11 / 12
【11】
しおりを挟む「その枝には大公殿下を惑わす呪いがかけられております。そして、あなた様が腕に抱かれている者は悪魔と契約した背教者。どうか目を覚まされて……」
「これ以上、我が妻を愚弄するな!」
ソルフォードの一喝にエクターは肩をすくませて押し黙った。そして、自分を冷ややかな目で見る男を信じられないという顔で見る。
たしかにソルフォードは誰にでも“平等”に笑顔を向ける。“余裕”があれば親切もする。それを自分への特別の好意だと、勝手に誤解したのはエクターだ。
華の神子たる自分が、物語の主役が、雄華達全員から愛されるのが当たり前だと。
「我が最愛に害がないならと放置していたがな。
お前の“演技”は透けて鼻についていたぞ。あのときの廊下での返事をはっきりと言おう。
我が心は幼き日の誓いよりアルクガードのもの。この枝は先々代の華の神子より賜った、二人の誓い。なにが呪いなものか」
そこで言葉をきって、エクターを軽蔑のエメラルドの瞳で見つめたソルフォードが告げた。
「お前のような“偽物”は死んでもゴメンだ」
その言葉にエクターは大きく目を見開いた。いつものように「ひどい……」と空々しい涙を流すことなく、その表情はまさしく空虚。なにかがパリンと壊れたような音をアルクガードは聞いたような気がした。
「な、なんでよ!」
それは絶叫だった。「なんでよ! どうしてよ1どうして! どうして! 僕は主人公なんだ。なんだよ!」とまるで呪いの呪文のごとく、ぶつぶつとエクターは繰り返す。その異様な様子に、周りを取り囲んだ大公家の使用人達も、一歩後ずさったほどだ。
「あなたなんて!」
金色の巻き毛をかきむしるように頭をかかえていた姿から一転して、顔をあげてエクターはアルクガードを指さした。
「誰とも結ばれない悪役の破滅処刑ENDがお決まりだったのに、なんで“あたし”の“大本命”の大公殿下と結ばれているのよ! 超絶美形の上に、超お金持ちで、大公殿下なんて超セレブの、あたしのソル様と結ばれるのは、このあたしよ!」
エクターの口から飛び出した理解不能の言葉に、周りの者達はポカンとしている。アルクガードを守るように抱きしめるソルフォードの眉間にも怪訝なしわが寄っている。
アルクガードだけは理解していた。“彼女”そう“彼女”だ。おそらくエクターの“中身”は自分と同じくゲーム世界に転生してきたもの。
そしてこのゲームを熟知しているのを利用して、攻略対象達の好感度をあげ、愛される平民の神子を演じてきた。
「あたしは誰からの愛されるハーレムエンドを迎えるはずなのに、大本命の光のプリンツと結ばれるのは決定ルートだったのに、なんで攻略対象でもない悪役令息のあなたが……。
あなたなんて処刑ENDがお似合いよ! さっさとこのお話から消えて……」
そしてエクターの言葉はそれ以上は続かなかった。
なんの前触れもなく、その姿は消えてしまったのだ。自分がアルクガードに投げかけた言葉のとおりに。
当代の華の神子は忽然と姿を消してしまった。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「おそらくは物語から放り出されたんだろうな」
大公邸の二人の寝室。騒動の後始末が終わればとっくに夜だった。
忽然と消えたエクターに三銃士達は呆然としていたが、そのまま役人に連行されていった。しばらくは牢屋のなかだろう。貴族の子弟だから、そう悪くもない窓に格子がはまった貴賓室だろうが。
「放り出された?」
寝台に腰掛けた、アルクガードの横にソルフォードが腰掛ける。二人の大切な蕾のついた枝は、バスケットの中、ベッドサイドの小卓におかれていた。
「私の知るゲームのエクターというのは、毒にも薬にもならない主人公だ。善良で優しく姿形は美しいが、それ以上でも以下でない。が、なぜか攻略対象の雄華達には好まれる」
いわゆる影の薄い主人公という奴だ。
「エクターの“中身”はこの世界を熟知していて、あらゆる攻略対象に愛想を振りまいて、彼らの好感度をあげた。
ただし、攻略対象外のうえに処刑END決定の私は“どうでもよかった”わけだ」
まあ、どうでもよかったわけではなく、むしろアルクガードに冷遇されていると見せつけ、遠回しの言葉で攻略対象達に泣きつけば、可哀想だと彼らの好感度はさらに上がったわけだが。
「実際、すべての男子の好感度をあげてのハーレムルートの先に最難関と言われる大公ルートが開かれるわけだけどなあ」
それをあのエクターは狙っていたのだろう。あたしの大公殿下なんてわめいていたし、彼女もまたソル様推しって奴か?
「どころが、お前が私と結婚するなんて“ルート外”の事態が起きた。予想外の展開に慌てたあれは、見事な演技で被り続けた良い子の仮面脱ぎ捨て、自分の信奉者である三銃士をあおり立てて、凶行に走ったわけだ。
だが、それは毒にも薬にもならない人の良い主人公がする行動ではない」
華の神子は善良であり、他人の幸せも祝福できる“良い子”でなけれぱならない。
「だから、この世界から放り出されたと?」
「あくまで憶測だけどな」
どちらにしてもエクターは忽然と消えた。
元の世界に戻ったのか? いや、転生したのなら、あちらでは死んでいるのか?
まあ、アルクガードにもわからないことだ。自分だってなんでこの世界にいるのやら……だ。
ふいに横に並んで座っていたソルフォードにぎゅうっと苦しいぐらいに抱きしめられた。突然のことで、アルクガードはその朱暗色の目を見開いたけれど、すぐに彼の不安に気付いて、その背中に手を回す。
「私は消えないよ」
エクターが消えたのなら、自分の最愛も……とこの夫が不安になっても仕方ない。ぽんぽんと幼子にするようにその広い背中を軽くたたく。
「確証はないけど、そもそも私は誰とも結ばれずに破滅処刑ENDの運命のはずだったんだ。それを覆そうと、三十六回払いの慰謝料をエクターに提示して、自分は修道院に籠もってひっそりこの世界の片隅で暮らそうと思っていたんだが……」
それがあれよあれよというの間に、この男にからめとられてしまった。本来なら結ばれるはずもない、ソルフォードに。
「攻略対象外の悪徳の黒薔薇が、光のプリンツと結ばれるなんて、あり得ないんだ。それでも、私はここにいるんだから、ここにいていいんだと思う」
「君が消えることなんて許さない。俺がこの腕に囲んで離さない」
「すごい執着。もしかしてお前のその想いが、私をこの世界に繋ぎ止めているのかも……」
それ以上の言葉は、愛しい男の唇の中に吸い込まれた。
271
あなたにおすすめの小説
悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)
当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話
屑籠
BL
サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。
彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。
そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。
さらっと読めるようなそんな感じの短編です。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
雪解けに愛を囁く
ノルねこ
BL
平民のアルベルトに試験で負け続けて伯爵家を廃嫡になったルイス。
しかしその試験結果は歪められたものだった。
実はアルベルトは自分の配偶者と配下を探すため、身分を偽って学園に通っていたこの国の第三王子。自分のせいでルイスが廃嫡になってしまったと後悔するアルベルトは、同級生だったニコラスと共にルイスを探しはじめる。
好きな態度を隠さない王子様×元伯爵令息(現在は酒場の店員)
前・中・後プラスイチャイチャ回の、全4話で終了です。
別作品(俺様BL声優)の登場人物と名前は同じですが別人です! 紛らわしくてすみません。
小説家になろうでも公開中。
【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。
cyan
BL
留学中に実家が潰れて家族を失くし、婚約者にも捨てられ、どこにも行く宛てがなく彷徨っていた僕を助けてくれたのは隣国の宰相だった。
家が潰れた僕は平民。彼は宰相様、それなのに僕は恐れ多くも彼に恋をした。
婚約破棄された悪役令息は隣国の王子に持ち帰りされる
kouta
BL
婚約破棄された直後に前世の記憶を思い出したノア。
かつて遊んだことがある乙女ゲームの世界に転生したと察した彼は「あ、そういえば俺この後逆上して主人公に斬りかかった挙句にボコされて処刑されるんだったわ」と自分の運命を思い出す。
そしてメンタルがアラフォーとなった彼には最早婚約者は顔が良いだけの二股クズにしか見えず、あっさりと婚約破棄を快諾する。
「まぁ言うてこの年で婚約破棄されたとなると独身確定か……いっそのこと出家して、転生者らしくギルドなんか登録しちゃって俺TUEEE!でもやってみっか!」とポジティブに自分の身の振り方を考えていたノアだったが、それまでまるで接点のなかったキラキライケメンがグイグイ攻めてきて……「あれ? もしかして俺口説かれてます?」
おまけに婚約破棄したはずの二股男もなんかやたらと絡んでくるんですが……俺の冒険者ライフはいつ始まるんですか??(※始まりません)
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
生まれ変わったら知ってるモブだった
マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。
貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。
毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。
この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。
その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。
その瞬間に思い出したんだ。
僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる