7 / 19
7.続く訪問
しおりを挟む
「……失礼する」
最初に訪ねてきた時から、ナーゼル様は何度か私を訪ねて来るようになった。
結婚してから一度も私を訪ねていなかった彼が、急にここまで訪ねて来るようになったというのは、驚くべき変化である。
「……どうぞ、入ってください」
「ああ」
しかしながら彼は、特に私に何も言ってはくれない。訪ねて来て、様子を聞いて私が特に変わりないと答えると帰っていくのだ。
私の様子を事務的に確認しているということなのかもしれない。ただ、それにしては私の所に来る頻度が多いような気がする。早ければ一日置きに、遅くても三日置きに彼は訪ねて来るのだ。
「調子はどうだ?」
「……」
彼はいつも通り、淡々と質問を口にする。
それに対して私は、いつも同じ答えを返していた。
だが、このままではいつまで経っても前に進まないような気がする。この奇妙な会合を解き明かすためにも、私は一歩を踏み出すべきなのだろう。
「……ナーゼル様は、一体何をしに来ているのですか?」
「む……」
という訳で、私はそのような質問を口にしていた。
彼は私の質問に表情を歪める。なんというか、彼は少し辛そうだ。
「様子を見に来ている」
「それだけですか?」
「何か不満でもあるのか?」
「不満があるという訳ではありません。しかし、意図がわからないのです。あなたがここにここまで高頻度で来るようになった訳がわかりません」
「……」
私の言葉に、ナーゼル様は言葉を詰まらせていた。
彼がここに来る理由は、私に話せないようなことなのだろうか。
「……その理由を今は話すことができない」
「……今は?」
「……何れ話すことができる日が来るはずだ。このまま順調にことが進めばだが」
ナーゼル様の言葉に、私はとても驚いていた。
彼の穏やかな表情からは、優しさのようなものが読み取れる。その優しさが私に向けられているという事実に驚きが隠せない。
今までの彼の態度と今の彼の態度には、明らかな差がある。その差はやはり私にとっては簡単には受け入れられないものだ。
「ナーゼル様、あなたは私のことをどう思っているのですか?」
「む……」
私は思わず彼に問いかけていた。それは今までずっと疑問に思っていたことだ。
彼は私のことを疎んでいる。私はそう考えていた。しかしその考えにも正直確信があった訳ではなかった。彼が私に会いに来ないからそう思い込んでいたが、そうではない可能性も心の何処かでは考えていたのだ。
だから私は知りたかった。ナーゼル様にとって、私は一体どういう存在なのかを。
「……あなたは俺の妻だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「それは……形式上の関係性ではありませんか」
「今の俺にそれ以上を求めないでもらいたい」
「……え?」
ナーゼル様は、私から目をそらした。
彼の態度は少し弱々しい。いつもは毅然とした態度なので、なんというか変な感じだ。
しかしそんな態度になる程に、答えたくないということなのだろう。それ程に私の質問は、彼の心を揺さぶるものなのだろうか。
「……わかりました。それなら今は聞きません。ただそう言うということは、何れは真実を聞かせていただけるのですよね?」
「もちろんそのつもりだ。全てが上手くいけばという話ではあるが」
私の言葉に対して、ナーゼル様はとても真剣な顔をしていた。そこには決意のようなものが宿っている気がする。
なんだか私は、少し怖くなっていた。彼の態度はまるで、これから何かしらの脅威に立ち向かうかのようだったからだ。
そして私は、明確な脅威を知っている。まさか彼は、それに立ち向かうつもりなのだろうか。
「よくわかりませんが……どうかお気をつけて」
「……ああ」
結局私は、彼にそのように言葉をかけることしかできなかった。
色々と話したが、最終的に私は何もわかっていない。だからそのような抽象的な言葉しかかけられなかったのだ。
だが、そんな私の言葉にナーゼル様は力強く頷いてくれた。だからきっと私の予想は、間違っているという訳でもないのだろう。
最初に訪ねてきた時から、ナーゼル様は何度か私を訪ねて来るようになった。
結婚してから一度も私を訪ねていなかった彼が、急にここまで訪ねて来るようになったというのは、驚くべき変化である。
「……どうぞ、入ってください」
「ああ」
しかしながら彼は、特に私に何も言ってはくれない。訪ねて来て、様子を聞いて私が特に変わりないと答えると帰っていくのだ。
私の様子を事務的に確認しているということなのかもしれない。ただ、それにしては私の所に来る頻度が多いような気がする。早ければ一日置きに、遅くても三日置きに彼は訪ねて来るのだ。
「調子はどうだ?」
「……」
彼はいつも通り、淡々と質問を口にする。
それに対して私は、いつも同じ答えを返していた。
だが、このままではいつまで経っても前に進まないような気がする。この奇妙な会合を解き明かすためにも、私は一歩を踏み出すべきなのだろう。
「……ナーゼル様は、一体何をしに来ているのですか?」
「む……」
という訳で、私はそのような質問を口にしていた。
彼は私の質問に表情を歪める。なんというか、彼は少し辛そうだ。
「様子を見に来ている」
「それだけですか?」
「何か不満でもあるのか?」
「不満があるという訳ではありません。しかし、意図がわからないのです。あなたがここにここまで高頻度で来るようになった訳がわかりません」
「……」
私の言葉に、ナーゼル様は言葉を詰まらせていた。
彼がここに来る理由は、私に話せないようなことなのだろうか。
「……その理由を今は話すことができない」
「……今は?」
「……何れ話すことができる日が来るはずだ。このまま順調にことが進めばだが」
ナーゼル様の言葉に、私はとても驚いていた。
彼の穏やかな表情からは、優しさのようなものが読み取れる。その優しさが私に向けられているという事実に驚きが隠せない。
今までの彼の態度と今の彼の態度には、明らかな差がある。その差はやはり私にとっては簡単には受け入れられないものだ。
「ナーゼル様、あなたは私のことをどう思っているのですか?」
「む……」
私は思わず彼に問いかけていた。それは今までずっと疑問に思っていたことだ。
彼は私のことを疎んでいる。私はそう考えていた。しかしその考えにも正直確信があった訳ではなかった。彼が私に会いに来ないからそう思い込んでいたが、そうではない可能性も心の何処かでは考えていたのだ。
だから私は知りたかった。ナーゼル様にとって、私は一体どういう存在なのかを。
「……あなたは俺の妻だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「それは……形式上の関係性ではありませんか」
「今の俺にそれ以上を求めないでもらいたい」
「……え?」
ナーゼル様は、私から目をそらした。
彼の態度は少し弱々しい。いつもは毅然とした態度なので、なんというか変な感じだ。
しかしそんな態度になる程に、答えたくないということなのだろう。それ程に私の質問は、彼の心を揺さぶるものなのだろうか。
「……わかりました。それなら今は聞きません。ただそう言うということは、何れは真実を聞かせていただけるのですよね?」
「もちろんそのつもりだ。全てが上手くいけばという話ではあるが」
私の言葉に対して、ナーゼル様はとても真剣な顔をしていた。そこには決意のようなものが宿っている気がする。
なんだか私は、少し怖くなっていた。彼の態度はまるで、これから何かしらの脅威に立ち向かうかのようだったからだ。
そして私は、明確な脅威を知っている。まさか彼は、それに立ち向かうつもりなのだろうか。
「よくわかりませんが……どうかお気をつけて」
「……ああ」
結局私は、彼にそのように言葉をかけることしかできなかった。
色々と話したが、最終的に私は何もわかっていない。だからそのような抽象的な言葉しかかけられなかったのだ。
だが、そんな私の言葉にナーゼル様は力強く頷いてくれた。だからきっと私の予想は、間違っているという訳でもないのだろう。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
1,168
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる