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6.嘲笑う聖女
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聖女の役目として重要なのが、国を守る結界の管理だ。
特別な魔力を操り、外敵から国を守る魔法を維持する。それは国民の安全を守る上で、とても大切な役目なのだ。
「でも、国内では魔物も出ている訳だし、この結界にどれ程の力があるものなのかしらね?」
「……」
聖女であるアレフィシア様は、珍しく私の仕事を見に来ていた。
彼女は気まぐれな性格であり、こんな風に仕事場に来ることもある。
ただはっきり言って、彼女の存在は邪魔でしかない。こちらの集中力が乱されるだけだ。
「この結界は、偉大なる初代聖女ハルメルタ・アルタイト様が悪魔を退けるために作った結界です。この国に悪魔が現れていないということは、この結界には意味があるということではないのでしょうか?」
「ああ、その話ね。ふふっ……」
黙っていると機嫌を損ねるので、私は返答をしておいた。
それに対して、アレフィシア様は笑みを浮かべる。それはなんというか、こちらを嘲笑うような笑みだ。
「クルミラ、あなたそんなおとぎ話を信じているの?」
「おとぎ話?」
「初代聖女の英雄譚なんて、誇張だらけのでたらめよ。あんなのを信じているなんて、あなた意外と子供っぽいのね?」
「……ええ、そうかもしれませんね」
アレフィシア様は、ハルメルタ・アルタイトの伝説をまったく信じていないらしい。
確かに私達の世代にとって、彼女の話は過去の話だ。もしかしたらそこには、偽りが含まれているかもしれない。
だが、悪魔の存在は実際に公的な文献に残っているものだ。それが嘘だと考えるのは、少し無理があるのではないだろうか。
何より、ハルメルタ・アルタイト様を貶めているのが不快だった。
少なくともアレフィシア様のような聖女が、彼女を批判することはできないだろう。
「悪魔なんてね。昔の人が作り上げた虚像に過ぎないのよ。大方、何かしらの魔物と勘違いしたって所でしょうね。まあ、これが大人の考えよ」
アレフィシア様は、私の前で口の端を歪めていた。心なしか、誇らしげに見える。
それはつまり、彼女は自分の考えを、かっこいい大人の考えだと思っているということなのだろう。
「……どちらにしても、この結界の維持は絶対です。それが国の方針ですから」
「方針ね? でも、何が起こるかなんてわからないのでしょう?」
「これを解いた結果、何かしらの不幸が起こるかもしれません。伝承によって、その確率の方が高いことがわかっています。それなら、わざわざ解く必要はないのではありませんか?」
「あなたは真面目なのねぇ」
アレフィシア様は、両手を挙げながら私の前に立った。
正直に言って、とても邪魔である。私は結界の調整を行っているのだから、前に立たないで欲しい。
「クルミラは、ハルメルタに憧れているの?」
「……尊敬するべき偉人だと認識しています」
「あはっ、本当に子供っぽい返答ね。でもね、あなたの考えていることは全て幻想でしかないのよ。ハルメルタなんて、大した聖女ではなかった。彼女はただの人間よ。まあ、私の祖先ではあるけれどねぇ」
私に対して、アレフィシア様は見下すような目を向けてきていた。
彼女が私を馬鹿にするのは、今に始まった話ではない。こんなことで心を乱していたらきりがないのである。
とりあえず私は、ため息をつく。何か反応をしないと、アレフィシア様がまた不機嫌になるためだ。
すると彼女は、勝ち誇ったような顔をする。それに私はただ呆れるのだった。
特別な魔力を操り、外敵から国を守る魔法を維持する。それは国民の安全を守る上で、とても大切な役目なのだ。
「でも、国内では魔物も出ている訳だし、この結界にどれ程の力があるものなのかしらね?」
「……」
聖女であるアレフィシア様は、珍しく私の仕事を見に来ていた。
彼女は気まぐれな性格であり、こんな風に仕事場に来ることもある。
ただはっきり言って、彼女の存在は邪魔でしかない。こちらの集中力が乱されるだけだ。
「この結界は、偉大なる初代聖女ハルメルタ・アルタイト様が悪魔を退けるために作った結界です。この国に悪魔が現れていないということは、この結界には意味があるということではないのでしょうか?」
「ああ、その話ね。ふふっ……」
黙っていると機嫌を損ねるので、私は返答をしておいた。
それに対して、アレフィシア様は笑みを浮かべる。それはなんというか、こちらを嘲笑うような笑みだ。
「クルミラ、あなたそんなおとぎ話を信じているの?」
「おとぎ話?」
「初代聖女の英雄譚なんて、誇張だらけのでたらめよ。あんなのを信じているなんて、あなた意外と子供っぽいのね?」
「……ええ、そうかもしれませんね」
アレフィシア様は、ハルメルタ・アルタイトの伝説をまったく信じていないらしい。
確かに私達の世代にとって、彼女の話は過去の話だ。もしかしたらそこには、偽りが含まれているかもしれない。
だが、悪魔の存在は実際に公的な文献に残っているものだ。それが嘘だと考えるのは、少し無理があるのではないだろうか。
何より、ハルメルタ・アルタイト様を貶めているのが不快だった。
少なくともアレフィシア様のような聖女が、彼女を批判することはできないだろう。
「悪魔なんてね。昔の人が作り上げた虚像に過ぎないのよ。大方、何かしらの魔物と勘違いしたって所でしょうね。まあ、これが大人の考えよ」
アレフィシア様は、私の前で口の端を歪めていた。心なしか、誇らしげに見える。
それはつまり、彼女は自分の考えを、かっこいい大人の考えだと思っているということなのだろう。
「……どちらにしても、この結界の維持は絶対です。それが国の方針ですから」
「方針ね? でも、何が起こるかなんてわからないのでしょう?」
「これを解いた結果、何かしらの不幸が起こるかもしれません。伝承によって、その確率の方が高いことがわかっています。それなら、わざわざ解く必要はないのではありませんか?」
「あなたは真面目なのねぇ」
アレフィシア様は、両手を挙げながら私の前に立った。
正直に言って、とても邪魔である。私は結界の調整を行っているのだから、前に立たないで欲しい。
「クルミラは、ハルメルタに憧れているの?」
「……尊敬するべき偉人だと認識しています」
「あはっ、本当に子供っぽい返答ね。でもね、あなたの考えていることは全て幻想でしかないのよ。ハルメルタなんて、大した聖女ではなかった。彼女はただの人間よ。まあ、私の祖先ではあるけれどねぇ」
私に対して、アレフィシア様は見下すような目を向けてきていた。
彼女が私を馬鹿にするのは、今に始まった話ではない。こんなことで心を乱していたらきりがないのである。
とりあえず私は、ため息をつく。何か反応をしないと、アレフィシア様がまた不機嫌になるためだ。
すると彼女は、勝ち誇ったような顔をする。それに私はただ呆れるのだった。
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