無実の罪で国外追放された侯爵令嬢は、隣国の王子に助けられました。

第21話 突然の訪問

　私は今日も、屋敷の自室で過ごしていた。
　基本的に、私はこの屋敷から出ることはできない。私が町に出ていくと、色々と目立ってしまうからだ。
　だから、私は一日の大半をこの部屋で過ごしている。そうすると、だんだんと窮屈に思えてしまうものだ。

「贅沢よね……」

　しかし、そのようなことは贅沢である。
　私は罪人で、本来ならこのような待遇ではないはずなのだ。そのため、外に出られないからといって色々と言うべきではない。

「でも……」

　そう頭でわかっていても、外に出られないのは苦しいものである。
　特にやることがないことも、それに拍車をかけていた。
　ここでは、本を読むくらいしかやることがない。何か仕事でもあれば違ったのだろうが、私にできる仕事など今はないので、どうしようもないのだ。

「あら？」

　私がそんなことを考えていると、部屋の戸を叩く音が聞こえてきた。
　どうやら、誰かが訪ねて来たらしい。

「ミルトナ様、おはようございます」
「え？」

　戸を開けた私は、思わず驚いてしまった。
　なぜなら、目の前にいたのがアドナス様だったからである。
　アドナス様がここに尋ねくることは変なことではない。だが、そういう時は事前に知らせがあるものだ。
　しかし、今回はそのようなものはなかった。そのため、とても驚いてしまったのだ。

「アドナス様、どうしてここに？」
「実は少し時間が空いたので、訪ねて来たのです。ここは元々、僕がそういう時のために来る場所ですから……」
「あ、そういえば、そうでしたね……」

　私の質問に、アドナス様はそう答えてくれた。
　そういえば、ここは元々アドナス様の別荘だ。だから、アドナス様が何も言わずやってきても、別におかしくはないのである。

「もしかして、それで挨拶に来てくださったのですか？」
「ええ、僕が急にいたら驚くと思いまして……」
「そうだったのですね。それは、ご丁寧にありがとうございます。それに、すみません。迷惑をかけてしまって……」
「いえ、気にしないでください」

　どうやら、アドナス様は私が驚かないように挨拶しに来てくれたらしい。
　それは、とても親切なことである。そもそも、ここはアドナス様の別荘であるのに、色々と気を遣ってもらって申し訳ない。
　しかし、一つ疑問も覚えた。そのことを言うだけなら、使用人の誰かに頼めばよかったのではないのだろうか。

「でも、それなら使用人の誰かに頼めばよかったのではないでしょうか？」
「いえ、もう一つ伝えたいことがあるので、僕が行くことにしたのです」
「伝えたいことですか？」

　私の質問に、アドナス様はそのように答えてくれた。
　他にも私に伝えたいことがあったから、自分で来たらしい。
　それは、アドナス様が直接言わなければならないようなことなのだろう。もしかして、事件のことかもしれない。

「少し歩きませんか？」
「え？」
「ずっと中にいるのも、辛いでしょう？　屋敷の周りなら、歩いてもそれ程問題はありません。だから、一緒に歩きませんか？」

　私の予想に反して、アドナス様はそのようなことを言ってきた。
　それは、私にとって嬉しい提案である。

「わかりました。ご一緒させてください」
「ええ、行きましょう」

　こうして私は、アドナス様と少し歩くことになるのだった。