あくまでマイペースなダンダレイスは、肩に乗るアルファードにいう。
 魔法教練場というだけあって、そこは確かに強力な魔障壁に囲まれた空間だった。これなら、上級真穂法をぶっ放しても外に影響はないだろう。

「ここで魔法を使って欲しい」
「あのとき出せなかった水と土か?」

 本当にすべての属性が使えるのか、確認か? と思ったが。

「いや、火から全部使ってくれ。室内だから、かなり加減しただろう?」
「わかった」

 つまり最大出力を見たい訳か? それも全部と。
 ダンダレイスは自分の出せる最大級のファイアーボールを宙へと放つ。岩石ほどの大きさのそれは、しかし、空中でピキンと青く凍りつく。
 水の魔法で氷結した玉はばらばらに砕け散って、下へと落ちる。
 それと同時に、広い演習場の中央に大蛇のような大きなつむじ風が起こる。しかし、その風も、そのあとすぐに立ち上がった土塊の大きな壁にぶつかって砕けて消えた。
 「これでどうだ?」とアルファードがダンダレイスの肩の上で告げる。

「火には水、風には土で相殺させたか。見事だな」
「単に派手に魔法を放つだけではつまらんだろう?」
「確かに」

 こちょこちょと太い指で眉間を撫でられて、アルファードを目を細める。

「すごいですな。陣無し無詠唱で、中級上位威力の魔法を放つとは」

 「それも四属性すべて」とクマの獣人であるヴィッゴが、その四角い顎に手を当てて感心している。狼の尻尾をぶんぶんしながら、ロッフェが「このネズミのおっさんすげぇなあ」と。さらにブリッタがうんうんとうなずき、ネコ科特有の縦長の瞳孔をすうっと細めて。

「この小さなネズミちゃんの身体に、これほどの魔力秘めているなんて、もしかして食べたらとりこめる?」

 とこれまた身の危険を感じるようなことを言う。アルファードはふるりと小さな身体を震わせて。

「だから、我はネズミでも食料でもない!」 」

 と立て続けに火の弾に氷のつぶてにつむじ風、小石を飛ばした。巻き添いを食ってロッフェとブリッタの他に、ツイロとヴィッゴも逃げ回る。

「だから、おっさん一人称ぶれぶれだろうが!」 」

 とまたツイロが叫んだ。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



「そういえば、ダンダレイスの属性は?」

 しばらくして魔法を消して、肩でゼイゼイ言っているツイロ達はほうっておいて、アルファードはダンダレイスに訊ねる。
 獣人達の戦士は生まれながらに中級以上の属性魔法を一つ使えるが、人間は訓練次第ですべての属性を使える。もちろん、生まれもっての魔力量や資質もあるが。

「私もすべてだ。やってみよう」

 そう言った彼の足下に赤と青の光を放つ小さな陣が二つ重なり合って展開する。そして、響く短い呪文。
 その大きな手から巨大な炎が離れたると少し遅れて、その炎の上に岩石ほどの氷塊が落ちて砕け散る。
 ダンダレイスの足下から、赤と青の陣が消えて、次は緑と黄色の陣が出る。また短い詠唱で放たれたいくつものつむじ風が、続く詠唱で地面から突き出た土塊の杭によって風は断ち切られ、土塊もまた細かく砕ける。

「見事だな」
「いや、あなたと違って陣と詠唱の併用だ」
「それでも時間は短かった」
「だが敵はそのあいだも攻撃してくるからな」
「確かに」

 そんな会話を交わしていればツイロが「うちの団長は敵を叩っ切りながら、陣を展開して詠唱するからな」という。

「戦いながらなら問題はないな」

 魔法の弱点はその効果は強力でも、陣の展開と詠唱の硬直時間だ。ダンダレイスが「お前達も戦いながら魔法を放つだろう?」と返す。
 「そりゃ獣人には生まれ持った属性のおかげで短い詠唱だけで陣の展開はいりませんからねぇ」とはロッフェ。

「たしかに強力な魔法になればなるほど、陣の展開に詠唱時間は問題になるな」

 アルファードはダンダレイスの肩の上、ちんまりしたお手々をもっふりした顎に当ててしばし考える。
 今の自分に使えるのは中級魔法上位。それでも魔法剣として使えば、大型の敵に対してかなり強力なものだろうが、それを使う“身体”は今はない。
 だが、無詠唱であることを“有利”に生かせたならば、剣無しでもなんとかなるのではないか? 





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