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17.父と対峙して(ハルメルト視点)

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「さて父上、我々は話しをしなければなりません。議題は当然、今回の忌む出来事について、です」
「うむ……」

 俺はビブーリオとともに、父上の元を訪ねていた。
 父上は、重苦しい表情をしている。当然のことながら、今回の事件に対して色々と思う所があるのだろう。
 しかしながら、それが俺達の望んでいるような思う所とは限らない。むしろ、その逆という可能性すらある。

「今回の件は、聖女アレフィシアの大きな失態です。彼女は結界の維持管理に失敗した。その認識に相違はありませんか?」
「……」

 俺の質問に、父上は黙った。
 それは、何かを考えているように見える。

 ここでアレフィシアの非を認めてくれるなら、こちらとしてもありがたい。
 当然のことながら、父親を追い詰める趣味などない。できることなら、そのようなことは避けたい所だ。

 しかし俺は、そうではないことを心の中で悟っていた。
 この父上は、恐らくアレフィシアの非を認めない。はっきりと言って、父上のあれに対する寵愛は異常なのだ。

「今回の件は、聖女補佐であるクルミラが犯した罪だ」
「……ほう?」
「アレフィシアは、クルミラに聖女としての仕事を任せていたらしい。そこで彼女は失敗して、結界が崩壊した。そういうことだ」

 父上の言葉に、俺は一度ため息をつく。
 ビブーリオも同じ気持ちなのか、呆れたような顔をしている。
 やはり父上は、アレフィシアの肩を持つつもりであるようだ。ここまできて、そのようなことを言うとは、往生際が悪いことこの上ない。

「結界の管理は、聖女の仕事であるはずです。それをどうして、聖女補佐クルミラが担うというのですか?」
「アレフィシアは体調不良だったそうだ」
「なるほど、しかしそれではアレフィシアの非は変わりません。彼女は上司として部下に命令を下した。自分が遂行するべき任務を、補佐にやらせた。それに関して責任を取るというのも、また当然のことではありませんか?」
「何を……」

 俺は父上を追い詰めるために、敢えてそのような理論を唱えてみた。
 父上の目的は、アレフィシアを無罪放免にすることだ。ならば俺は、その退路を塞ぐだけだ。

 もちろん、今回の件でクルミラに何かしらの罰を与えるつもりはない。結界を張り直した功労者である彼女に、そのような泥は一切被らせない。それは絶対だ。

 ただここはあくまで、父上を追い詰める場である。故に、全ての前提を無視して、父上が逃げられないようにする。

「父上、部下の失敗というものは上司の失敗なんですよ。アレフィシアだって、それはわかっているはずでしょう。彼女は貴族で、聖女だ。身分も役職も、責任を取るべき立場にある」
「……アレフィシアの期待に応えられなかったクルミラが、悪いのではないか」
「ですが、体裁も悪いですよ。アレフィシアは部下に全ての責任を擦り付ける。そんな印象を人々に与えてしまう」

 ビブーリオは、俺に続いて父上を追い詰めた。
 どうやら奴は、俺の意図をわかっているらしい。それはありがたい。俺一人で何か言うより、兄弟で言った方が父上には効く。

「ならばこれは、クルミラが勝手にやったことだ。彼女の独断であるならば、アレフィシアに非はないということになる」
「なるほど、それが父上の考えという訳ですか……」

 俺は再び、ため息をつく。
 父上は、どこまでも落ちているようだ。かつてはもう少しまともだったはずだが、長きに渡る寵愛によって狂ってしまったということだろうか。
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