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16.弟とともに(ハルメルト視点)
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アルタイト王国の結界が崩壊した。それはあらゆる面において、非常に重大な失態であるといえるだろう。
まず考えられるのは、かつて国が相手をしていた悪魔のことだ。結界によってこの国に干渉できなくなった怪物達が、それによって動き始めたかもしれない。
さらに問題となるのは、他国のことだ。
今回の一件で、アルタイト王国の権威は落ちた。それによって、今後の外交に何かしらの変化が起こる可能性がある。
「過ちだった。あの愚物はもっと早く聖女の地位から引きずり下ろしておくべきだった」
故に俺は、後悔していた。
アレフィシアなどという愚か者が聖女の地位にあることを許すべきではなかった。いやそれ所か、あれにこの王城の内部に入られたのが、そもそもの間違いだったのだ。
「珍しいな。兄上がそこまで憤るなんて」
「む……」
「まあ、無理もないか。アレフィシアは、本当に愚か者だった。だからこそ、僕も彼女を見限った訳だしね……」
そんな俺に、弟のビブーリオはそのような言葉をかけてきた。
やはりこいつには、先見の明がある。もしもこの段階で、アレフィシアと繋がっていたなら、俺はこいつにもそれ相応の罰を与えただろう。
だが今この弟は、全面的に俺に協力している。奇妙なことではあるが、こいつはとても従順だ。
「そんな怖い顔をしないでくれ。俺は、兄上の味方だぜ?」
「無論、それはわかっている。だが理解できるかは別だ。つい最近まで、俺とお前は敵対していたのだからな」
「それは勘違いさ。競い合っていたというだけで、敵対していた訳ではない。俺はただ、兄上には敵わないと悟ったというだけなんだ」
ビブーリオは、俺に向かって笑みを浮かべていた。
だが俺は、それを純粋に受け取ることができない。いつからだろうか。弟の笑みに、何かしらの思惑が含まれていると思うようになったのは。
「王位は欲しかった。だけど、手に入らないならせめていい役職くらいには就きたい。俺の考えなんてものは、そんなものさ」
「野心がなくなったと信じろという訳か?」
「いや、なくなった訳じゃないって。今度の俺は、二番目を目指すのさ。目標が変わったというだけで、野心はあるさ」
この弟は、いつも飄々した態度をしている。故にその発言のどこまで真実なのかが、よくわからない。
しかし現状、この弟は味方と判断するしかないだろう。裏に何かあっても、それをわざわざ疑って、真なる敵を見失う訳にはいかない。
「まあ、お前の思惑はこの際いいだろう。今俺が対処しなければならない問題は別にある」
「それは賢明な判断だな……というか、そこに関しては俺が仮に兄上と敵対していたとしても協力するぜ。国の安寧はどのような立場であっても、俺達の共通の望みであるはずだ」
「……確かにそれは一理あるな」
ビブーリオの理論は、筋が通っていた。
手に入れるべき国がなくなってしまえば、元もこうもない。つまりこの一件に関して、俺達は全面的に協力関係を結ぶことができる。
「ならば話を始めるか」
「ああ、始めよう。少々心苦しいが、父上とアレフィシアを追い詰めるための話を……」
言葉とは裏腹に、ビブーリオは笑っていた。
やはり、この弟はどこか恐ろしい。それが味方である現状は、幸いといえるだろうか。
まず考えられるのは、かつて国が相手をしていた悪魔のことだ。結界によってこの国に干渉できなくなった怪物達が、それによって動き始めたかもしれない。
さらに問題となるのは、他国のことだ。
今回の一件で、アルタイト王国の権威は落ちた。それによって、今後の外交に何かしらの変化が起こる可能性がある。
「過ちだった。あの愚物はもっと早く聖女の地位から引きずり下ろしておくべきだった」
故に俺は、後悔していた。
アレフィシアなどという愚か者が聖女の地位にあることを許すべきではなかった。いやそれ所か、あれにこの王城の内部に入られたのが、そもそもの間違いだったのだ。
「珍しいな。兄上がそこまで憤るなんて」
「む……」
「まあ、無理もないか。アレフィシアは、本当に愚か者だった。だからこそ、僕も彼女を見限った訳だしね……」
そんな俺に、弟のビブーリオはそのような言葉をかけてきた。
やはりこいつには、先見の明がある。もしもこの段階で、アレフィシアと繋がっていたなら、俺はこいつにもそれ相応の罰を与えただろう。
だが今この弟は、全面的に俺に協力している。奇妙なことではあるが、こいつはとても従順だ。
「そんな怖い顔をしないでくれ。俺は、兄上の味方だぜ?」
「無論、それはわかっている。だが理解できるかは別だ。つい最近まで、俺とお前は敵対していたのだからな」
「それは勘違いさ。競い合っていたというだけで、敵対していた訳ではない。俺はただ、兄上には敵わないと悟ったというだけなんだ」
ビブーリオは、俺に向かって笑みを浮かべていた。
だが俺は、それを純粋に受け取ることができない。いつからだろうか。弟の笑みに、何かしらの思惑が含まれていると思うようになったのは。
「王位は欲しかった。だけど、手に入らないならせめていい役職くらいには就きたい。俺の考えなんてものは、そんなものさ」
「野心がなくなったと信じろという訳か?」
「いや、なくなった訳じゃないって。今度の俺は、二番目を目指すのさ。目標が変わったというだけで、野心はあるさ」
この弟は、いつも飄々した態度をしている。故にその発言のどこまで真実なのかが、よくわからない。
しかし現状、この弟は味方と判断するしかないだろう。裏に何かあっても、それをわざわざ疑って、真なる敵を見失う訳にはいかない。
「まあ、お前の思惑はこの際いいだろう。今俺が対処しなければならない問題は別にある」
「それは賢明な判断だな……というか、そこに関しては俺が仮に兄上と敵対していたとしても協力するぜ。国の安寧はどのような立場であっても、俺達の共通の望みであるはずだ」
「……確かにそれは一理あるな」
ビブーリオの理論は、筋が通っていた。
手に入れるべき国がなくなってしまえば、元もこうもない。つまりこの一件に関して、俺達は全面的に協力関係を結ぶことができる。
「ならば話を始めるか」
「ああ、始めよう。少々心苦しいが、父上とアレフィシアを追い詰めるための話を……」
言葉とは裏腹に、ビブーリオは笑っていた。
やはり、この弟はどこか恐ろしい。それが味方である現状は、幸いといえるだろうか。
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