勝手に期待しておいて「裏切られた」なんて言わないでください。

木山楽斗

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15.複雑な感情

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「まあ要するに、あんたも俺も優秀な上の兄弟に比較されてきたという訳か」
「ええ、そういうことになりますね……」
「あまりいい感じはしないよな……そういうことは」

 レオールさんの言葉に、私はゆっくりと頷く。
 兄弟と比較されるのは、とても苦しいことである。私はそれによって、散々被害を受けてきた。
 レオールさんも、多かれ少なかれそういう経験があったのだろう。その表情からは、それがしっかりと伝わってくる。

「姉と比較されるのが、私は嫌でした。私だって頑張っているのに、どうしてそんなことを言われなければならないのか。そんな風に思ってしまうんです」
「ああ、結局の所、そういう奴らは俺達のことなんて見ていないんだろうな……」
「そうですね。確かに彼らは皆、お姉様にしか興味がなかったのかも……」

 私の両親は、常にお姉様を基準に物事を考えていた。
 二人は、私という存在を見ていなかったような気がする。お姉様より勝っているか劣っているか、それが二人の判断基準だ。
 もしかしたら二人は、イルフェリアという個人には一度も目を向けていなかったのかもしれない。

「……私は、そうやってお姉様と比べてくる人達が嫌いでした。それ自体はきっと、おかしくない感情だとは思うんです。ただ同時に私は、お姉様にも同じような感情を抱いていました」
「……」
「お姉様は、私にとても優しかったんです。でもそれでも、思わずにはいられなかった。お姉様さえいなければ、私がこんな扱いを受けることはなかったんじゃないかって……」

 私は、ずっと抱いていた心の闇をレオールさんに打ち明けていた。
 お姉様に対して、私は複雑な感情を抱いていた。彼女を心の支えとしながら、同時に恨みを向ける。私の心は、矛盾していたのだ。

「気持ちはわかる……別にそれは、おかしいことなんかじゃないさ」
「そうなのでしょうか?」
「ああ、当たり前の感情だ。俺だって、そういう感情は抱いたことはある。いや、今でも抱いているのかもしれないな。俺は兄貴に、負けたくない」
「負けたくない?」
「俺にとって兄貴は、目標でありライバルでもある。単純に好きとか嫌いとかそんな簡単な関係じゃないだよ。兄弟っていうのは……もっと深い部分で、俺達は繋がっているんだ」

 レオールさんは、そう言って私の目を見てきた。
 それは暗に、私も同じなのではないかと問いかけてきているのだろう。
 彼の言ったことに、完全に納得できたという訳ではない。しかしながらこれを聞いたおかげで、私は心を少しだけ整理できたような気がした。
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